第29話 アーサーと最初の王
「兄弟を殺すとは…まさか姉上がこんな大胆な手に出るとは予想外でした」
アーサーの握りこぶしから血が流れている。
怒りなのか動揺を隠すためか…
「父上はどうされた?
これから何をしようとなさっているのか、お聞かせ頂けますか?」
「お父様は盛大に死んでもらわねばなりませんから、あなたが幽閉したままよ?
暴君として粛清されることで、私の戴冠を彩ってもらうのよ」
アーサーが倒れている人たちを確認する。
「なぜ彼らを?」
「第六王子には婚約者の実家に協力してもらわないといけないから、
生かしておいたの。商会の力は必要でしょ?
上の四人は邪魔だし、宗教家に用はないもの。隣国は征服すれば済む話でしょ?
後はあなただけど、あなたはどっちでも良いわ。弟は姉に従ってれば良いのよ」
アーサーが愕然とする。
「馬鹿な、これまでどれだけ苦労したと…」
「あなたの苦労は私のためにあるのよ。女王のためにね。
とりあえず魔王軍の皆様にはお帰り願おうかしら、友好条約も見直しよ。
魔王のような野蛮な人と私のような優雅な人間では手はとりあえないわ」
次の瞬間、女の顔が苦痛で歪む。
「ぎゃーーーー、何?何が起こったの?」
耳を押さえ泣き叫ぶ女の足元にポトリと耳が落ちる。
「今さ~もしかしてだけど、魔王を侮辱したのかい?」
「はーはーはー、この者を捕らえなさい!」
誰も動かない。
衛兵がお互いを見合う。
アーサーが呆れたように言う。
「本当に馬鹿だ。
あなたがこれほど馬鹿だったとは、暴君ではあったが父上も頭は悪くなかった。
まずバカバカしい話ですが、私の方が皇位継承権が高いことはご存じで?
なぜ姉上が国王候補としての教育を受けていなかったかも」
女が痛みをこらえながら玉座から立ち上がる。
「は?姉の私を差し置いてあなたが王になどなれるわけがないでしょう!
私が教育を受けていなかったのは、私にはそんなもの必要なかっただけよ。
私が望めば手に入る。私が気に入らなければ排除する。
そう私はヒルホープの女王になるために生まれたのだから!」
アーサーが頭を振りながら答える。
「王子と王女の時点で違うのですよ」
女は心の底から驚いてあとずさる。
誰にも確認しなかったのだろうか。
俺から見ても本当に馬鹿だと思う。
「そして、あなたが馬鹿なおかげで私が自動的に王位継承権第一位になれたんだ。
姉上が兄弟を見殺しにしたので、姉上を殺せば全てが終わる。
あなたが馬鹿だともっと早く気付いていれば、王位などとっくに確定していた」
「そんな、でもじゃああなたを殺せばやっぱり私が女王ね。
トゥルールなどすぐに兵を差し向け滅ぼしてくれるわ。
その次は魔王の討伐よ!」
女が話終えた瞬間、左耳が飛ぶ。
「誰を滅ぼすって?」
女は苦痛に悶え助けを求める。
「誰を滅ぼすのかって聞いてんだよ!」
耳が聞こえないのか、答えはない。
「誰を滅ぼすのか答えやがれ!」
そう言いながら手を振り上げたアリシアさんをシンシアが制止する。
「聞こえてないんじゃない?耳無いし」
「あ?ああ」
アリシアさんはしまったという顔をしたが、冷静になったのか、
「アーサー、すまない。私が口出しすることじゃなかった」
と言い残して部屋から出て行った。
「姉上が生きていれば戦争の火種が消えぬことがよくわかりました」
アーサーさんは腰を落とし剣に手をかける。
「姉上、御免!」
剣を抜いた瞬間、女の首が飛んだ。
ドサッ!
身体が崩れ落ちる。
兄弟が殺しあうのを見るのは、すごく悲しい。
俺ならどうする?
俺なら…世界がどうなろうがゆうなちゃんを殺せはしないだろう。
父さんがそうだった。
俺やゆうなちゃんのためなら世界を滅ぼす側にだって回るっていつも言ってた。
たぶん比喩じゃなく本当に思ってたと思う。
とにかく、これでアーサーさんが王になるのは確実だろう。
それはそうと、俺は結構魔王のこと悪く言ってた気がして鳥肌が立っていた。
野蛮だって言うだけで耳が飛ぶんだ。気を付けないと…
アーサーと第六王子との話し合いが隣の部屋で行われている。
ときどき、笑い声が聞こえたり、泣き声が聞こえたり、複雑なんだろう。
その日は、国王とアーサー、第六王子で会食したそうだ。
最後の晩餐。なんだろうな。
翌日、俺達は朝食を取りながら今後のことを話した。
アリシアさんはこの国の監視役としてしばらく残るそうだ。
俺とゆうなちゃんはどうするかな。
この国に滞在するのならかまわないと言ってくれているが、
シルの所に行くのもよさそうだ。
でも、この世界をもっと見てみたいなとも思ってる。
封印のことも調べたい。
俺たちがここに来た方法も理由も知りたい。
「恐竜にも会いたいしなあ…」
思わず口からこぼれた。
「それいっつも言ってんな。父さんと同じぐらい。誰なんだ?」
「誰って、この世界に来て何もわからなかったころに会ったんだ。
生きる術も知識も色々教えてもらったよ。
師匠って感じかな」
ゆうなちゃんが興味深そうに聞いてきた。
「へ~そんな人がいたんだね。そんな人だったの?」
「俺のお気に入りのぬいぐるみいるでしょ?恐竜の。あんな感じの見た目で…」
「あ~緑色の可愛くてちっこい感じってことね!」
アリシアさんが何かに気が付いたように聞いてた。
「緑?あんな色かい?」
恐竜と同じ色の椅子を指さす。
「そうそう、そんな色だね」
「小さい恐竜…?」
何か知ってるんだろうか。
考え込むアリシアさんから目が離せない。
そこにアーサーさんが入ってきた。
「おはよ~!アリシアちゃ~ん。今日も可愛いね~」
「そんなことはどうでも良いんだよ!先にどうなったのか話な」
「第六王子には辺境伯としてヘルホープとトゥルールの旧国境付近を収めてもらうことにした。
義実家の商会の本拠地もそこに移ってもらってね。
国境は無くなるけど、
両方が反映するためにもそこに経済の中心地を作って欲しいのさ。
公爵位も授けるから義実家も大喜びさ」
アーサーさんのこぶしが震える。
「国王は…この後断罪する」
簡単な決断じゃなかっただろう。
アーサーさんの望む未来の為には仕方がないんだ。
その後、多くの国民が見守る中、罪が読み上げられ国王の首が落とされた。
連れ去られる時に喚き散らしていた人間とは思えない静かな落ち着いた印象だった。
アーサーさんは涙を流していなかったが、泣いていた。
剣を抜き天高く突き上げたアーサーが叫ぶ。
「今ここに宣言する!
ヒルホープの悪しき歴史はここで絶たれた。
これからヒルホープはトゥルールと併合し、トゥルホープ王国として生まれ変わる。
私はトゥルホープ王国の最初の王、アーサーである。
始まりの聖女シルビアと協力し、全ての国民が命を脅かされない、
何物にも奪われない、幸せな未来を描ける国を作ることをここに誓う」
「わー!」
大歓声が巻き起こる。
それから街中が歓喜に沸いて祭りになった。
アーサーが街を歩き、ひとりひとりの手を取り笑いかける。
この街の人達は幸せに見えた。
でも、本当はそうじゃなかったんだろう。
だからこそ、これからの希望に湧く人々の顔が眩しく見えた。
パレードを見守り屋台でつまみ食いをする俺に、
アリシアさんが紙切れを見せてきた。
「あんたの言う恐竜ってのはこんな感じかい?」
「恐竜だ!」
アリシアさんがいらついた顔して言う。
「そうかい、なら私はこいつを知ってるよ」
「誰なの?」
アリシアさんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。
「魔王城の倉庫番って呼ばれてるやつさ。
会いたいなら魔王城に行きな。会えるようにはしてやる」
恐竜に会える。
この大歓声がかき消されるぐらい、俺の心は歓喜に踊った。
―― 第三章 完 ――
新たな王が生まれ、
新たな聖女が生まれた。
だが、ゆうなとはるまの旅はまだ終わらない。
真実の向こうにあるのは希望か絶望か、
世界の意思が姿を現し始める。




