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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第三章 回廊

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第36話 おねえさんと倉庫の中身

息子と遊ぶ夢を見た。


私に息子はいない。


あれは…動く泥人形?


ファンタジー世界のゴーレムというものか。


「父さん!ついに成功したよ!動いたんだ!」


とても嬉しそうに見せてくる息子。


いや、女の私を父さんと呼ぶこの子は誰だ。


でも、暖かい。


胸が暖かくなる。


幸せとはこんな気持ちなのか。


なぜだ。なぜこんな夢を見る?


息子が離れていく。


息子などいないとわかっているのに、胸が締め付けられる。


まるで本当に息子を失うかのように。



「今日は家族みんなでご飯食べに行くの」

振り返るとゆうなちゃんがいた。


「みんなじゃないよ。おねえさん行かないもん」

反対側のはるま君が言う。


そういえばこんなことあったな~。

彼が家族四人で食事に行くとき、それを二人がうれしそうに報告に来たんだ。


それをゆうなちゃんが自然に受け入れ、

「ほんとだね!おねえさんも行こうよ~。パパに頼んでくるね!」


この時から、私の中で二人は家族になったんだ。


子供を作らないと決めた私の唯一の家族は彼らだった。



実家を捨て、帰る場所がなくなった私は、いつも会社にいた。


朝も夜も休日も。


誰もいない事務所でも、いつも一人パソコンを開いていた。


彼にはいつも「帰れ」と言われていたが、そう言われても帰る場所がない。


私は笑って「もう少しやります」と答えた。


本当は仕事がしたかったんじゃない。


あそこだけが、私の家だった。


ビルの一階に会社三階が彼の自宅、子供たちはどちら含めて家だと思っていた。


夜誰もいなくなった後の「家」にいるおねえさん。


休みの日にも「家」にいるおねえさん。


なぜか「家」にいつもいる家族じゃないけど家にいる家族。



私は「おねえさん」だから、絶対に開けない。


何を開けない?倉庫?倉庫に何が入っているの?


確かに私は倉庫番だ。


あれ?私は倉庫番なの?倉庫番って何?

?倉庫ってなんだ?。


何を守っている?

世界が足元から崩れていく。



ドサッ


「痛たたた」


寝相は良い方なので、ベッドから落ちるなんて生まれて初めてだ。


だからこんな夢をみたのか?



携帯を見ると昼だった。


超ショートスリーパーの私は一日30分も寝れば十分だった。


起きているのが辛いので無理やり三時間は寝るようにしているが頻繁に起きる。


昨日は夜中の四時には寝たはずだったから…八時間も寝ていたことになる。


「普段どう頑張ってもこんなに寝れないのに…」



私は夢を思い返した。


昨日の夜は久しぶりに映画を見たが、親子の愛とは無縁のゾンビ映画だった。


「関係ないか…」



それにしても、なんの夢だったんだろう。

「倉庫ってなんだ。何を守っている?」

ただの夢じゃない。そんな気持ちだけが残っていた。



「彼は魔王、それはただの比喩であり私のイメージの話…


私が倉庫番なのも比喩…彼の大切な物を守るという決意の肩書」


ただの夢だったのか…


なにかが引っかかる。


何かが倉庫番の私に役目を全うしろと言っている。


「私は何をしていない?何をしないといけないんだった?」


頭が割れるように痛い。



寝すぎてふらつく頭を振りながら、瓶から薬を出して口に投げ入れる。


そういえば、彼はいつも薬を二倍三倍と飲む人だった。


まりさんにいつも医者の処方通りの量を飲むようにと注意されてたっけ。


「君の二倍も三倍も体の大きい俺が同じ量で治るわけがないだろう」


それが彼の決まり文句だった。


まりさんは私はそんなに小さくないわよと笑っていたな。


理屈じゃないんだけど、彼は適当にそういうことを言う人だったんだ。



「倉庫番としての役目はやっぱり倉庫を守るってことよね。

倉庫と言うより倉庫の中身…」


家族、彼の身体、あの線香?


守るべきなのはわかってる。

今更だ、何かを忘れている気がするんだから違うはずだ。


何かしっくりこない。なんだろう。



考えを整理する時は何かしながらの方が良い。


私は自宅から借りてきていた彼の私物を箱から出して並べる。


彼が凍ってから二年近くが経ち、返しても良いのだが、

仕事関係の物が多く返して欲しいとも言われないのでずるずる私が持っている。



ふと、お守りに手が伸びる。


これは彼がいつも身に着けていたものだが、普通の神社で買えるお守りとは違う。


仏壇に安置される掛け軸を小さくしたようなもの、

巻物みたいになっているが伸ばせば本当に小さな掛け軸になる。


一度見せてもらったことがあったが…


「あっ」


そういえば彼の身体にはいまだにお守りが首からぶら下がっている。


「じゃあこれは何?」


いやそうじゃない。


「あの中には何が入っているの?」



私はすぐまりさんに電話する。


「もしもし、ちょっと確認したいことがあって伺いたいのですが。


あ、今外出先なんですね。


はい、わかりました。じゃあ入りますね」


留守らしいが鍵は預かっている。


すぐに彼の家に向かった。



彼の寝ている部屋に入ると、すぐに首にかかったお守りの中身を確認した。


「これは…何かの宝石?」


黒い?


いや、色じゃない。


闇そのものに感じる。


何かが蠢いているような感覚。


見つめていると吸い込まれそうなほどの力を感じる。


これは…なんだろう。



「もしもし、何度もすいません。


はい、それで彼が身に着けているお守りなんですが、

これ少しお借りしても良いですか?


ちょっと調べてみたいなと思いまして。

はい。

はい。

じゃあちょっとお借りしますね」


私はそれを持ち帰ると物質鑑定に持ち込んだ。



一時間ほどして結果が出た。


結果は…現在確認されているどのような物質とも一致しない。


なんだこれは。


小説の世界とかで言うダークマターって所なのかな?


朝から収まらない頭痛がひどくなる。


ズキズキと痛む頭を抱えながら何かを思い出しそうな感覚が止まらない。


私はこれを知っている。


なんだこれは。


意識が遠くなる。


薄れゆく意識の中で私ははっきりと思い出した。


これは彼自身だ。



気が付いたらオフィスで倒れていた。


誰も来なかったのか。


頭がすっきりしている。


なぜか私は、これが彼自身だと知っている。


この記憶は何なんだ。


何かが抜け落ちてるんだろうか。



まだ何か思い出さないといけないことが残っている。


それだけが私の中に残った。



はっきりとわかっているのは、私の倉庫番としての役目はこれを守ることだ。

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