第43話 はるまとパンドラの箱
「我が軍門に下らねばお前の姉は惨たらしく殺されると知れ!」
最悪だ。完全に俺の失敗だ。
伝令役から王が話をしたいと聞いて会った。
用件によってはすぐに通すと言うから、
姉である幽閉されている聖女に会いたいと言ったんだ。
その結果が、聖女暗殺の命を受けた暗殺者が今出発した。
俺はこの軍を突破して、先に出発した暗殺者を追わないといけない。
安易に情報を渡してはいけない。学んできたはずだったのにうかつだった。
でも不幸なのは俺じゃない…
俺にはこいつらを全員殺す力がある。
問題は殺したくないけど殺さないといけない理由が出来たことだ。
「馬鹿やろうが!お前らどこまで馬鹿なんだ!」
「何を言っている。従わねば姉が、」
「グダグダうるせーぞ!イフリート!全員排除しろ!」
「承知した!ヘルファイア!」
見渡す限り辺り一面の地面から火柱が上がる。
「ぎゃー!」「助けてくれ~!」「熱い!熱い!」
悲鳴が聞こえるが悲惨だとすら思えない。
「お前らがパンドラの箱を開けたんだ。俺はもう躊躇しない」
「ルーナ!行くぞ!馬車は捨てる!」
そう言うと俺は馬を馬車から切り離して飛び乗った。
ルーナは黙ってもう一頭の馬に飛び乗り、後を追って来た。
「ご主人、安心しろ殺してはいない」
正直全員殺しても良いと思って命令した。
たぶん、その言葉に少し安心したが安心する余裕などなかった。
三日ほど走ったが追いつけない。馬が疲弊して走れなくなっていた。
「もしかして道が違ったか追い越した可能性もあります。
馬も疲弊していますので休息を取りましょう」
「出来るか!俺は一人で走ってでも行く!」
ルーナが走ろうとする俺を羽交い絞めにした。
「邪魔をするならお前も!」
「絶対に助けるのでしょう?
疲弊して肝心な時に助けられなければ何もならないでしょう!」
ルーナが初めて俺に感情を剝き出しに怒鳴った。
それは確かにそうだ。
あちらも馬に乗る人である以上速度はそれほど変わらないだろう。
「わかった。最低限の時間だけ休もう」
「ありがとうございます。
では馬に餌をやってまいります」
横になっても寝られない。
近くに寝ていたルーナが突然頭を撫でてきた。
子供扱いしやがってと思ったが、なぜか安心してそのまま眠りに落ちた。
起きるとルーナが馬の手入れをしていた。
俺より疲れているだろうに、本当にルーナはよく尽くしてくれる。
「ありがとう。出発出来るか?」
「はい、ただやはり毎日休ませてやりましょう」
少し寝て落ち着きを取り戻した俺は言われる通りだと思った。
「わかった。急ぐが無理はしないよ」
それから順調に進むが暗殺者には追い付けない。
二日に一回ゆうなちゃんには会えるので今の所無事なのは知っている。
変な動きにますます磨きがかかっているが未だに状況は変わっていないようだ。
四国目に入って二か月程経ち予定通り国境に差し掛かった。
検問には衛兵がいるが、道を開けて立っていたのでそのまま素通りする。
話をする時間すら惜しかった。
すると追いかけてくる馬があった。
並走すると騎士が話しかけてくる。
「邪魔をするつもりはありませんので、止まらなくても結構です。
お帰りの際は首都に赴き国王にお会い頂けますか」
ルーナが答える。
「その前に聞きたいが私達の前に馬が通らなかっただろうか?」
「忍びのような者が突破しましたので別の騎士が追いかけております。
一時間程前に通りました」
そんなに早いのか。まずいなこのままじゃ追いつけない。
「ありがとう。必ず伺おう!」
「お聞き頂きありがとうございます」
そう言い残し騎士が離れて行った。
そこからさらに二か月走った。イライラが止まらない。
なぜ追いつけない!やっぱり休むべきじゃなかった!
そろそろ国境に差し掛かる!
何の進展もない状況に本当にイライラする!
馬で走っていると、馬が見えてくる。近付くと騎士が二人倒れている。
首を切られており、一目見て死んでいるとわかった。
立ち止まることなく走り過ぎた。
この先に暗殺者がいるはずだ。走りながら殺せたのか。降りて戦ったのか。
死んでいた騎士に対する思いなどなく、時間稼ぎしてくれたのかしか気にならない。
「死んだ時間を確認しなくてもよろしかったですか?」
「いやいい、分かったところで急ぐのに変わりはない。
もう国境まで休みなしで行くぞ!文句は言わせない!」
「わかりました。夜明けには国境に着くかと」
夜が明けるまで走り続けると、国境の向こうに数万はいるだろう軍隊が見えた。
「はるま様。五万はいます。あれは少し二人では厳しいですね」
ザルワーンの兵だろう。これは戦うしかないな。
「イフリート。五万ぐらい焼き払えるか?手加減が難しければ殺しても良い」
「倒せるが少し時間が欲しい。時間が惜しいならもう一柱も出せば良いだろう」
「もう一人?」
「大地のベヒーモスである。主の魂に刻まれた大地の王を探せ」
その言葉の意味がわからないまま、馬で突き進むが攻撃してくる雰囲気はない。
ギリギリまで進み馬を降りる。
「忍び風の男が馬に乗ってきたと思うが何か知っているだろうか?」
ルーナが聞くと、
後ろの方から豪華な装飾が施された鎧を着た騎士が馬鹿にしたような顔で答える。
「ハッハッハッ!終わりの聖女が君の姉だと言う情報を持ってきた男のことかね」
クソッ!情報が渡っていた。
「終わりの聖女は我が国で殺せない。他国の人間が殺してくれるなら好都合でね」
「で?お前らが足止めってわけか?」
「その通りだ。お前が希望をもたらす勇者であることは聞き及んでいる。
終わりの聖女を始末した後は、しっかりお前を先頭に魔大陸と戦ってやろうぞ!」
もう知らない。お前らの希望は今ここで全て砕け散ったよ。
明確にゆうなちゃんを殺すと言ったこいつを殺さないようにする理由すらない。
お前らの開けたパンドラの箱がどんな絶望をもたらすのか、
その身で確認したらいいさ。
「イフリート!ベヒーモスってのはどうやって呼びだす?」
「主の中にいるベヒーモスを探せ。それを引きずり出すのだ」
要するにイフリートと同じで既に俺の中にいるってことか。
目を閉じてイフリートを探す時のように意識を鎮める。
「居た!いつまでも寝てねーで出てこいベヒーモス!」
凄まじい雄叫びと共に四足歩行の巨獣が出てきた。
「イフリート!ベヒーモス!全て排除しろ!手加減出来ないなら殺せ!」
「ルーナは自分の身の安全を最優先に!」
「陛下が死んでは私は生きていけません!
私の命が大切だと思われるなら陛下の身を第一に!」
陛下?そういえば前にも俺を誰かがそう呼んでいた。
俺は剣を抜き、イフリートとベヒーモスが討ち漏らした兵を切りつける。
身体が軽い。自分がこれほど戦えると今まで知らなかった。
そうか。アリシアさんに子供扱いされていたが、そもそもあの人が人外なんだ。
この世界なら俺単独でもそこそこ戦えそうだ。
がむしゃらに目の前に敵を切る。切って切って切り続けた。
どれぐらいの時間戦い続けただろうか。少し疲れが出てきた。
「はるま様危ない!」
振り返るとルーナの肩に剣が食い込んでいる。
「くそったれが!」
ルーナを切りつけている騎士を切り倒してルーナを抱きかかえる。
倒れこむ俺達に騎士達が一斉に槍を突き刺してきた。




