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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第一章 輪廻

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第47話 おねえさんと魂の盟約

「やはりなんどやっても彼の口に入れた物は無くなってしまいます」


やはり彼自身がどこか違う空間をつなげていることは間違いない。


「しかし、一方通行では情報が増えませんし何か違う方法を考えないことには…」


「そうよね。一体どうしたら良いのか。

あちらの情報が少しでもわかれば策も練れるんだけど…」


「あの…」


「どうしたの?」


「お腹の辺りから…血ですか?」


「あ…これはなんでもないわ。古傷が開いたのよ」


「古傷って…ちゃんと治療した方が良いですよ」


「大丈夫よ。後で病院に行くわ」


麻酔も無しで自分で縫ったものだからやっぱり甘かったようね。

誰にも知られるわけにいかなかった。自分でお腹を切るしか。

腕や脚では事故なんかで切れる可能性もある。お腹なら命懸けで守れる。


少し困っているのは、

そこにあるのを確認するようにお腹を触るのが癖になってしまった。

そのせいで傷が開いたのかもしれない。



「痛っ!」

突然の痛みにお腹を押さえる。


「大丈夫ですか?」

化膿した?殺菌等はかなり気を使った。

手術道具も本物だし、映画のように焼酎で消毒なんて無茶はしてない。


やっぱり医者でもないのに腹を切るなんて無茶だったかな。


なんだこれは?重い、痛いと言うより熱い。引き裂かれそうだ。

何かがうごめいてる感じ、得体のしれない物を軽率だったか?

他に方法は無かったし…意識を傷口に集中した。


でも違う。発生源は傷口じゃない気がする。

なんだろうこれ…


別の何かがいる。自分の中に何かが…


「あ~~~~~!」

全身から何かが抜ける気がした。

何事もなかったかのように、気分がスッとしてる。


「あ、あ、あ…」


「どうしたの?」

研究員を見ると、青ざめた顔で私の後ろを指さしていた。


振り返りながら私は言葉を失った。


「なんなの…これ」


「我が主、倉庫番殿よ息災であったか?」


神話で語られる龍に見えるそれは私に語り掛けた。


いや私か?と思い、思わず振り返る。私と部下の研究員だけだった。

「ある…じ?

私に…言ってるの?あなたは誰?」


「ふむ、主よ姿だけでなく記憶まで失われたか?

我はリヴァイアサンである」


「私はあなたを知らない」


「そうか。主は転生されたか。

今世もよろしく頼もうぞ」


なんだこの龍は、龍…なんだよね?


「リヴァイアサン?最古の神みたいな存在だっけ?」


「そうだ。リヴァイアサンだ」


「転生ってことは、あなたは私の前世と契約したってこと?」


「倉庫番殿がどうなさったのかは我は知らない」


「あなたは…私の頼みを聞いてくれる存在だと思って良いのかしら?」


「そうだな。主の命とあらば力を尽くそう」


色んな謎が解けるかもしれない期待と、

力強い味方が出来たことへの喜びが全身を走った。


ただ、想像を絶する何かに触れてしまったような怖さもあった。



研究員に口止めをして、次の会議へ向かう。


もしかしたらこれで、私も研究対象になるかもしれない。


自分も特別な存在として扱われても、

なんて思ったこともあったが本当に望んだわけじゃない。

彼を守るために自分が目立っては面倒が増えるだけだ。


前世に契約した龍がなぜこのタイミングで起きたのか。

お腹に何かいると思った私の変化が龍を起こしたのだろうか。

とにかく今はそう考えるしかなかった。



大きく動き出したように思える私の状況とは裏腹に、

会議の議題はとてつもなくくだらないものだった。


十人程の投資家が連名で、進まない研究結果に対して意見してきたのだ。


機関の組織体制の見直しや責任を追及すると言った内容だった。


「これは由々しき事態です!説明責任を…」


「くだらない!異議があるなら研究を終わらせましょうか?と言っておきなさい。

私達にそんな説明してる暇は無いのよ」


「しかし!」


「あのね。金を出したい投資家は後を絶たないのよ?それはなぜ?

一パーセントでも可能性があるならその恩恵を受けたいからよ。


その価値があるからよ。

その程度の投資家が異議を唱えたところで、

じゃー金を返しましょうかと突っぱねなさい」


「それでは研究資金が」


「本気で言ってるの?初期投資を百回繰り返してもあり余る資金があるのよ?」


とうとう私を蹴落としたい人間が組織から出てきた。それだけのことだった。


「私に責任を取れと言う話ならかまわないわ。

私と彼の家族だけで研究は進めるわ」


「彼は三六九機関の保護下に」


「何?彼は彼の家族のものよ。誰にも奪わせない」


何度目だろう。同じ話の繰り返しなのにこの人たちは本当に懲りない。


私が過激派なら龍で吹き飛ばすって考えるんでしょうね。

いやむしろ龍の力で何か不思議な研究結果を捏造したら…

無駄ね。現状でも十分押さえられてるのに余計なことしなくても良いか。



会議が終わった私は、急いで次の約束の場所へ向かった。


今日はゆうなちゃんとスイーツを食べに行く約束をしていた。


「おねえさ~ん!」


ゆうなちゃんが手を振り走ってくる。


中学二年生になったゆうなちゃんは、私よりも身長が高くなっていた。


「会うたびに大きくなってるんじゃない?パパによく似てきたわね」


「え~そうかな~パパ太っちょだから嫌だなあ」


「もっと若いころよ。ゆうなちゃんのパパはスマートだったのよ~?」


ゆうなちゃんが屈託なく笑う。

「ママが騙されたってよく言ってたよ」


「結婚して三十キロ太ったって言ってたからね」


お店に入る直前、ゆうなちゃんが、

私しか見えないはずのリヴァイアサンを見て首を傾げた。

しかし、何も言わずにスルーしてお店に入るゆうなちゃんを見て、

気のせいだと思った。


「バイキングだからいっぱい食べてよ~」


「友達はダイエットとか言い出してさ~。私は興味ないんだけどね」


「ゆうなちゃんは細いからね。

私は駄目ね。食べたら食べた分太るから、運動しないとね」


おねえさんも細いよとは言ってくれない。

いや、実際最近また太った。


「おねえさんはさ。家族の命を守るために人を殺したって聞いたらどう思う?」


「ん~彼ならゆうなちゃんを守るために人を殺したって不思議はないし、

私はそれを責めないかな」


「やっぱりそうだよね。パパなら…」


「何かあった?」


「えっとね…」


ゆうなちゃんは何か言いたそうに悩んでから答えた。


「はるま君が同級生に殴られそうになったんだけど、

私それを見て頭に血が上って同級生殴っちゃってね」


「ゆうなちゃんらしいわね。間違ってるとは思わないわよ。

でもね。

ゆうなちゃん自身を守るためにもそういう時はしっかり考えて行動してね。

はるま君を守るためだったとしても、

ゆうなちゃんが危険にさらされることをパパは望まないでしょ?」


「そうだね。うん、気を付けるよ」


その後たわいもない話をして解散した。


人を殺す話、比喩じゃなかった気がする。


聞き出せなかったが何かとんでもないことが起こってるような。


そんな気がした。


「主よ。あの者から神の加護を感じた。何か持っておるな」


「神の加護?もしかしてあなたのこと見えてたのかな?」


「気が付いておらなんだか。見えておったぞ」


やっぱり見えてたのか。


ふたりに彼が心配するようなことが起こっていなければ良いんだけど…

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