第27話 終わりの聖女と継承の儀
「お姉ちゃんが聖女になっていたなんて知らなかった。
聖女になったのに捨てられたなんて」
「任命まで誰にも言ってはいけないからでしょうな。
しかし神は聖女ナルビアの追放を認めず、力の継承を拒まれた」
「お姉ちゃんを殺そうとした神殿の行いを神が認めるはずないもの!」
「トゥルールという国の滅亡が神の意思ならば、
最後の聖女として聖女ナルビアを残されたのも神の意思でしょう。
しかし困りましたな。
聖女ナルビアが起きなければ聖女候補に祝福を与えられない。
聖女候補がいなければ、聖女から力の継承をおこなえない」
俺はピンときた。
「祝福が出来なくても聖女候補なら既にシルが居るよね。
継承の儀って聖女候補が受けるんだよね?
なら聖女が寝てても良いんじゃない?」
「なんと聖女候補までいるのですか!その通りです」
全員がシルを見る。
でもシルが困ったように言う。
「でも私は…お姉ちゃんから全てを奪った教会のためなんて!」
アーサーがシルの肩に手を置いて話す。
「今日はもう寝ようか。明日また話そう。いいね」
その晩、よく眠れなかった。
お姉ちゃんを殺そうとした神殿に協力するなんて考えられなかった。
あれから私がどんな思いでお姉ちゃんを背負い国を超えたか。
あれから私がどんな思いでお姉ちゃんと生きてきたか。
憎い。
お姉ちゃんが聖女になっていたと知って、
さらにその思いは強くなった。
眠れなくて大聖堂で一人ぽつんと考えていた。
「お姉ちゃん…」
「眠れないの?」
はるま君だ。
彼が声をかけてくれなければ、ここまで来ることさえ出来なかった。
「うん、やっぱり神殿のこと考えると聖女になんてなれないなって…」
「ナルってどんな子だったの?」
「お姉ちゃんか…
いっつもお腹すいたって言ってて、
大切な杖とかいつも置き忘れちゃうおっちょこちょいでね」
はるま君は笑って言う。
「ゆうなちゃんみたいだね」
「そうかも、似てるからかな。
なんだか妹みたいに思っちゃって、一緒にいるだけで幸せ」
「ナルのこと本当に好きだったんだね」
「聖女になったら救える人達のこと、いつも二人で話してた。
私はお姉ちゃんに聖女になって欲しかったの、
お姉ちゃんが人を救う所見てみたかった。
でもお姉ちゃんはね。
私なんかよりシルの方が聖女に向いてるよって、
シルが聖女になって欲しいなっていつも言うの」
涙が止まらない。
お姉ちゃん。
助けて、お姉ちゃん。
どうしたら良いのかな、お姉ちゃん。
「答え出てるんじゃない?」
「え?」
「教会の為に聖女になるなんてナルもシルも思ったことなかったんでしょ?
ナルが救えたかもしれない人を救うために、
ナルがなって欲しいと思ったシルになるために、
聖女になりたい理由、あるよね?」
「お姉ちゃんのなって欲しかった私…」
お姉ちゃんが見たかった私。
お姉ちゃんが信じてくれた私。
「教会なんてどうでも良いんじゃない?
だって聖女は教会の力も及ばない存在なんでしょ?」
「そう…だね」
「俺の父さんがいつも言ってたんだ。
自分がなんか欲しいな~って思ったものと絶対に欲しいもの。
天秤にかける物を間違えるなって。
教会を許せない気持ちと、ナルへの気持ち、天秤にかけたらきっと後悔するよ」
「そうだね!
私聖女になるよ。
お姉ちゃんの理想の聖女になって、
お姉ちゃんを追放した教会だって変えてみせる」
はるま君が小さく拍手をしながら素敵な笑顔で言ってくれた。
「そうそう、その意気だよ!」
声をかけてここまで連れてきてくれた。
そして今、背中を押してくれた。
私は彼がいたから、変わることが出来た。
次は私がいろんなものを変えていこう。
翌朝、食堂にみんなが集まった。
シルは聖女になる決意をした。
きっと色々なことが良い方向に進む。
「おはよ~」
「ゆうなちゃん、おはよ~」
寝坊助顔のゆうなちゃんが起きてきた。
こんなだからシルに妹って言われるんだと思いながら笑った。
ん?
ちょっとまて?
「ゆうなちゃん!?なんで起きて!」
「ん~?何~?」
一同は驚愕した。
そうだ、考えて見ればなぜってことはない。
起きる時は起きるだろう。
でも今日ナルは儀式をおこなう。
ゆうなちゃんに変わったら駄目じゃないか。
「おなかすいた~」
そう言うとゆうなちゃんは朝食にがっついた。
「毒を盛られた直後によくそれだけ何も考えずに食べられるな」
「毒?そういえばここどこ?」
ゆうなちゃんが起きてくれて良かったとは思ってる。
ゆうなちゃんが死んだかもとは思っていなかったけど、
心配だったから、とりあえずホッとはしている。
でも、今じゃないんだ。夕方ぐらいでも良かっただろ。
アーサーさんが言ってしまう。
「ゆうなちゃんが起きちゃうと困るんだよ」
あーあ、言っちゃった。
ゆうなちゃんが怒っている。
「毒から回復してすいませんでしたね!」
すごい怒ってる。
アーサーさんが必死でなだめている。
「ゆうなちゃんが起きたことは嬉しいんだよ?
みんな心配してたんだ。
ほんとだよ?
はるま君なんて慌てちゃって泣きわめいてたんだから」
「なっ!」
ゆうなちゃんがニヤニヤこっちを見る。
なんか嫌な感じだ。
枢機卿が慌てて入ってくる。
「聖女ナルビアがいらっしゃらないのですが!」
全員がゆうなを見る。
「ここに…」
これ以上隠しておいても仕方がないので、
枢機卿にナルとゆうなちゃんに関することを話した。
枢機卿は冷静になり話はじめた。
「ゆうな様とシル様がよろしければ、このまま継承の儀を執り行いましょう」
「ゆうなちゃんは聖女じゃないよ?」
「わかりません。
ですが、聖女の力は魂に刻まれた力。
姿が変わられても、その本質が聖女ナルビアと同じならば、可能性はあります」
「魂に刻まれている…」
俺とゆうなちゃんの魂はどこにあるんだろう?
もとの身体に置いてきてる?
それとも魂ごと入れ替わってる?
「私が聖女かもしれないってことね」
なんでゆうなちゃんはそんなに嬉しそうなんだ。
「聖女とか格好良くない?」
大聖堂はたくさんの人でごった返す。
みんな嬉しそうに着々と準備を進めた。
その時、正装したゆうなちゃんとシルが戻ってきた。
俺はシルを見て思わず言葉を漏らす。
「綺麗だ…」
ゆうなちゃんがどや顔で言ってくる。
「でしょ~こんなドレス初めて~」
いや、違うんだが、違うことも無いか。
ゆうなちゃんも確かに可愛い。
でもむかつくから言わない。
「動かないでください」
ゆうなちゃんが何度も注意されている。
椅子に座ってるだけなのに、落ち着きがないゆうなちゃんはやたら動く。
「それではこれから継承の儀を行う」
枢機卿が大きな声で宣言した。
空気がピリッと緊張する。
何も起こらないかもしれない。
ゆうなちゃんが聖女じゃなければ徒労に終わる。
みんなが緊張して見守る。
祈りを捧げていた枢機卿が怪訝そうな顔をする。
やっぱり何も起こらないのか?
ゆうなちゃんが突然胸を押さえて苦しむ。
「熱い。あっついよ」
枢機卿が慌てている?
何か想定外のことが起こってるんだろうか。
その時だ。
ゆうなちゃんの身体から光が弾け飛んだ。
ゆうなちゃんの身体の周りを光が回る。
抜けた光がまたゆうなちゃんに集まっていく。
戻るのかと思った瞬間、その光ははじかれたように飛散した。
飛び散った光が、いくつもの玉になっていく。
枢機卿が合図をするとシルがその光を迎え入れるように手を広げ立ち上がった。
一つ二つ三つ、シルの元に集まり吸い込まれるように消えていく。
全ての玉が吸い込まれた瞬間、ゆうなちゃんとシルが倒れた。
二人を寝かせている間に枢機卿に話を聞いた。
枢機卿もこんなことは初めてだからわからないという。
「ゆうな様が戻ろうとした聖女の力を拒絶されたようにも見えましたな。
聖女の力を引き付ける力と拒絶する力が同居しているような」
「ナルが受け入れて、ゆうなちゃんが拒絶してるとかってこと?」
「神が聖女の器として認めるのは魂なのです。
魂の中身が何かの理由で変質して受け付けられなくなったということでしょうか」
「器?そういえば、ナルの器が空だったからゆうなちゃんが入れたわけで…」
「面白い考え方ですな。
その場合、ナル様とゆうな様は魂を同じくする者同士ということになりますかな。
二人が同じ魂に共存するというのは、ありえない話ですが」
魂は器…
二つの世界に生きる二人が同じ魂に共存する…
そんなことありえるのか?
そういえば、ゆうなちゃんとナルは似ているって話をした。
なんだ。
何かひっかかる。
眠るゆうなちゃんを見つめながら考えた。
ゆうなちゃんはたまたま空だったナルの器に入ったわけじゃないのか?
隣に眠るシルに目をやると、いつのまにか額に不思議な模様が浮かびあがっていた。
「あれは?」
枢機卿が嬉しそうに声を上げる。
「おぉ!聖痕が!儀式は成功だ!」
枢機卿は跪き祈りを捧げた。
その場にいた多くの人達もひれ伏し歓喜の声を上げている。




