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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第一章 輪廻

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第39話 はるまと最後の英雄

数万の屍が無残に転がる中で剣と剣がぶつかる。


豪華な装飾が施された鎧を着た騎士が、

ボロを着た少年に向かって剣を振り下ろしながら叫ぶ。


「なんなんだお前は!」


少年が剣をはじき返し手から炎の玉をはじき出す。


「貴様一人に五万の兵が倒されるなど、断じてあってはならんのだ!」


身体を覆いつくす炎をかいくぐり、騎士が渾身の一振りを打ち出した。


それを軽くいなし、一刀のもとに騎士は崩れ落ちた。


「何人いようが関係ないね」


少年は剣にこびりついた血を振り払った。


「ゆうなちゃんを探し出すためなら邪魔者は全部倒す」


騎士は憎しみのこもった目で少年をにらみつける。


「お前は希望をもたらす勇者ではなかったのか!」


叫ぶ騎士を冷たい目で見つめながら鼻で笑う。


「お前達は自らの手で最後の希望を奪ったことにすら気が付かないのか?」


少年の目には意思すら感じられない。一切の光が無かった。


「綺麗な俺のままじゃゆうなちゃんが見つからないんだ。

一人殺したあの瞬間に、この世界を滅ぼす覚悟ぐらい出来てるさ」


そう…一年前のあの時に…



「ここは?」


転生した俺が起きるとたくさんの人が歓喜の声を上げていた。


「転生した勇者様が目覚められたぞ!」


その中の一人が俺の問いに答える。


「ここはキャメロット王国です。

あなた様は英雄の器に転生された勇者様でございます」


「トゥルホープは?」


「はて?海を越えた東の大陸にあったやもしれませぬ。

この大陸共通の敵、恐ろしき支配者が統一した魔大陸と呼ばれております。

かの大陸は魔獣や魔神が闊歩する恐ろしい所ゆえ詳しくはわかりませぬが」


魔大陸の支配者?魔王のことか?東の大陸が元々俺達が居た場所だろうか。


「イフリート!」

俺の身体から巨大な炎の巨人が現れる。大きな咆哮が周りに風を巻き起こした。


「おお、これほど強大な炎の魔神を使役しておられるとは、まさしく勇者の力!」


よし、イフリートはいる。

ここはトゥルホープの西にある別の大陸ってことか。

恐れられる魔神の中でもエリートだったマーリンが、

英雄と呼ばれていてもおかしくはないか。


ただ、今そんなことはどうでもいい。

ゆうなちゃんがいないことで焦る気持ちが抑えられない。


「ゆうなちゃんは?どこにいる?」


「はて?ゆうなちゃんと申しますと…」


「俺と同じように聖女に転生した女の子だよ!」


「なるほど聖女ですか!


現在この国は戦争中なのですが、

最大の敵国であるザルワーン女王国の女王が、

終わりの聖女と呼ばれる女性を幽閉したという噂は聞き及んでおります」


終わりの聖女、ナルビアが確かそんな感じで呼ばれてた。

ゆうなちゃん以外考えられない。


「なら俺がやることはまずその女王国に行くことだな」


「勇者様は人類を率いて東の大陸を打ち倒す希望、

まずは各国の王と調停を図りましてから…」


「それはどれぐらいで出来る?」


「一年もありますれば…」



嘘だろ。

人類共通の敵を打つために話し合いをしましょうって言うだけで一年かかるだと?

五分でクーデターを終わらせたアーサーさんに比べたら無能な王ばかりなのか?


「とろくさいよ!とりあえずその女王には今から会いに行く!」


「現在この大陸には28の国がありますが、

最大の脅威は東の魔大陸にございます。

ただ、魔大陸と戦う以前に国々が覇権争いで戦争が絶えませぬ。

この国は五番目ぐらいの力を持っておりますが、

勇者様の名の元に他の国を平定致しましてですな…」


「そんなことしてられるか!争いがしたい国は戦争し続けて滅びればいいだろ」


「勇者様がそのようなことをおっしゃっては我々の希望が…」


「とりあえず俺は女王国に向かう!どこに行けばいい?」


「絶対にダメだと言いたいのですが…

陛下がそう言われるのでしたら、馬車と共を直ぐに用意しましょう。

この国は大陸の南端、女王国は北端に位置しますので、

北にまっすぐ最短で進めば五つの国をわたることになります」


「わかった。ありがとう。協力してくれて感謝する」



その後用意された馬車で俺はすぐに出発した。

御者と案内役の女性騎士を付けてくれた。


馬車に揺られながら騎士を見ると手が震えている。

国王を打つ直前のアーサーさんがこんな顔をしていた。

覚悟を決める人間の様子だ。


「怖いの?」


女性はハッとなってこちらを見た。


「そのように見えましたか。申し訳ありません…」


「いや良いんだよ。わがままに付き合わせてごめんね」


「これから通ることになる五つの国は全てが敵国です。

この世に同盟国など存在しませぬゆえ、

どの国で命を落としてもおかしくない旅になります。

そう考えると怖くはあります」


そうか。

俺は今までアーサーさんやアリシアさんの後ろで隠れてたから、

覚悟が決まっていなかったのかもしれない。

敵という敵に対峙したことはなかった。

これからは命の奪い合いをするかもしれないんだ。


それに気が付いた俺は一気に怖くなった。

でも今は、ゆうなちゃんがどうなってるのか。それしか頭になかった。


「そうだね。ほんとにごめんね。巻き込んだ」



ほどなくすると周りが暗くなり御者がここで野営をしようと提案してきた。


アリシアさんのペガサスなら24時間休みなく走り続けられたけど、

こればかりは仕方ない。

焦る気持ちを押さえて火を起こした。


食事をしている時も眠ろうとしても、

ゆうなちゃんがどんな状態なのか考えるだけで胸が張り裂けそうになった。



次の日、日中走り続けて少し日が暮れてきたころに御者が声をかけてきた。


「そろそろ関所になります。

自国の関所は素通り出来ますが、

そのすぐ先に隣国の関所がありますが、たぶん通してくれません」


「これは…どうしたら良いの?」


「戦って通るしかありません。これはそういう旅だとお考え下さい。


しかし、どうしますか?検問で宿を取ることも出来ますが、休んで明日にしますか?」


もう夕暮れか。一日ぐらい休んでも良いか…


嘘だ。一日も無駄にしたくない。ゆうなちゃんを探したくてたまらない。


でも…この先に一歩でも進めば人を殺す。そうしなければきっと俺が殺されるから。


ゆうなちゃんを探す道がこの先にしかないのなら引き返す気なんて一切ないさ。


でも引き返せるこの瞬間を失うのが怖かったんだ。


この一日の休息は俺の弱さだ。この弱さは決して忘れない。


そう思いながら眠りについた。



俺は玉座に座っていた。


傷付いた伝令がやってくる。


万の軍勢同士の衝突、たくさんの兵が倒れていく。


屍を踏み越え突き進む俺…


騎士の位から国一番の騎士となり武勲を立て国王となった。

その後も四つの国を併合してキャメロットを大国に押し上げた。


どこよりも強い国の王として誰よりも強く、

絶対的な王者としての地位を確立するために…


辞めてくれ。王位になんて興味はない。強さにも他者との比較に意味なんかない。

俺はゆうなちゃんと会えればそれでいいんだ。


父さんを目覚めさせるためなら「強かろうが弱かろうが興味なんかない!」


自分の怒鳴り声で起きた。


騎士がびっくりしている。


「あなた様のその言葉、私は少しうれしく思います」


とはいえ弱ければこの先で殺されるのは俺かもしれない。


強さはいらないなんて綺麗事が通用する世界じゃない。

だから覚悟を決めて関所へ向かった。

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