第33話 倉庫番と最後の仕事
「パラライズ、パラライズ、パラライズ!」
息が切れる。
はるま君が倒れた途端、魔獣の群れが襲ってきた。
「パラライズ、パラライズ、パラライズ!」
他に有効な魔法が無いわけじゃないけど、
この数をさばけるほどの魔法を私は知らない。
気力が削られる。
気を抜くと意識が持っていかれる。
「パラライズ、パラライズ、パラライズ!」
「止めよ!」
男性の声が聞こえた瞬間、魔獣の動きが止まる。
文字通り止まっている。
とびかかった魔獣が宙で止まる。
声の方を振り返ると、フードを被った人が立っていた。
「これがゆうなか」
「そのようですね」
後ろに二人の男性が控える。
「アリシアはこうなると思わなかったのか」
全身鎧の男性が答える。
「魔王様、アリシアは忘れていたのではないかと」
この人が魔王、怖いぐらい強烈なオーラを放っている。
でもなぜかやさしいような。心地よさを感じる。
「ハハハハハ。それもそうだな、アリシアらしいと言えばらしいか」
そういうと魔王は杖をはるま君に向けた。
光が放たれはるま君の身体が光で包まれる。
苦しそうに倒れていたはるま君が少し楽そうに見える。
「城の客室にでも運んでやれ」
そう言い残し、魔王はお供の一人と一緒に消えてしまった。
全身鎧の男性が私とはるま君を抱えて歩き出す。
私は、そこで気を失った。
目を覚ますと私とはるま君はベッドに横になっていた。
大きなベッドには慣れたけど、これはでかいなんてもんじゃない。
うちの寝室がすっぽり入るぐらいの大きさのベッドだ。
巨人でも泊りに来るんだろうか。
私が身体を起こすと同時にメイドさんが入ってきた。
「あ、お気付きになられましたか。
軽食をお持ちしましたのでよろしければどうぞ」
その言葉に私は跳ね上がる。
「親切にありがとう!お腹がすいてたまらなかったの」
テーブルに並んだ食事にがっつく。
サンドイッチにハンバーガー、おにぎりもある。
確かに軽食だが量がおかしい。
「ゆうなちゃん?」
「はるま君!どこか痛くない?苦しいとかはない?」
「大丈夫だよ。……何食べてるの?」
はるま君が私の口を見て呆れたように言う。
「そうなの。食事を用意してくれて、はるま君も食べよう!」
はるま君と一緒に食事を取る。
「ここはどこ?」
「魔王の城だと思う。
魔王って人が城って言ってたから」
はるま君が立ち上がる。
「魔王に会ったの!?話した?」
「はるま君が倒れて危ない所を助けてくれたんだ。
私は言葉も出せなかったんだけど、
魔王って人がお供の人に話してるのを聞いただけだよ」
「そうか、どんな人だった?」
「なんかね。パパみたいな笑い方する人だった」
「父さん?」
「すっごく楽しそうに笑うの」
「魔王…笑うんだ」
「良い人そうだったよ。なんか暖かい気を感じた」
そんな話をしていると、私達を運んできた男性が入ってきた。
「お、起きたか。身体は大丈夫かい?」
「この人が私達を助けてくれたんだよ」
私がそう言うとはるま君と二人で頭を下げた。
「はい、ありがとうございました」
「大事なくて良かったよ。アリシアにはきつく言っておかないと」
「とんでもない!
アリシアさんには大変お世話になっているので、
きつくなんて言わないでください」
「いや、こっちの話さ。
アリシアも君たちのことは知ってたはずなんだ。
イフリートをマーリンに近付けたらどうなるかも」
「マーリン?さん?」
鎧の人ははるま君を見て言う。
「君が入ってる器の中身って言えばわかるかな?」
「なんとなくですが、器とかあまりわかっていなくて」
「俺達もそんなにはわかってないんだよ。その中身がこの魔王城に眠っている。
イフリートにしてみれば君のことをご主人だと思ってるのに、ご主人が城にいる。
そりゃ混乱するよね」
「あの燃え上がるような熱さはイフリートが混乱してるからだったのか」
そこでようやく俺は理解した。
俺はハッと思い出しアリシアさんが書いた絵を見せた。
「僕たちこの人に会いに来たんです!どこにいますか?」
鎧の人は、少し悲しそうな顔をした。
「彼は最近城に顔を見せない。
どこにいるのかは知らないなあ」
ここまで来て会えないなんて、がっかりなんて言葉で表せない。
RPGでありがちな、
あっち行ったと言われて行ったらまた違う場所に行ったと言われてってやつだ。
「倉庫番だって聞きましたが、城にはいないんですね」
「彼がいないと倉庫は開かないからね。逆にいないからこそ鉄壁なんだよ」
「彼の仕事場になら案内出来るけど?倉庫の入り口、管理室だね」
恐竜の痕跡が少しでも追えるならなんでも知りたい。
「見たいです!」
「じゃーそっちのお姉さんが食べ終わったら行こうか」
静かだと思っていたらゆうなちゃんは口いっぱいに食べ物をほおばっていた。
管理室は机に書類の山と鉄格子があるだけだった。
「この鉄格子の向こうは入れないからね」
鉄格子の中は一直線に通路が伸びていて、両サイドに無数の鉄格子、
はるか先にも厳重な鍵がかかった鉄格子が見える。
先に見える鉄格子を見ていると身体が引っ張られる感覚に襲われた。
何だか引きずり込まれそうな。
「あの最奥の倉庫にはね。マーリンが封印されてるんだよ」
「封印?もしかしてナルも?」
「ん?聖女か?そんな名前だったかな。いるよ」
「私達の器。二人ともここにいるんだ」
「正確に言うと三人だね。もう一人が誰なのかは知らないけどね」
机の上に日誌のようなものを見つけた。
入出庫記録のようなものだった。
最後のページにはこう書かれていた。
最奥の倉庫、これを開けることは二度とない。
わしの役目は二度と開けることのない倉庫を二度と開けられない状態に保つこと。
ここでやる仕事はこれで終わった。
それ以降の記録は一切なかった。
倉庫番が全ての仕事を投げうっても開けない倉庫。
俺たちの器になった人を封印するのがそれほど大切なんだ。
なぜだ。
そしてもう一人…
誰が封印されているんだ。




