第30話 はるまと前進する希望
見つかったら絶対に殺される!
ここで死ぬわけにはいかない。
俺は絶対恐竜に会うんだから!
「見つけたぞ~!てめ~ら!やっちまいな!」
見つかった!多数の牙が俺目掛けて食らいつく。
「痛い~痛い痛い!」
お尻をかまれて逃げ回る。
「辞めて辞めて、ほんとに痛いって!」
アリシアさんが大声で笑いながら狼の群れをけしかける。
「魔王城はこんなにやさしくないよ!これじゃ門番に食われて終わりだね」
アリシアさんがトゥルホープを離れられないので、魔王城へ入る紹介状をもらった。
でも魔王城の周りには魔獣が住まう領域が広がっていて、
それを突き進む強さがなければ入ることすら出来ないということだった。
基本的に来訪者を受け付けない魔王城の砦だそうだ。
なんでだ。訪問者ぐらい想定しておいてくれよ。
「普通さ~魔王なんだから外部からの謁見とかあるでしょ」
という問いにアリシアさんは笑いながら答えた。
「魔王は引きこもりなんだよ。人と会うの嫌いなんだ」
そういう割には魔王はしばらく留守だから会えないらしい。
「それ引きこもってないでしょ」
「だから誰かに会わないように逃げ回ってんじゃねーの」
アリシアさんは笑った。
アリシアさんは特訓の間、恐竜の話を少しだけしてくれた。
「あいつはちょっと怖いんだよね」
アリシアさんが怖がるのは、恐竜の性格によるものみたいだった。
「好きだったり尊敬だったり、崇拝してるやつもいるけど、
魔王の元に集まった仲間ってことはみんな一緒なんだよ。
ただあいつだけは…例えばそうだね。
魔王が命がけで守りたいものの為だったら、
あいつはほんとに魔王殺してでも守るんだよ」
魔王殺しちゃうんだ、それ怖いな。
「だから魔王ですら、あいつには頭が上がらないんだよ」
「魔王の腹心、みたいな立場ってこと?」
「そうなんだろうが、やつはそういう次元じゃ語れないね。
そもそも魔王軍って上下ないからね。
みんな好き勝手動くし、私も誰かに言われてここにいるわけじゃないしね」
魔王に命令されて動いてるわけじゃなくて、
魔王の理想を実現させるために勝手に動いてる。
なんか不思議な世界だなと思った。
そんな生活が一週間以上続いた。
「パラライズ!」
狼の群れがその場で動きを止めた。
しびれてるんだ。
ゆうなちゃんは逃げ回りながらも勉強を頑張り、
初級魔法を一通り使いこなすまでになっていた。
「はるま君もやってみせてよ!」
ゆうなちゃんに言われるままに俺は手のひらを狼に向ける。
「ファイアウォール!」
狼の群れの前に炎の壁が立ち上がった。
魔獣は基本的に炎を恐れる。
そこで俺は、イフリートという炎の精霊と契約をした。
炎の精霊と言うと普通はサラマンダーという精霊らしいのだが、
なぜか精霊の王とされるイフリートが現れて契約してくれた。
アリシアさんがありえないことだと驚いていたが、ラッキーだったのかな。
最初は狼に追い回されるだけだった俺達も、
今では多少余裕を持って対処できるようになっていた。
いよいよ準備は整った。
シルが来るらしいので久しぶりに会ってから魔王城に行くことになった。
正式にトゥルホープ王国が発足するにあたり、
調印式というものが行われるらしい。
俺たちは城下町の街道でシルを出迎えた。
「シルちゃーん!」
ゆうなちゃんが走り出す。
「ゆうなちゃん!」
シルも走り出す。
二人が再会を喜び合う…場面でゆうなちゃんが転んだ。
やれやれ。お約束だな。
「もう、ゆうなちゃんったら、やっぱりお姉さまみたい」
「私が、お姉さんみたいに大人っぽいってこと?」
「それだと妹みたいって言った方が良いかな」
シルが笑っている。
でもどこか疲れていた。
きっと大変なこともたくさんあるんだろう。
シルの後ろに歩いていた女性に目がいく。
聖女?というには少し簡素な服装だな。
侍女のようなものか?
見ているとシルが声をかけてきた。
「あれは聖女候補です。
いつまでも私ひとりでは問題なので、
いろんな町の孤児から、まずは10人選びました」
「全員が聖女になれるかはわからないんだよね?」
「基本的には祝福で聖女候補として認められれば、
聖女になる資格はあるんですが、まあ簡単ではありませんね。
私はたまたま候補が私しかいない状況だったので、簡単になっちゃいましたけど」
シルが屈託のない笑顔で笑う。
簡単では無かったろうにそれを出さないのはシルらしいな。
「あ!」
シルが通りの向こうを見て目を丸くした。
「あ、あれはシルを捕まえようとしていたおじさんだ」
シルはすぐに小走りでかけだした。
ざまあ展開じゃないよな?
いや、シルに限ってそれは無いか。
そう思って見ていると、おじさんの前でシルが膝まずく。
身辺警護の兵士がシルを立たせようとする。
そりゃそうだ。聖女様にそんなことをされたら兵士の首が飛びかねない。
シルが兵士に頼み何やら受け取るとおじさんに渡す。
おじさんはそれを受け取り恐縮しながら何度も頭を下げていた。
俺は近寄りシルに声をかけた。
「何を話してたの?」
「昔盗みを働いたことを詫び、お詫びにお金をお支払いしていたのですよ」
そうか、やっぱりシルだな。
実際におじさんは何も悪いことはしていない。
盗みをした少女を捕まえようとして、邪魔をした俺に怒っただけだ。
シンシアを殴ったのはやりすぎかもしれない。
でもシンシアも剣を抜いていたし、
最後はアリシアさんにぶっ飛ばされていた。
むしろ、おじさんは被害者だ。
「俺も、すみませんでした」
「いや~いいよ。
きみのおかげで、俺が聖女にひどいことをした人間にならずに済んだからね」
おじさんは笑って去って行った。
「ですが、聖女様、あのようなことは今後お辞めください。
何かありましたら私共がしっかり対応させて頂きますので」
シルは深々と頭を下げ、謝罪を口にする。
「ごめんなさい。あなた達の立場も考えず勝手をしました」
「だからそれを辞めて下さいと、
聖女は相手が枢機卿であっても謝罪は許されません」
シルはいつものシルの笑顔で答えた。
「それは辞めましょう!
聖女でも悪いことをすれば謝ります。
私ははじまりの聖女ですよ?
聖女の常識はこれから新たに作りましょう」
そして少し小声で言う。
「倣うとすればそれは、最後の聖女である聖女ナルビアだけです」
兵士がひざまずき謝罪する。
「出過ぎた発言申し訳ありませんでした」
「それも辞めましょ!
あなた達が何も言ってくれなくなったら、
私は民を絶望に落とす破滅の聖女になっちゃいますよ?」
シルは舌を出しておどけている。
少し変わった所もあるが、シルらしい良い変化だな。
俺は嬉しくなった。
「良い聖女になったね。破滅の聖女にならないように気を付けて!」
俺は笑いながら言う。
兵士は少し困っている。
この世界の希望と言われるはじまりの聖女。
彼女ならきっとこの世界を導く存在となっていくだろう。
自分のおかげだとは言わないが、そんな未来を少し誇らしく思った。
明日はいよいよ魔王城に向かう。
しっかり身体を休めた俺たちは、
新しい冒険に期待と不安を膨らませながら眠りについた。




