第45話 ゆうなと境涯
「わて、閉じ込められてまんねん。
なんでやねん。もうええわ」
ひとり漫才をしてみたがとてもつまらない。
私にお笑い芸人の才能は無いようだ。
私の時間では一日ごとに二日間も閉じ込められる。
こちらの時間では約一年間も閉じ込められているのでやることが尽きた。
気が狂いそうになる。
身体が動かしたくてたまらない。
はるま君は近付いてるって言ってくれてたけど、いつになることやら。
ガンッ!ガンッ!
音もない暗闇に、大きな音が響き渡る。
私は驚きと不安、喜びが混じった奇妙な感覚に興奮した。
きっと、はるま君だ!でも違ったらどうしよう。
天井が大きく開く。一気に光が入ってきて私がまぶしさに目を閉じた。
「ゆうなちゃん!本当にゆうなちゃんだ!」
「はるま…君?」
まぶしくて顔が見えない。
「そうだよ!俺だよ!ゆうなちゃん!」
「俺じゃわからないよ!オレオレ詐欺じゃん!」
私は涙を流しながら笑った。涙が止まらない。
はるま君が私を抱きしめた。
「はるま君は泣き虫だから泣いてたんでしょ!お姉ちゃんがいなくて寂しいって」
「ああ、いっぱい泣いたよ。ゆうなちゃんが殺されるかもしれないって」
私は驚いた。泣いてるわけないとか寂しくなかったって言うと思ったから。
「私殺されかけてたの?」
それから私は今までの話を聞いた。
はるま君が走り続けた一年間。私もつらかったけど、
はるま君は壮絶な決断をたくさんしていたんだ。
私は、私のために何万もの人を殺した弟に、どうしてあげたらいいんだろう。
普通の姉なら叱るのかもしれない。
でも私は抱きしめた。
「ありがとう。はるま君もつらかったよね」
はるま君は私の胸で黙って泣いていた。
「はるま君のやったことが良かったとは言わない。
でもね。法律が許さなくても私が許してあげる。
はるま君がやってしまったこと、私も一緒に背負っていくよ」
パパやママならそうするだろうと思ったんだ。
そもそも、この世界は私達の常識が通用する世界じゃない。
現実だったとしても、
きっとパパなら私達から家族を奪おうとする力を許さない。
法を破ろうとも、地獄に落ちようと、戦うはずだ。
それから私達は愚者の話を聞いた。
「そもそも、お主たちは現実とか精神世界と呼んでおるじゃが。
回廊から枝分かれした同じ現世よ」
「回廊を通って現実と精神世界を渡り歩いてるのは知ってるよ」
「その認識でおるうちは世界は見えんでな。回廊が中心じゃ。
そこから輪廻して世界Aと世界Bを渡る感じじゃな」
「現実と精神世界は同列ってことね」
「そうじゃな。そして回廊につながる世界は十ある。
ここがお主らが足を踏み入れる三つ目の世界ということじゃ」
「十個もあるんだ!私達が精神世界と呼んでいた世界には戻れるの?」
「世界から呼ばれればな。
お主らはこの世界に呼ばれたのよ。
何用かは知らぬがな」
「なんでも知ってる賢者の片割れなのに知らないんだ?」
「賢者も全ては知らんよ。混沌は時に気まぐれでな」
「混沌?」
「言葉にするのは難しいの。世界の意思とでも思えば良いじゃろ」
「もちろん、パパのことは聞いても…」
「答えぬぞ」
「やっぱりね」
考え込んでいたはるま君が口を開いた。
「ちょっと待って!輪廻って言った?輪廻って生まれ変わりってことだよね?」
「主らの世界の宗教観ではそう教えておるんだったな。
輪廻とは人の魂が変わるということじゃ。
境涯が変わるとも言うの。
ただ…世界を渡るたびに生まれ変わっておる。
そう言っても間違いはないかもしれんの」
「境涯が変わる。魂の位が変わるみたいなこと?」
「そうじゃ。お主が今おるこの世界は修羅が暴れ狂う世界、
それに合わせて主らの魂は修羅の境涯が強く出ておる状態じゃな」
「それって!優しい子が目的のためには人も容赦なく殺すようになる?」
終わりの聖女が笑いながら言った。
「そうじゃな。
その優しいはるまは、この世界にいるから人殺しを許容しておる。
そう考えて間違いはないわ」
はるま君の顔が少し明るくなった。
「問題ないとは言えないかもしれないけど、
仕方ないことだったのかもしれないね。とりあえず安心しよ?」
「そうだね。一線を越えたことは間違いないけど、今はそれで納得しておくよ」
「この世界が修羅の世界だとして、
精神世界って呼んでた世界はどういう境涯なの?」
「気ままに他者を蹂躙したり、理屈に合わぬ戦いをしたりする畜生の世界じゃ」
「やっぱりそういう世界だったんだね」
いろんなことが急にわかって混乱しているけど、
世界の構造がわかったことはとても大きな収穫だ。
「それはそうと、そっちの女の人は?」
「ご挨拶が遅れました。グズルーンと申します。気軽にルーナとお呼び下さい」
「こちらこそよろしくお願いします。
ルーナさん。私はゆうな。はるま君の姉です!」
「少しアリシアさんに似てる気がする…いやシンシアが成長した感じかなあ」
「そうかな~?髪の色も違うし」
「はるま君って、髪の毛の色でしか判断してないんじゃない?
アリシアさんとシンシアの見分けついてる?」
「ついてるよ!サイズが違うし!」
「サイズって」
相変わらずのはるま君に思わず笑ってしまった。
いろんなことがあったけど、疲れてそれ以上は何も考えたくなかった。
その日は久しぶりに安心して眠りについた。




