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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第一章 輪廻

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第50話 ルーナと超えられない背中

「死ぬまで殺し続ける。そんな時代は我らの代で必ず終わらせる」


兵士となり戦う小さな子供を斬りながら、シグルズ陛下は涙を流してそう言った。


シグルズ陛下が、私と同じ四大将軍と呼ばれていた頃から、

彼は誰よりも強く、誰よりも戦いを憎んでいた。



他者よりも強いことを証明することだけが意味を持つこの世界で、

シグルズ陛下の涙の意味も、戦いを終わらせる理由も最初は理解出来なかった。


殺すためだけに強くなり、殺すことでしか生きていけないと思っていたんだ。


でもシグルズ陛下だけは違う目線で世界を見ていた。


強者のみが生き残る世界から、弱者が希望を持てる世界へ。


夢物語だと思いながら、私は理想を語る陛下に惹かれていった。



「ルーナよ。残念だ。負けた将軍に用はない」

惜敗した私にそう言った国王が剣を抜く。


次の瞬間、飛んでいたのは国王の首だった。


「ルーナは私の理想のために必要でね。

不要なのはあなただ」

そう言って、彼は私のために国王になるのが今だと決断してくれたんだ。


彼の功績は素晴らしく、その武功から彼の国盗りに異論を挟む者などいない。


その瞬間から、私の剣はシグルズ陛下のために振るわれると決まったんだ。


彼の理想の実現のために私の全てを捧げようと。


それから私は陛下に鍛えられ、常勝将軍と呼ばれるようになっていった。


へこたれる私に陛下がよく言っていた。

「ルーナよ!今この瞬間に限界を超えろ!私を超えて来い!」

命懸けの戦いの中で、私は幾度となくその言葉に救われた。



そうだ、あの日から決まっていたんだ。


あの日、私が死ぬ運命を自らが国王となることで変えたシグルズ陛下。


私は今、彼がいなくなり彼の理想が潰える運命を女王となることで変える。


この戦い、必ず勝ち、シグルズ陛下の意思を紡ぐ。



神速と言われた私が、前を進むはるま様を捕らえられない。


シグルズ様とは身体の大きさから何もかも違うのに、

シグルズ陛下がそこにいると思わせる少年。


その不思議な少年に導かれるように、

行く手を阻む各陣営からの攻撃をかわしながら王座を目指す。


はるま様は矢を剣で次々落としていく、まさしくあれはシグルズ陛下の剣筋だった。


増え続ける矢に、はるま様の剣がどんどん早くなる。


シグルズ陛下よりも早いかもしれない。


そう思っていると、ゆうな様へ大量の矢が放たれた。


ザルワーン女王の矢がその矢を落とす。


矢で矢を落とすような芸当、ただの小娘ではないと思っていたが素晴らしい。


強さで序列が決まるこの世界で第二王女と言われるのは伊達ではなかったんだ。

しかし、それなら、第一王女はどれほどの人だったのか。


私が彼女らより上位に立てるだろうか?

私で良いのかという思いが再び私を覆っていた。


ゆうな様のような知恵もない。はるま様のような圧倒的な力もない。


矢の腕ではザルワーン女王にも劣る私が、シグルズ陛下の代わりに世界の覇者に?


笑わせる。私はただの将軍の一人に過ぎない。


「ゆうなちゃん!みんなの真ん中に入って!隊列から外れると狙われるよ!」


ゆうな様のことになるとやはり平常ではいられなくなるのか。

はるま様が焦り交じりで叫んだ瞬間、取りこぼした矢がはるま様の右肩を射抜いた。


「はるま様!」

はるま様はこの大会の開催の条件としてイフリートやベヒーモスを出せない。


「はるま様!後ろ!」

刺さった矢に怯んだ瞬間、後方の矢を見逃したはるま様の左腰に再び矢が刺さる。


その瞬間、目の前が真っ白になった。


隙を見つけたとばかりに数十の矢が一斉にはるま様目掛けて放たれた。


ザルワーン女王の矢がいくらかの矢を落とすがそれでも足りない。


私の剣も届かない…


「ダメ!間に合わない!」



「私は、もうすぐ封印され眠りにつくが心配するな。

私の代わりにこの世界を導く者が、この身体より現れる。

彼ならきっと、私以上の成果を上げてくれるだろう」


「陛下がいなくなっては私の存在する意味が無くなります。

なにとぞ、なにとぞ。私達を御導き下さい!」


どうにか出来ないかと取り乱す私に、陛下は笑いながら言った。

「ルーナよ。私の思いを一番知り、一番大切に思ってくれたのはお前だったな。

ルーナよ。かの者を支え、必ずや俺達が作りたかった世界を見せてくれ」


はるま様を助けることを決めた。

はるま様がシグルズ様に思えたことも理由の一つだ。

しかし、何よりもシグルズ様がお帰りになると信じていた。


はるま様までいなくなっては、シグルズ様がお帰りになる身体が無くなる。

その可能性が永遠に失われてしまう。

それだけではない、私は既にはるま様も失いたくないと思っているんだ。



「シグルズ様!はるま様!私が死ぬまでは、あなた様の存在を潰えさせはしない!」


はるま様に教えて頂いた魔法、小さな水の塊を飛ばす程度、

パリィにも劣る威力だったあれにかけるしかない。


全身の魔力を集中させる。

全身の血管が切れる感覚、内部から身体が吹き飛びそうだ。

私は、こんな高出力の魔法は知らない。教えてもらってない。

教えてもらっていないがやるしかない!

「私は今!限界を超える!陛下に届かないなら私の命も喰らいつくせ!」


「水よ!陛下を守って!」

身体が張り裂けそうな魔力の出力を感じる。

その魔力が津波に変わり、

私達を中心に辺りの木々や全ての生き物が流されていった。


「主よ。無茶をする」


振り返ると、ドラゴン?巨大な蛇が私を主と呼んでいる?

「いや、神話に出てくる龍か?」


「また転生したのか主よ。我が名はリヴァイアサン、水の精霊の一柱よ」


「水の精霊?私が主?あなたは私に仕えてくれるってこと?」


「そうだ。魂の盟約に従い、主に仕えよう」


「あ!そ、そうだ。はるま様!ご無事ですか?」


「これぐらいなら大丈夫、動けないほどじゃない」


自分の傷に傷薬を塗り込みながら、はるま様は立ち上がった。


「俺の怪我のせいで少し遅れた。ごめんね。先を急ごう」


「は!この龍のことはのちほど」


そのまま走りきった。


リヴァイアサンという予想外の切り札を得た私達を、阻める者はいなかった。

初戦は私達の勝利だった。

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