第28話 シルビアと始まりの聖女
「聖女シルビアよ。その聖名の元、我ら全てを導き下さい」
跪く枢機卿に祝福を授けるシル。
街中から大きな歓声が上がる。
「聖女様バンザーイ。神は私達を見捨てていなかった」
泣きながら祈る人もいる。
「聖女の要請によってヒルホープ王国からの援助物資です!並んで並んで~!」
アーサーさんがみんなに食料を配っている。
流石だな。
あの馬車はこの荷物を運んでいたんだ。
「ただでもらえるんですか?やっと子供に腹いっぱい食わせてやれる」
そうこうしているとたくさんの馬車が走ってきた。
馬車が止まると枢機卿と同じような格好の人達が下りてくる。
シルを見つけるとすぐ走ってきて膝まずく。
「聖女シルビア様!急ぎ参じました。
あなた様こそ始まりの聖女、我らの希望です。なにとぞ我らを御導き下さい」
シルは困ったように俺を見た。
昨日まで国を追われた聖女候補だった少女に、
国の命運が託されようとしていた。
その後、聖女と枢機卿団の会談の場が設けられた。
国の行く末を決める会議となる。
俺は気になるので部屋のドアの隙間から見ている。
アーサーさんも参加しているが、シルを守るナイトって感じだ。
アーサーさんが目くばせするとシルが口を開いた。
「まず私はトゥルールと言う国を復興するつもりはありません」
どよめきが起きた。
「それはどういう…」
「神の名のもとに全ての民衆を救うのが私達の役目ですよね。
国として繁栄することが目的ではない。
私は教会の悪い部分もたくさん見てきました。
それは教会が権力を持ってしまったことが元凶なのは明らかです」
半数がうろたえ、半数はうなずいてるって感じだ。
「こちらのアーサー皇太子が私をここに導いてくれました。
今後のトゥルールの復興にも尽力頂けるとお約束も頂いています。
国土を明け渡し、ヒルホープと共にたくさんの人が救われるでしょう」
「それはトゥルールが無くなるということですか!」
アーサーが口を開く。
「違います。トゥルールはヒルホープの国教として共に繁栄することとなります」
何名かの枢機卿は気に入らないようだな。
「それではトゥルールの歴史と誇りを捨てよと言うのですか!」
シルビアが静かに立ち上がり、でも力強く言う。
「その通りです」
全体がどよめく。
「私は始まりの聖女として、
これから始まる未来のために歴史を捨てよと言っています」
「私は民を救う聖女として、
救いの妨げになる誇りなど捨てよと言っています」
「全ての民を救うためならば、
国など捨てよと言っているのです」
誰も反論できなかった。
「盗みを働いた少女すら守り、救い、導いた、私の友のように、
私はあなた達も含め全ての民を救います。
どんな手を使ってでも」
枢機卿の全員が立ち上がり、一歩下がって膝をつく。
「どこまでも聖女様と共に!」
アーサーも立ち上がって宣言した。
「我がヒルホープ王国もトゥルールと共に」
国の指導者と言うのは凄いな。
「僕も頑張るよ~」とか言うかと思った。
シルももう立派な指導者だ。
あんなことを言うなんて、まるで父さんみたいな力強さを感じた。
その後、会食が開かれたが、俺たちがシルと話をする機会はなかった。
シルの「親に売られた子供を連れ戻すように」という話が聞こえてきた。
もうシルは自分のことやナルのことだけを考える子じゃなくなったんだ。
嬉しかったが、
聖女になったシルが少し離れていく気がして寂しい気持ちにもなった。
翌朝には王国に戻るために準備をしていると、シルが現れた。
「私はここに残りますが、皆さん本当にありがとう!」
「演説すごかったよ。
聖女様の救いたいって決意が伝わってきた」
「シルちゃんとは事前に打ち合わせはしたんだけどね~。
僕が言ったのは作法とか言い方だけで内容はシルちゃんが考えたんだよ。
はるま君ならこういうこと言うだろう。
はるま君なら大切な物を見極めろって言うだろうってね」
シルが恥ずかしそうにうつむく。
「俺が言ったことって、父さんが言ってた話をしてたからかな」
アリシアさんが笑いながらこっちを見た。
「あんたの父さんは知らないけど、ありゃどう考えてもあんたの影響だろ」
「え?俺はあんなこと言わないよ~」
シンシアも笑う。
「言うだろ。ゆうなちゃんを守るためなら全てを捨てるとか言いそうだ」
ゆうなちゃんがからかうような顔でこっちを見る。
みんなが笑ってる。
まるでヒルホープの転覆の前に一息つくように。
翌朝、馬車に乗りヒルホープに戻る。
途中、ヒルホープの馬車の一団をたくさん見た。
「王を捕らえた直後にね。
各地へ救援物資を届けるように指示してきたんだ」
アーサーさんは何手も先を読んでたんだ。
こうなる確信があったのか。
絶対にやるという覚悟なのか。
城が近づいてくると、どんどん雰囲気が不穏になる。
たくさんの軍隊が旗を掲げ集結していた。
「なんとかトゥルールは間に合ったけど、ここからがあんたの本番だよ。」
アリシアさんがそう言ってアーサーさんの背中を叩いた。
「そうだね」
そう言ったアーサーさんは拳を握り締めて震えていた。
「正直怖いよ。
父を殺すかもしれない。兄弟も殺すかもしれない。
それを平然とやってのけるだろう自分が怖い。
でも国が滅ぶ未来の方がもっと怖い」
「頑張ってくれよ。失敗すれば王国を滅ぼすのは、私の仕事だ」
城にペガサスが降り立ち、その足で玉座の間に向かう。
いくつもの死体が転がっている。
「遅かったか?」
「どうだろう」
玉座の間の扉が開かれる。
王子と思われる者が三人、
王女が二人、
血を流して倒れている。
玉座に座る女性が口を開いた。
「あら、アーサーお帰りなさい。
私の国の領土を広げてくれたようね。
ご苦労様」




