第42話 はるまと勇者の軍
こちらを確認した瞬間、全ての軍人が膝をつき頭を下げた。
思わず足を止める。
驚く俺を見て、ルーナが声を上げた。
「こちらは急ぐ身ゆえ、無礼を承知で単刀直入にお尋ねする。
何用か!」
一番偉そうな軍人が頭を上げて答えた。
「我らは貴殿らの軍門に下り、魔大陸征服の日まで付き従いましょう。
ザルワーン王国までの道のりも安全に行かれるよう護衛させて頂きます」
「我らは軍隊の速度に合わせられない。
馬車の速度についてこれない者は、置いていくがそれでよろしいか?」
「全てはお望みのままに!」
ルーナがこちらに尋ねてくる。
「ついて来る者を拒むと面倒なことになりますので、それでよろしいでしょうか?」
「わかった。面倒にならなければいいが…仕方ないね」
その日の野営は豪華な食事を用意してくれた。
王宮料理のような上品な肉や魚。
野菜も暖かいスープも、一流のシェフが作ったであろう最高の食事だった。
狩りも出来ないほど急いできたので、ずっと携帯食ばかりだった。
この世界では久しぶりのまともな食事に、
少し荒んでいた気持ちにも余裕が出来た気がした。
寝て起きると今日もゆうなちゃんが飛びついてきた。
号泣しながら、怖かった辛かったと泣くゆうなちゃんを見ながら、
今日もたどり着けなくてごめんねと思いながらも、
つらかったね、かわいそうにと頭をなでる。
第一の国を通るのに二か月、第二の国で四か月。
第三の国に入って今二か月が経過した。
予定では後四か月、今のゆうなちゃんを見てると四か月は長過ぎる。
力があっても、知恵を振り絞っても、どうにも出来ないこの距離がもどかしい。
ただ、俺には今すごく気になってることがある。
あれからずっと二日に一回現実に戻ってる。
時間の流れ方が変化してる?
場所が変わったからか?
何かがおかしい。でも今は謎を解くより早くゆうなちゃんの所に行きたい。
「やめなさいよ。ますます変な動きしだして、気持ち悪いわよその動き!」
母さんは、
ゆうなちゃんが動けることの幸せを噛みしめてることを知らないから、
不思議そうに見る。
だが、知ってる俺が見てもあの動きはおかしい。
笑えるが、人の動きじゃない。
寝る瞬間までゆうなちゃんは変な動きをしている。
なんでその体制で寝れるんだよ。
相変わらず、ゆうなちゃんは理解を超えてくる。
辛いゆうなちゃんを思いながらも、俺は少し笑ってしまいながら寝た。
軍人が張ってくれたテントで目を覚ます。
このテントで雨風をしのげて助かっている。
「お目覚めですか。今日にはこの国を出られそうです」
ルーナは必ず俺が起きるよりも早く起きて準備を終わらせている。
国境に差し掛かると、軍が勝手に出した先触れが戻ってきたらしい。
「あちらはこちらの軍門に下ることを拒否致しました」
は?軍門に下る?支配するつもりなんかないぞ?どういうことだ?
俺が驚いていると軍の総大将が即座に叫ぶ。
「大義は我らにあり!
勇者を要する我等に与しない者に容赦はいらぬ!全軍突撃~!」
「は?ちょっと待て!どういうことだ?」
俺の言葉は届かない。
全軍が敵軍へ向かい突撃していた。
「はるま様、その可能性を考えるべきでした。
彼らははるま様に組したわけではなく、
自分達の大義の為に神輿にはるま様を乗せたかっただけかと」
「なんてこった。これどうしようか」
まさか国同士の戦争まで始まるとは思っていなかった。
「無視して俺達だけ国境を通過して次に向かうって手もあるけど」
「戦争は放置するが、ど真ん中を突っ切ろう。
両軍を死なない程度で薙ぎ払えるか?」
「ご命令とあらば、御意のままに」
「イフリート!ど真ん中を突っ切るが、
出来るだけ両軍に同等の被害が出るように道を切り開いてくれ。
死なないようにね」
「承知した!スーーーーーーー!」
イフリートが息を吸い込むだけで空間がゆがむ。
「カーーーーー!」
凄まじい熱波に苦しそうな兵が道を開ける。
「ルーナ一気に行こう!」
ルーナが御者の代わりに馬を走らせる。
道に残った兵士を大きな槍でなぎ倒しながら進む。
「なぜ!勇者様の為に戦う我らまで!」
後ろから聞こえる声に俺は叫ぶ。
「俺のためならば戦わぬ道を探せ!俺のためならば全員が手を取り合え!」
それでも罵詈雑言が飛んできたが、それ以上は無視した。
「はるま様、この国の軍が全て国境に配備されていたとは思えませぬ。
敵対行動をとりましたゆえ、追撃を御覚悟下さい」
「そうだね。イフリートありがとう!戻って休んでくれ。また呼ぶ」
「承知した。最近主は我ばかり呼びだすな。我は嬉しいが」
マーリンみたいに自ら戦える魔法は知らないからね。
剣も大した腕じゃないし、イフリートばかり戦わせて申し訳ないな。
それから一か月程走ったが何事も起こらなかった。
追撃をあきらめたのか。敵対行動ととられなかったのか。
戦わなくても良いのは良いことだけど、
ゆうなちゃんを救出出来たら、考えることが多そうだ。
「ルーナはキャメロットでは、どういう立場なの?」
「貴族階級は騎士としては異例の侯爵位を賜っております。
軍の中では総大将も任されまして、序列第二位となります」
「今さらだけど、そんな偉い人が付いてきてくれてたんだね。ありがとう。
話は変わるけど、大陸を併合したら魔大陸と戦うって、魔大陸とは対立してるの?」
「古に、魔大陸の支配者が現れ、その巨大な力で大陸が震撼したと、
我と対等にやりあいたくば、この世界の力を一つにしてかかってこい。
と言い姿を消したと伝えられておりますので、
大陸の覇者となれば、次は魔大陸より上であることを示すのは是非もないかと」
「なるほど、自分の名誉のために強さを示すことが何よりも大切ならば、
強大な力と聞けば戦わぬわけにはいかないか。
でもさ、魔大陸の支配者が俺の知ってる魔王なら、
正直ここの人達の力で魔大陸と戦うなんて夢のまた夢だと思うよ。
たぶん、俺が今まで見た全軍でも一番下っ端の人にすら勝てない。
そういう魔神が万の軍勢を作ってるんだよ」
「まさかそこまで…はるま様は魔大陸の支配者をご存じなのですね」
「魔王が国を跡形もなく消し飛ばす所を見た。
数万の軍勢が遊び感覚で殲滅されるところを見た」
思い出すと恐怖で少し手が震える。
「死ぬ覚悟をしても届きそうにありませんね」
「覚悟とかそんなレベルじゃないよ」
さらに一か月走り続けて国境が見えてきた。
「あ~思った通りか…大群だね」
「一万ぐらいでしょうか。先の軍のように従属を選ぶか。
もしくは戦闘になるか。慎重に行きましょう」
一人の騎士が馬を駆ってこちらへ向かってきた。
どうなるか。出方によっては…息を飲み込み騎士を待った。




