第31話 恐竜と二人の息子
「君はここに来ちゃダメなんだがねぇ。
魔王様も困りなさる。
どうしたもんか」
実際わしは困っておった。
魔王様からもしかしてと言われていたが、
本当にそんなことが起こるとは。
今の今までそこには、
我が息子、マーリンが寝ておった。
儀式の後、時を止めて眠り続ける息子を、
森の我が家へ連れて帰る途中だった。
「ここはどこ?」
はるまが問いかける。
さてどこまで話したものか。
「ここはなんていうかの~頭の中の世界じゃな。夢の中とでも思っとくれ」
わしもこことはるまが居た世界の説明は正確には出来ない。
ごまかせてるのかわからないがふわっとさせておくか。
「なんではるま君のこと知ってるの?」
「君のお父さんと知り合いでの~聞いておった子に似ておったからじゃ」
仕方ない。
この子をほってもおけんし、かといって必要以上に教えられん。
しばらく相手をしてみるとしよう。
マーリンが儀式により止まったのは魔王様の意思だった。
だが、魔王様のために犠牲になったわけではない。
魔王様のために犠牲にしろと言われていたとしたら、
わしはおそらく犠牲にしておったであろう。
そんなわしが言うのもなんじゃが、魔王様は最後まで抗って下さった。
わしが魔王様以外で初めて、
自分の命をかけても守りたいと思えた彼女。
彼女を失ったわしには、家族はマーリンしかおらん。
魔王様をも凌駕するかもしれん魔法の素質を持った我が息子。
マーリンを失うことは魔王様にとっても痛手であったろう。
いや、魔王様はそんな打算で人を大切にする人ではないがな。
息子を封印したのは、むしろこのはるまという子の存在のせいじゃ。
この子が悪いわけではないが、少し複雑な思いもあった。
しかし、この子を見ておるとマーリンが帰ってきたような。
そう思うとほっとけんかった。
それからわしはこの子に学問を教え、一人で生きていく術を叩きこんだ。
すぐ泣く所など、マーリンにそっくりじゃ。
「泣いておっても腹はふくれんぞ。
泣いてる暇があったら肉を切れ」
「はるま君、ご飯はママに作ってもらう~」
「平和な世界で生きてきたんじゃな~まったく」
はるまが初めて一人で火をおこしおった。
「できた……」
「やっと一人前じゃな」
「出来たよ!僕火をつけたよ!やった~」
成長が我が子のことのように嬉しかった。
「自分で着けた火で焼く魚はきっとうまいぞ」
わしはそう言うと、串に刺さった魚を火にかざした。
しかし、この子はいつまでこっちにくるんじゃ。
もしかしてずっとこのままなのか?
ある時、ふとはるまが聞いてきた。
「なんでそんないろんなこと知ってるの?」
魔王様に広げてもらった回廊で少し知識が入ってくるんじゃが、
その仕組みはわしにもわからんし、実際どうやって知識が入ってくるのか知らん。
「そりゃ知らんわい」
嘘ではないじゃろ。
魔王様のことは言えんしな。
「なんでも知ってて、パパみたいだね」
はるまが何気なく発したその言葉に胸が締め付けられた。
息子よと抱きしめたかった。
数年経ったが、はるまは全然帰る気配がない。
このままこの世界で生きていくことも考えた方が良いかの。
「父さんに会いたい」
はるまの望みはそれ一点じゃった。
それも叶えてやりたいが叶わんじゃろうな。
最近考え込むことが増えた。
はるまにマーリンを重ねる。
マーリン、いやはるまなら。
魔王様がおらんでも魔王様が望んだ世界が作れるかもしれん。
それならば魔王様は解放される。
そんな考えが頭をよぎる。
魔王様を眠りにつかせてやりたい。
そんなことを考えておった時じゃった。
「父さんに会いたい」
はるまのその言葉に、
魔王様が人柱となって眠れば、この子の父は眠りから覚めるか。
という思いが頭に浮かんだ。
「ふ~、魔王様を倒せば会えるよ」
うっかり言ってしまったわい。
しかし、それが魔王様にとって一番の道かもしれぬ。
この子なら、マーリンの器に入るこの子なら、
理を曲げて魔王様がおらんでも良い世界を見つけるかもしれん。
「魔王って悪いやつなの?」
ああ、魔王様よ。
お主は悪い奴であろう?
この世の悪を全てその身に背負って眠りにつくのじゃからの。
「……そうじゃな」
「どこにいらっしゃるかも答えられんでな。自分で探せ」
この子には、世界中を冒険して知識と力を手に入れて欲しい。
そうしなければ、大きなことは成し遂げられん。
その日を最後にわしははるまに会うのを止めた。
心配じゃから見ておったがの。
その道は進めんぞとか教えてやりたかったわい。
森でアリシア殿と会った所で見守るのを辞めた。
彼女ならはるまを導いてくれるじゃろう。
さて、わしは倉庫番の仕事に戻るかの。
何があっても最奥の倉庫は開けん。
とびきりの封印を施さねばの。
しかし、心配もある。
アリシア殿もはるまの名前を知っておるはずじゃが、あれは完全に忘れておるな。
言っておくかの?
いや、ええじゃろ。
わしらに守られ過ぎてもはるまの成長を妨げる。
はるまよ。
世界を知れ。
魔王様の悪を理解しておくれ。
きみの父が犯した罪も知っておくれ。
全てを自分の目で見て頭で理解しておくれ。
そして、マーリンよ。
この方法しか取れんかった父を許せとは言わぬ。
だが、この父の代わりにはるまを守ってやっておくれ。
この父以上の答えで、魔王様の望みを叶えてやっておくれ。




