第32話 はるまと魔王城
ここで恐竜と暮らしてたんだ。
初めて火を起こした場所、初めて自分で狩りをして調理した場所、
学校の勉強もほとんどここでやった。
「泣き虫だったはるま君がね~」
ゆうなちゃんが笑いながらも、少し悲しそうな顔をした。
「その頃、私ははるま君が大人になっていくのが不思議で、
少し寂しくてずっと考えてたよ」
「長い時間を過ごしたからね」
「あっちの方が魔王城だと思うんだけど、
歩いても歩いても進めない場所があるんだ」
ゆうなちゃんが反対を指さして言った。
「ってことはあっちに森があるのね」
「そうだね。とりあえず森に向かおうか。結界の番人って人がいるはずだ」
俺たちは乗せてきてくれたペガサスに別れを告げて歩き出した。
静かな森、あの時に見た異様な雰囲気は感じられなくなっていた。
この世界に慣れたからか、大人になったからなのか。
ゆうなちゃんが躊躇なく森に入っていく。
「はるま君~おいてくよ~」
ゆうなちゃんが一緒なのかもしれない。
俺は少し笑いながら踏み出した。
「確かアリシアさんと会ったのがこの辺りだね」
「はるま君ストップ!」
足を止めてゆうなちゃんの見ている先を見る。
「熊か…勝てるかな…」
ゆうなちゃんが杖を構える。
熊がこちらを見ている。
しかし、熊はそのまま去って行った。
「なんだろう?襲ってはこないのかな」
「おなかすいてないからとか?」
アリシアさんの説明通りに進むと、小屋を見つけた。
「聞いてた通りだね。すぐ見つかって良かった」
ゆうなちゃんが小屋に駆け寄りノックした。
こういう度胸はうらやましい。
俺ひとりなら小屋に入るまでに半日ぐらいかかりそうだ。
「開いとるよ~入ってきんさい」
それを聞くとゆうなちゃんが扉を開けた。
「おじゃましま~す」
部屋に入ると、背の低いおじさんがソファに寝転がっていた。
「お嬢ちゃんがこんなところに、なんだったかね?」
「魔王城に入りたくて、アリシアさんに言われてきました」
「お~嬢は元気かね。あの子は弱いもんでいつも心配しとるんだわ」
アリシアさんが弱い?
今までの魔王軍の基準を知らなければ絶対に別のアリシアさんだと思っただろう。
この人たちの基準だと、アリシアさんでさえ子ども扱いなんだな。
「アリシアさん弱いの?おじさんはもっと強いってこと?」
ゆうなちゃんがズケズケと質問する。
「んだ。ケツ叩かれて泣いとる嬢を見てきたもんでな」
「アリシアさんにもそんな時代があったんだね」
「とりあえずお茶でも入れるかね」
「俺たち、出来るだけ早く魔王城に行きたくて」
俺は早く恐竜に会いたい気持ちを押さえられなかった。
早く来たいけど、訓練が必要だからとずっとお預けくらってたんだ。
「まあ待ちんさい。話も聞かせてもらわんとね」
おじさんが指を鳴らすと、足の生えたマグカップが歩いてきた。
メルヘンチックに見えなくもないけど、少し気持ち悪いと思った。
「可愛い~自分で歩いてきてくれるんだ~欲しいな~」
可愛くないし、もらって帰ったら母さんが絶叫する。
カップは自分でポットに口を向けると、ポットが立ち上がり注ぐ。
なんか異様な光景だ。
「わ~すご~い。可愛いな~」
可愛くないって。
おじさんはソファから座りなおしてこちらに向きなおる。
「おっこらしょ。さ~座って飲みんさい」
「そういえば。この森って魔獣とかもいるんですよね?
全然襲われたりしなくて、熊もいたけど、襲ってくる動物とかはいないんですか?」
「人喰う魔物もたくさんいるでな。普通の人間だと襲われるんじゃが…
そっちの僕はイフリート飼っとるね。だからだで」
「イフリートを怖がってってこと?」
「そりゃー火を怖がる魔物にとっては、炎の王は怖いんでね~かい」
「聞いてはいたけどイフリートって強いんだね」
「そりゃおめ~。
相当な魔術のセンスとか研鑽が無けりゃめったに契約には応じん精霊だもんで」
「なんで俺と契約してくれたんだろ」
「おめ~っていうよりは、契約の問題じゃの。
もともと契約しとる精霊じゃから呼び出しに応じただけの話だで」
「俺の器になった人を知ってるの?」
「そりゃーの。
魔王軍でもトップクラスの才能持った子だもんで知らんもんはおらん」
「アリシアさんそんなこと何も言ってなかった…」
「トップクラスの魔術師に聖女、私たち二人とも凄い人の中に入ってるんだね」
「嬢ちゃんは聖女様かえ?ほえ~ちんこいのにの~」
「それで結界の中に入れてもらえますか?」
「ええよ。それだけの力がありゃー大丈夫じゃろ」
意外と軽く了承してくれた。
「じゃーいくかの~」
「ありがとうございます!」
俺たちはおじさんに礼を言ってついて行った。
「それはそうと嬢は元気しとるんかいの~」
俺はこの森で会ってから、トゥルホープの一件まで全て話した。
「ほ~嬢がね~大活躍でね~かい。魔王様もお喜びなさるじゃろう」
「ほんで何しに魔王城へ行くんでな?」
「倉庫番と呼ばれる人に会いたくて」
「じゃー魔王城に行かんでも…まあええか魔王城におるかもしらんし」
森を抜け小川を超えたあたりでおじさんが足を止めた。
「さ~て開けるぞ」
おじさんは大きな斧を振り上げて、何かぶつぶつと言葉をつぶやいた。
おじさんの斧が空を切る。
空振りって意味じゃない。
文字通りその空間を切った。
裂け目が出来ている。
「さ、入りんさい」
俺たちはおそるおそる足を踏み入れた。
「じゃー気を付けての」
裂け目の向こうでおじさんが手をふる。
俺たちはお辞儀して礼を言った。
「ありがとうございました」
裂け目は一瞬で元に戻った。
裂け目の向こうは、大草原が広がっていた。
遠くの方に大きな城がかすかに見える。
城を目印に歩くが、魔物が道を作るようにこちらを伺っていた。
「やっぱり襲ってはこないんだな。イフリートの影響かな」
「お尻かまれなくてよかったね」
ゆうなちゃんが笑っている。
「そんなの最初だけだったでしょ」
城が近づくにつれ身体が熱くなるのを感じた。
「なんか暑くなってきた?」
「そんなことないよ?ってはるま君凄い汗だよ」
「なんだこれ、身体が燃えるように熱い」
「はるま君?はるま君?」
ゆうなちゃんの声が遠くなる。
駄目だ。
こんなところで、薄れていく意識を保とうと踏ん張るが…
ドサッ




