第38話 ゆうなと信じる理由
「パパを第六天の魔王だって言う人だっていたのよ」
ママにパパって良い人だったの?悪い人だったの?と聞いてみた、
結果帰ってきた答えがそれだった。
第六天の魔王というのは最大級の悪魔みたいな意味らしい。
パパはそこまで言われるほどの何をしたんだろう。
そう思ったのに、ママはどこか誇らしそうだった。
ママが笑いながら言ってる辺り、
パパがひどいことをしたからってことでも無さそうだ。
「パパはね。
誰かに悪く思われていても弁解もしない。
気にしない人だったの」
「悪口言われても無視するみたいなこと?」
「ちょっと違うかな。
例えばお前は盗人だって言われるとするでしょ?
普通は盗んでないなら盗んでないって言うでしょ?
でもパパはね。確かに欲しいものだったら盗むかもなあとか言うのよ」
「欲しくても盗まないでしょ?」
「パパの中ではね。
盗むほど欲しい人がいるならその気持ちを理解出来なくはないな。
って話からそこまで飛ぶのよ」
「なんか変なの」
「そうよ~聞いてる側だって大変なんだから」
私の知らないパパの側面がたくさんあるんだ。
私は子供だったからわからなかったパパのこと、もっと知りたい。
「パパが漫画とかアニメの世界で魔王って言われてたらどう思う?」
「パパならありそうね。だって王様の命令で勇者になるのはありえないからね」
「やっぱりそうなんだ。パパって魔王なんだね」
「まあ世界を征服する!とか世界を無に帰す!
とかそういう魔王にはならないでしょうけどね。
魔王という生き方を提唱する!とかは言いそうね」
「魔王という生き方か…」
まさしく今のパパ=魔王がそのものだなと思った。
「今日のデザート何~?」
「チョコレートケーキあるわよ」
「やったね!た~べよ」
こういう所は私の弟のはるま君だなあ。
「はるま君は伝説の勇者になるのよね!」
ママが言う。
「そういえば昔ははるま君そんなこと言ってたね~」
はるま君は笑いながら言う。
「みんなを守れる勇者様ならね」
今日ははるま君がご機嫌だった。
恐竜に会えたこともそうだろうけど、
明日からシンシアちゃんと三人で冒険だって張り切ってるんだ。
「はるま君いつも以上に楽しそうだね」
「そりゃー冒険だからね。ワクワクするよ」
「冒険だからってより三人だからでしょ?」
「どういう意味?」
「はるま君はシンシアちゃんが大好きだから、
一緒に冒険するのが楽しみなんでしょ」
「そ、そんなことないよ!」
はるま君には自覚ないのかもしれないけど、
これは完全にシンシアちゃんに恋してる。
「私と二人で恐竜に会いに行く時より楽しみそうだもん」
「そ、そんなことより、次はどこに向かうかな~海を越えるのも良いね」
「そうだね。シンシアちゃんが居たらどこでも楽しそうだし」
「そういうことじゃなくて!」
「じゃーシルちゃん?聖女の旦那は大変だよ~?」
「もう!そんなこと言ってないでしょ!」
「はいはい、おやすみ」
史上最悪の存在。
たくさんの戦争犯罪人とか大悪党を見てきただろう天狗がそう言うんだ。
第六天の魔王。
パパには私の知らない顔がたくさんあった。
でも大丈夫だ。
パパがたとえ私自身を封印していたのだとしても、
それは私を傷付けるためじゃない。
何があっても私はパパのことを信じてる。
二人で旅行に行った時に、動画を見てる私を隣でずっと見て笑ってたパパ。
パパが居れば私の世界は守られる。
パパはまだここにいる。
大丈夫だ。
私達はファンタジー世界の冒険を楽しみにしながら、眠りについた。
目が覚めると、身体が動かない。
なんだろう?これは…どこかに閉じ込められてるのかな。
私はなんとか身体を動かそうとするが狭い空間で思うように動かない。
棺桶にでも入れられてるみたいだ。
どうしよう。
はるま君はどうなってるんだろう。
この世界に何かあったのかな?
シンシアちゃんは?アリシアさんたちは無事なのかな?
全くの無音、一切の光も感じられない。
かすかに動く指で壁を叩いてみる。
ぶつかっても音もしない。
木材とかじゃなさそうだし、金属かと言われるとそれも違う。
プラスチック?固いんだか柔らかいんだかもわからない。
他に確認出来そうなことを考えてみたが、何も無さそうだ。
これほんとになんだんだろう。
棺桶と言うより、
なんていうか漫画に出てくる冷凍睡眠するカプセルみたいなものな気がする。
「お~い!」
叫んでみた。
なんだろう、音が吸収されているのか響かない。
叫んでも叫んでも無駄な気がする。
どれくらい時間が経っただろう。
涙が出てきた。
動けない。
ただそれだけなのに怖い。
お腹がすいた。
誰もいない。
「助けて…パパ助けて…」
叫ぶ声が小さくなる。
助けを求めても何をしても無駄な気がする。
意識が薄れる。
寝て起きたら、はるま君が居たらいいなあ。
何時間寝ていただろう。
起きてもやっぱり同じ場所だった。
誰も来ない。
閉じ込められてるんだろうか。
事故なんだろうか。
出られる日は来るんだろうか。
考えれば考えるほど、最悪の状態が頭に浮かぶ。
私はもう一度目を閉じた。
次に目を開けた時、
誰かが居てくれることを願いながら。
―― 第一部 完 ――




