第26話 ナルとシル
今日、私は継承の儀を行いナルビアと言う聖名を授かった。
亡くなった聖女や追放された聖女の力は、
他の聖女に宿り、継承の時を待つ。
聖女候補だった私は、その力を継承し今日聖女としての力を得た。
「これでそなたは聖女の一人となった」
「聖女ナルビア様、明日は国民へのお披露目となります。
今日はしっかりお身体を清め、ごゆるりとお過ごしくだされ」
「はい、シルにも話してあげないと」
「いけませぬぞ聖女様。明日のお披露目の議まで誰にも話してはなりません」
そう言いながら枢機卿が額を隠す布を丁寧に巻き直した。
「あ、そうでしたね。ごめんなさい」
「聖女様が、枢機卿ごときに謝罪召されぬな」
「あ、ごめんなさい。あっ」
急に偉い人になってしまったみたいだ。
シルに会いたい。
私は走り出して転んだ。
「聖女様!大丈夫でございますかな」
「大丈夫よ!じゃあね!」
「あ、聖女様杖を……」
「行ってしまわれた。あの方が聖女で本当に大丈夫なのか。先が思いやられるわ」
「シルちゃ~ん!」
シルを見つけた私は嬉しくて走り出した。
そしてまた転んだ。
「お姉ちゃん!
また転んでる~気を付けてよ!
頭のそれ何?」
「これはね。ちょっと怪我しちゃって!」
「また先生に、
聖女候補としてそのような振る舞いなりませぬぞ!
って怒られるよ?」
「私ね!今日ね!候補……あ、じゃなくて。そうね!候補としてね!」
「うん?何?今日のお姉ちゃんなんか変なの」
二人で朝食を食べに食堂に行く。
司祭や聖女候補、たくさんの人が居る。
「これとこれとあれと、それも!」
「も~お姉ちゃん、そんなに食べられるの~?」
「大丈夫だよ~三人前は余裕だからね!」
「またお腹壊しても知らないよ~?」
聖女は専用の食堂で食事する。
ここでの食事は今日が最後だ。
なんかしんみりするな~
配膳された食事を一気に口に入れていく。
「そんなに急いで食べなくても誰も取らないよ。
ほんとにおねえちゃんは食いしん坊なんだから」
シルが腹を抱えて笑っている。
「いつも思ってたけど、シルはなんで私のことおねえちゃんって呼ぶの?」
「ずっとお姉ちゃんが欲しかったんだ。
聖女候補としてここに来た時からいろんなこと教えてくれて、
お姉ちゃんだって思って嬉しかったの。
でも世話が焼けるしおっちょこちょいだし、妹みたいに感じてるけどね」
シルは意地悪な顔で笑った。
そう、シルはいつも私を見てくれてる。
私の後を追いかけてくるのにいつも失敗する私を支えてくれる。
賢いし、本当はこの子の方が聖女にふさわしいって思う。
「いたたた」
急いで食べたから、お腹が痛い。
「も~お姉ちゃんはやっぱり世話のやける妹だよ!」
シルの屈託のない笑顔に、私もいつも笑顔になれる。
私は大切な用事を思い出して立ち上がる。
「あ、そうだった。
今日は枢機卿と一緒にお客様に会うんだった!」
「あ、お姉ちゃん!これ!
あ~言っちゃった。本当に忘れ物多いな~お姉ちゃんは」
枢機卿の部屋の前で息を整え、コンコンコンとノックをする。
「入りなさい。遅かったね」
「はい!すみません」
「お客様はまだ来られていないから座っていなさい。
気難しい方だから失礼の無いようにね」
しばらくすると二人のお供を引き連れ女性が現れた。
「お久しぶりです。アリシア様」
枢機卿が深々とお辞儀する。
私も深くお辞儀する。
「こちらは明日から新しい聖女となるナルビアです」
「ナルビアと申します!よろしくお願いします!」
私は少し驚いた。
明日まで誰にも言ってはいけないはずなのに、それほど重要な人物なんだろうか?
「明日からですので、ご内密にお願いしますね」
「聖女が誰かなんてね。言う相手が居ないよ」
枢機卿に対してそれほど敬意を払っていない。
高位の方なんだろうか?
雰囲気はあるけど私にはわからない。
「んで、あんたたちの聖女様が特別なのはわかるんだけどさ。
おいたが過ぎるでしょ?」
「はい、それについては申し訳ありません。
この子ならあのようなことは決して起こらないと…」
「起こってもらっちゃ困るのよ。
私達だって戦争したいわけじゃないわけ。
でもあんなことされちゃ力を振るわないわけにいかないでしょ?」
アリシアさんがこちらをまじまじと見つめる。
「あんた、人を傷付けるようなことするんじゃないよ」
私は聖女になるんだ。
人を癒す存在だ。
「もちろんです!聖女はそのようなことは致しません!」
アリシアさんは鼻で笑った。
「それ、忘れんじゃないわよ」
この人は聖女にどんなイメージを持ってるんだろう。
聖女を馬鹿にしてるんだろうか?
「んじゃ今日は行くわね。
ほんとに頼むからね。
私に戦争させんじゃないわよ」
そう言うとアリシアさんは部屋を出て行った。
枢機卿が頭を抱えている。
「あの~あの方は」
「ん?ああ、あの方はね。魔王軍の外交官だよ」
「魔王?あの?神聖なるトゥルールが魔王とお付き合いを?」
「そうだよ。公式には言っていないがね」
「あんなことって、前の聖女様は何かなさったのですか?」
「ん、ああ。言いたくないな」
枢機卿が言いたくなくなるようなことをしたことだけはわかった。
これ以上聞くのはやめておこう。
「言いたくないがそのせいで12の聖女の一人がいなくなった。
12人の聖女がまた減らないことを祈るが……」
今日やることが終わったのでまたシルに会いに来た。
庭に座るシルの横に寝転ぶ。
聖女になればこんなことも出来ないのかな~少し寂しい。
「ずっとこんな風にシルとだらだらしていたいな」
シルが笑いながら言う。
「何それ」
「お腹すいたな~」
「まだ早いよ~早めに食堂行く?」
「そうね~行こっか!」
立ち上がるが、立ち眩み?
頭がぐるぐる回る。
意識が遠くなる感覚が…
ドサッ!
なに?
なんだろう?
意識だけがふわふわしてる。
なんか吸い込まれる感覚がした。
なんだろうこの空間は………
お姉ちゃんが倒れた!
どうしよう。
周りに助けを求める。
どうしたんだろう。
たくさんの人が集まってきて騒ぎになる。
運ばれていくお姉ちゃんを追いかけた。
「なぜ…こんなことに…」
「呪い…だとしたら…」
部屋に入れてもらえず、声が途切れ途切れしか聞こえない。
「明日には…聖女…中止…」
長い長い時間待った。
誰も出てこない。
そのうち声がしなくなった。
どうしたらいいんだろう。
私は一人で泣いていた。
裏口から四人の司祭が出てきた。
四人で大きな袋を抱えている。
なんだか嫌な予感がして私は追いかけた。
神殿の外に出て街を出た。
街からどんどん離れていく。
崖の上に司祭が四人、崖から袋を投げ込む。
その瞬間袋から人の手が見えた。
衝撃が走った。
司祭が去って行ったあと私は夢中で崖を駆け下りた。
あちこちで身体を擦り付け血がにじむ。
それでも走った。
袋を見つけ駆け寄る。
恐る恐る開けるとナルの顔が出てきた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
私は泣きながら呼び続けた。
もう神殿には戻れない。
お姉ちゃんを捨てた。それは殺したのと同義だ。
そんなことをする神殿に戻ってどうする。
私はお姉ちゃんを連れて隣国へ逃げた。




