第49話 ルーナとシグルズの意思
「ぎゃああああああ!助けて~~!」
はるま君がパンツ一丁で狼の群れに追いかけられている。
「いやはや訓練に精が出るのお。しかしあれはなんのために…」
結局音を上げた国王達全員と交渉をする機会を得られた私達は、
阿修羅王決定戦を行うことを取り決めることが出来た。
国すら関係なく12人一組のチームで様々な競技を行う。
オリンピックのようなものだ。
国王選抜競技をはじめ、国防や経済、農業といったさまざまな責任者を、
それぞれの競技で決めるのだ。
各国の国王はもちろん出場を決めたが、
国王を援護するためのチームや、下剋上を狙うチーム、
それぞれに思惑を持った五万を超えるチームが出場することになった。
私達が狙うのはもちろん、
修羅界最強の阿修羅王の称号を得てルーナさんを女王にすることだ。
意外だったのはザルワーンの女王をはじめ、
通ってきた国々の国王が私達のチームに加わったことだ。
戦うことすら無意味だと判断させるほど、はるま君が怖かったみたいで、
敵対して危険を冒すより、はるま王に従いたいとのことだった。
はるま君は王にならないと伝えると、
少し悩んでいたけど、気持ちは変わらずルーナさんを支えると約束してくれた。
ルーナさんはあれから口数が少なくなった。
何か悩んでるみたいだ。
今も一心不乱に剣を振っている。
きっと、まだ国王になることに対する迷いがあるんだろう。
この修羅の世界では、ほとんどの人が命懸けで勝ちを取りに来る。
迷ってるルーナさんが戦っても勝てないんじゃないかと心配になる。
でも、私にはかけてあげる言葉が見つからなかった…
パパならこんな時何を言うんだろう。
パパは色んな人に助言を求められる人だった。
パパはどんな気持ちで人に助言したりしていたんだろう。
そんなことを考えながら日だけが変わっていく。
どうしたら良いかわからない私は、ママに聞いてみた。
「ねえママ、パパに話を聞いて欲しいって人がたまにうちに来てたよね」
「そうね。パパもたくさんの苦労をした人だからね。
大変なことがあった人とか苦しんでる人がアドバイス欲しくて来てたわね」
「人にアドバイスするのって難しいよね。
声をかけてあげたい人がいるんだけど、
何を言ってあげれば良いのかわからなくて…」
「なるほど…パパならそうね…
たぶん言うことはいつも同じだったと思う。
何が大切なのか?何を譲れないのか?欲しい物のために何を犠牲に出来るのか。
たぶんパパのアドバイスの焦点はそこだけね」
「死ぬ気で頑張れるのか。ケガするぐらいであきらめるのか。
どれぐらい頑張れるのかってことかな?」
「パパの好きな言葉でね。天秤にかける物を間違えるなってのがあるのよ」
「お金と命を比較するとかは間違ってるみたいな言葉だっけ?」
「そうなんだけど、
パパはそもそも天秤に乗せる対象はそれで良いのか?って意味で使ってたわね」
「天秤に乗せる対象?」
「会社が倒産しそうでって人がいたとするでしょ?
そもそも会社を倒産させないことに神経を集中させても良いのか?ってことね」
「家族を守るために会社をやってるなら、
大切なのは会社を倒産させないことじゃなくて家族を守ることだろ?
従業員を守るためだとしたら、
従業員が幸せになれば会社は倒産しても良いだろ?ってね」
「会社を守るために命を懸けちゃったら家族を守れないだろ?ってことかな」
「そうね。会社は方法のはずなのに、
それを守るために本当に守るための家族が無くなったらどうする?
家族のために仕事を頑張る。頑張った結果、身体を壊す。
守るべき家族はどうやって守るの?」
「なんかわかった!
家族を守ると言っても、今弟の命を守りたいのか、
将来にわたって弟が幸せになる世界を守りたいのかでも変わってくるね!」
「そうね。
今この瞬間に問題だと思ったことを排除するのではなく、
将来にわたって目指すべき先のために問題になることを排除する。
少なくとも、
これから先の未来を考えずに短絡的に今さえ良ければだけで判断する人じゃないわ。
100年後、自分が死んだ後のことも考えるような人よ」
ナルとマーリンを封印した時、
きっとそんなことぐらいと思えるほどの何かがあったんだ。
パパの判断を信じてるから、好奇心でパパの行動を台無しにするわけにはいかない。
でも私は、何があったのか知りたい。
天狗さん達が知ってるパパの話もまた聞きたいな。
それからも、アドバイスは出来ないまま一週間ほどが過ぎた。
「痛い痛い痛い!助けて~!」
下駄に羽織袴姿のはるま君がカラスの大群につつかれている。
私は笑いながら見ているが、ルーナさんは真剣な顔でにらみつけるように見ている。
「やっぱりまだ悩んでる?」
そう聞くと、ルーナさんは少し悩んで首を振った。
「迷っていると言うよりは…
私の望みは陛下にお仕えすること、
やはり私が女王というのは違うと感じています」
「ルーナさんの望みって、シグルズさんに仕えるってどういうこと?」
「陛下の望まれた世界を作るために共に戦うことでしょうか」
「ルーナさん以外の人が王になった後、
シグルズさんが目覚めるのを待っていればそれは叶いそう?」
「はるま様ならばあるいは」
私は笑ってしまった。
「はるま君が王様?無い無い」
「そんなことはありません!はるま様の本気の戦いを見ていないから!」
「姉ですからね。はるま君が強いことも、
きっと国を導けるほどの力を持っていることも知ってるよ。
でも無理だよ」
「そ、それは何故ですか?」
「はるま君はね。誰かが理想に思う世界を作るために尽力出来ない。
はるま君が支配する世界、
それはきっとパパが目指した世界。はるま君がパパが目指してると思った世界よ。
他の誰も幸せになれなくても、
はるま君がそれを正しいと思った世界なら、
はるま君は世界中が闇に覆われることになってもそれを目指すと思う」
「それでもきっと、
はるま様が目指される先には民の笑顔があふれていると私は信じます」
「そうかもしれないね。いやきっとそうだと思う。でもね…」
私はパパの言葉を思い出した。
「信じると言うのは、裏切られても良いってことよ?
はるま君が世界を滅ぼすならそれでもかまわないと思える?
私は思えるわ。だからはるま君を信じてる。
はるま君が自分の快楽で人を殺すような人間に落ちても、
どれほどの恐怖をこの世界に落としたとしても、
私は信じるし、一緒に地獄に落ちてあげる。その覚悟がルーナさんに出来る?
あなたの信じるシグルズさんの目指した世界って、どんな世界?」
「それは!民が殺される心配をしなくても良い世界…」
「はるま君は…いえ私達は誰かの理想の世界を目指さない。
パパの目的が分かった時、
もしかしたら私達はこの世界の最悪の厄災になるかもしれない。
だから私達は王になっちゃいけないし、なろうとしちゃいけないの」
「はるま君が子供に思えるぐらい強い恐竜と呼ばれる人がいるんだけどね。
その人はある王様に仕えてるの。文字通り命懸けでね。
でもその人はね。
王様の理想を叶えるために必要ならば、王様を殺しても良いって考えてるのよ」
「陛下の理想のために陛下を殺す…私には考えられません」
「そう、考えられないよね。
でもね。一番大切な物を守るってそういうことだと思うんだよね。
シグルズさんが目指したものの為に命をかけることもいとわないと決めたなら、
ルーナさんがやるべきことは、その理想のために一緒に命をかけることじゃない?
自分の存在をかけてでもやるしかないんじゃない?」
ルーナさんが顔を上げて大きく息を吸った。
「そうですね。わかりました。やります。
私が信じるシグルズ殿下のために、必ず私が勝ちます!」




