第37話 父と史上最悪の存在
目を覚ますと目の前に足があった。
「ハッ!」
手で足をつかむ。
はるま君の足だ。
「わざとでしょ?毎日毎日踏むんだから」
「ふらついて踏んじゃうだけだって~」
二人でリビングへ行く。
前は起きるたびに、死ぬかと思うほど疲れてたけど、最近は慣れてきた。
シチューの良い匂いがしてくる。
ニュースが流れていた。
最近朝の動画タイムを禁止された。
成績が落ちたからだ。
シチューにパンを浸しながら食べていると、
どこかの国で戦争が始まったってニュースが流れてきた。
国民を虐げてきた国でクーデターが起こり、政権が変わったとか。
それに同調した隣国の新たなる指導者が、
奴隷解放のための戦争を始めたって話だった。
「両国の新しい指導者が手を取り合い、
虐げられる者が生まれる時代は終わりにする。
と共同声明を出しました」
「歴史的に見ても手を取り合うこと自体があり得ない国同士ですよね」
「戦争という手段に出るあたり野蛮な民族であることに変わりはありませんがね」
奴隷が認められてる国なんてあるんだ。
私は自分が住む世界のことすら全然知らないんだ。
はるま君が驚き立ち上がって言った。
「アーサーさんとシル?」
「え?」
「これトゥルホープと一緒だよ。同じことが起こってる。
違うのは…魔王が片方の国を滅亡させるって出来事があるかないかじゃない?」
「偶然…だよね?」
「わかんない。でもコメンテーターはありえないって言ってる。
ありえないことが起こったんだ」
アーサーさんがこっちの世界へ来て、何かしたとか?
ううん、それなら私たちが来てるって話してるんだから言ってくれるはず。
でも何かが起こってる。
「偶然じゃねーぞ」
「え?」
振り返ると天狗だった。
「偶然じゃないの?」
「お前らがなんかしたんだろ?それが魂の境涯を変えたんだ」
「どういうこと?つながってるってこと?」
「それはおめーじ…あれ?これ言っちまって良いんだっけ?
駄目だな約定に反する」
「なによそれ~役に立たない天狗だこと!」
今日はしおりんを呼んで作戦会議だ。
困ったらしおりんに全部話す。
そしたらなんでか答えが出てくる。
しおりんを待ちながらおやつとジュースの用意をしていると、
ママが教科書とか持って部屋に入ってきた。
「今日はお勉強会でしょ?しっかりお勉強しなさいよ。
また成績下がったんだから」
「は、は~い!動画見せてもらえるようにしっかり成績上げるよ!」
しおりんがやってきて話はじめた。
「……ってことで時間の流れが違うみたいなんだ」
「こっちで起きてる間も、あっちで一回寝てる時間なんだから、
単純にあちらの世界の方が早いってことじゃなさそうね」
しおりんはやっぱり着眼点が違う。
こっちの方が遅いから長い、私はそうとしか思ってなかった。
天狗が呆れたように言う。
「早いとか遅いじゃないんだわ。魂の回廊が基準なんだよ。
世界同士が直接つながってるわけじぇねーからな」
「魂の回廊?世界をつなぐ回廊をそう言うんだね」
「魂…の、回廊…?」
しおりんが何か考え込んでいた。
「人を介してのみ世界がつながっているってことね?
だから精神世界で起こった境涯の変化が現実世界にも波及する」
天狗がさらに呆れる。
「だからおめーらは自分達が世界の基準だと思い込みすぎなんだって、
精神世界の影響が現実に起こるなんて思ってるうちはわからね~よ」
「あ、そういうことか!
そもそも独立したお互いの世界が、
魂の回廊を通じて影響しあってるって考えないといけないのか」
「そういうことだな。
だからこっちで起こったことは他の世界にも影響する」
「もしかして…すべての人に魂の回廊は存在する?」
「そうだよ」
「私とナルの間に魂の回廊があって、私はそれを通ってナルに入って?
はるま君も同じように回廊を通ってマーリンさんに入る?
向こう側の人が封印されてて空だからいけるってこと?」
「だから、私は今のままじゃ無理って話になるわけね。
器が空じゃない私は出る先が無いから向こうに出られない」
「おめ~やっぱり賢いな。あんま賢い奴は苦手なんだけどな」
「ちょっと…待てよ…」
はるま君が顔を真っ青にしてる。
「父さんも封印してるんだから、現実に他の誰かが来ることも可能ってことか?」
「あ!」
天狗はからかうようににやけて言った。
「理論上はな。可能っちゃ可能よ」
しおりんが笑いながら言う。
「その反応見る限り可能だけど、その可能性は無いってことね」
「なんだおめーこれだから賢い奴は好きじゃねー」
少し不貞腐れてる天狗が可愛い。
「なんで可能性が無いの?」
「それは言えね~。魔王との約束らしいからな」
「魔王と!?!?!?なんで?」
「あ!今の無しだ。我等ってばなんも言ってね~」
天狗が慌てる。それ自体が約定ではないけど、約定に迫る大切なことなんだ。
しおりんが冷静に考えて言う。
「とんでもない仮説だけど良い?
たぶんゆうなちゃんのパパが魔王の片割れなんだと思う」
「パパが魔王?」
驚いた。でもそう考えればしっくりくる。
何故か暖かいと感じたあの雰囲気、パパみたいな笑い方する魔王。
はるま君を見るとはるま君も納得してる風だった。
「ゆうなちゃんパパ=魔王が現実で封印。
ゆうなちゃん=ナルが精神世界で封印。
はるま君=マーリンが精神世界で封印。
これをゆうなちゃんパパの意思で行ったってことよね。
封印されてる側がバラバラで私の頭じゃ筋が通らない」
「何故かは絶対言わね~。
それを言わせたらうっかりじゃすまされねーからお前らもただじゃ済まねーぞ」
「わかったわ。その件は聞かない。
ただこれだけは聞きたい。
ゆうなちゃんパパは悪い人なの?」
天狗は少し考えてから、肩をすくめて言った。
「多数決取りゃー、史上最悪の存在だろうな」
「え?」
驚いた。驚いたが、そう思わない少数派もいるってことだ。
魔王だって滅んだ国の国民からすれば悪だけど、
逆に救われた人々からすれば英雄かもしれない。
良いことか悪いことかなんて一概には言えないってことだ。
私達はそれを見てきたから、そのことだけは理解出来た。
パパは精神世界の魔王で、現実でも見方を変えれば魔王なのかもしれない。
しばらく答えの出ない問答をした。
「私達の封印が世界の危機を救うためだったとか?」
「それだと多数決で正義になる気がするわ」
「現実の利益を取るために精神世界を切り捨てたとか?」
「多数決だとごぶごぶね。
だけどそれだとゆうなちゃんパパが現実で封印されてる説明が付かない」
「精神世界の影響で現実に戦争が起こった。
ここまでをゆうなちゃんパパが想定していたとしたら?
それならゆうなちゃんパパは戦争犯罪者ってことになる」
「でもそれじゃー奴隷を解放するのが悪かって話になるし…」
「でもそういうことなのかも。
多数が悪だと思う戦争が、少数の人を救う引き金になる。
みたいな」
「難しいなあ。天狗さんおやつ上げるからもっと教えてよ~」
天狗は差し出されたドーナッツを食べる。
その沈黙が何よりの答えだった。




