第40話 はるまとカルマ
「あれ?」
起きるといつもの寝室だ。
隣を見ると「ゆうなちゃん。なんで?」
二回しか寝ていないのに戻ってきた。
「ん~!」
ゆうなちゃんが飛び起きてこちらを見る。
「はるまくん!」
俺に飛びついて泣き出した。
「怖かった!怖かったの!あれはどこなの!」
泣いて何を言ってるのかわからない。
俺は父さんがしていたようにゆうなちゃんの頭をなでる。
小さな声で「辛かったね。怖かったね」
父さんはいつもそうだった。転んだ俺に痛かったね。
かわいそうにと言いながらハグしてくれた。
ひとしきり泣いたあと、ゆうなちゃんは口を開いた。
小さな箱に入れられて身体もまったく動かせなくて、
叫んでも響かないし音も全然しないの。
「たぶんだけど、幽閉された聖女ってのがゆうなちゃんのことだと思うんだ。
俺はそれを助けようと旅に出たところなんだよ」
「なんでシンシアちゃんたちの所じゃないんだろう?
寝てる間に運ばれたのかな?」
「ごめん。俺にも全然わからないんだ。
ゆうなちゃんに会うために必死で、やっと旅に出たところだったから」
「辛いだろうけど聞くね?ゆうなちゃんも二日ぐらいで戻ってきたの?」
「わかんない。一年ぐらいいた気がする。
もう気が狂いそうなぐらい時間が長いの」
これは本当の時間はわかりそうにないな。
たしかに音もない暗闇で動けないとなれば五分でも永遠に感じるかもしれない。
リビングに行くと母さんがびっくりしてゆうなちゃんに声をかける。
「どうしたの?何かあった?」
やっぱり母さんには異常がわかるんだな。
「なんか暗闇に閉じ込められる夢を見たの。
がんじがらめで動けない感じで音も無くて…」
「なんかいやね~ゆうなちゃんが一番嫌いな状況ね。
とりあえずスープ飲みなさい。落ち着くから。
ストレスかしらね。学校で嫌なことでもあった?」
「ん~大丈夫。何もない」
こんなに覇気がないゆうなちゃんを見たのは初めてかもしれない。
朝食を食べてから改めてゆうなちゃんと話をした。
「今日はどうする?何か調べたりする?」
「わかんない。また寝たらあそこに行くんだよね。
どうやって耐えれば良いだろう」
それが一番の問題だな。
暇つぶしの方法を考えるのが良いんだろうか。
「開き直って小説のネタでも考えるとか?
ほら昔さ、小説書きたいって言ってたでしょ?」
「そうか。考え事してたらいいのか。でもお腹もすくし本当につらいんだからね」
「出来るだけ早く助けられるように頑張るよ」
結局その日は、身体を動かして気を紛らわせることになった。
ゆうなちゃんが意味不明な動きをしている。
とにかく体が動かしたいみたいだな。
「何その変なダンス、辞めてよ気持ち悪い」
母さんが怪訝な顔で見る。
「寝る前の運動?ちょっと身体を動かしておきたくて」
「早く寝なさい。明日は学校よ」
「は~い。寝るの本当に嫌だなあ」
本当に辛そうだし、早く救い出してあげないと、
ゆうなちゃんがおかしくなってからじゃ遅いんだ。
俺は関所の先に進む決意を固めて眠りについた。
起きると騎士が先に起きて待っていた。
「おはようございます。お加減はいかがですか?」
「おはよう。大丈夫だよ。準備が出来てるなら先に進もうか」
俺達は馬車を降りて歩いて関所に向かう。
「我が国の関所に何用ですかな?」
俺の顔を見た騎士が代わりに答える。
「ザルワーンに行きたく、通して頂きたい。
貴国にご迷惑をかける意図はございません」
「ふむ、通せるわけがないことは理解しているであろう?
対価もなく貴殿らを通せば、
我が国は他国が通りたいときに通れる国だと吹聴するようなもの。
我が国の評判に傷が付こう」
「何が欲しい?金か?」
「我が国の方が立場が上だと分かる。
そのような貢ぎ物を積んだ馬車ならば通そう」
「国を売り渡せと言われるか?それこそ出来ようもないことは分かろう」
出来るだけ穏便に通っていければと考えていた自分に呆れる。
こんなに話が通じないのか。
「悪いが俺はどんな手を使っても通らせてもらう」
「ならば我らも戦って追い返さねばならんな」
「わかった。イフリート!」
飛び出した業火球を衛兵が避ける。
「ファイアウォール!」
衛兵が避けた正面に道が出来るように炎の壁を作り上げた。
炎のトンネルを通り俺達は関所をまっすぐ渡った。
炎の壁を越えてこれる者はいなかった。
これで強引に通れる…と思ってたんだ。
「ぐああああ~!」
燃え上がる壁を通って衛兵が突っ込んできた。
死ぬことすら恐れていない。それほどまでに俺達を通したくないのか。
俺は命を懸けて通さない信念を持った衛兵相手に、
殺さず通ることは出来ないと覚悟を決めた。
壁を越えて全身焼けただれながらふらふらと剣を振り上げる衛兵に剣を突き立てた。
凄まじい勢いで噴き出す返り血を浴びる。
もう後戻りできない、人を刺した感触が全身を刺激する。
衛兵は、笑みを浮かべたまま朽ちていった。
「なぜ笑う」
俺は素直に疑問をつぶやいた。
騎士が答える。
「人を通した不名誉を背負い生きていくぐらいなら、
命を懸け戦った名誉を持って死ねる幸せを感じていたのでしょう」
「名誉のために死ぬ?」
「この世の騎士はみなそうでしょう。
負ける屈辱にまみれるぐらいなら死ぬでしょうね」
明らかにアーサーさんやアリシアさんたちとは考え方が違う。
なんだこいつらは、行動原理がわからない。
なんだか自分が、違う生物になったような気がした。
人を殺した。
駄目だ。これはゆうなちゃんには経験させちゃいけない。
ゆうなちゃんの敵はこれから全部俺が殺す。
このカルマは俺だけが背負えばいいんだ。
俺はもう人じゃない。そんな気がした。




