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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第三章 覚悟

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第25話 はるまと聖女の帰還

「すまない。


こういうことがあるかもしれないことは容易に想像がついた。


私が先に食べるべきだったんだ。うかつだった」


ゆうなちゃんは起きない。


「意識を飛ばす類の毒物で、命の危険があるようなものではない。

それは安心していいが、数日間は何があっても起きないと思う」


そうしていると、なんだかゆうなちゃんの身体がぼんやりしてきた。


なんだこれ透けてる?いやなんか薄くなる。


「何が起こってる?

ゆうなちゃん!大丈夫?」


ゆうなちゃんの身体が揺れる。


震えてるとかじゃない。なんか歪んでる?


気が付くと、そこにはナルが居た。


「お姉ちゃん!」


シルが椅子を蹴るように立ち上がった。


「お姉ちゃん!」


ゆうなちゃんが消え、ナルが現れた。


なんだ、何が起こってる?


俺は出来るだけ冷静に考える。

だが、頭が追いつかなかった。


アーサーさんが口を開いた。

「これはこれで都合が良いかもしれない」

言った瞬間、しまったと手で口をふさぐ。


アーサーさんは自分の手で頭を叩きながら言った。

「すまない。ゆうなちゃんがこんなことになって良かったという意味ではないんだ。

聖女候補として顔が知られたナルがいれば都合が良いかと思ってしまった。


私は少し政治に偏り過ぎているな。

仲間の危機だというのに」


「俺もアーサーさんのことは少しわかってきたよ。


アーサーさんがゆうなちゃんを大切だと思ってくれてるのは知ってる。


ゆうなちゃんに危険が及ぶことは許さない。

でも、目的のためにやるべきことはやる。


ついてきたんだからそれぐらいわかってるさ」


シルも黙ってうなずいた。


アーサーさんは静かにうなずいて小声で話始めた。

「確認した所、毒は全員の食事に入っていた。

全員を狙ったんだろう」


「たまたまゆうなちゃんだけが先に食べちゃったから…?」


アリシアさんがうなずいて言う。

「そう。なら全員食べたことにしてどうなるか見ようかね」


アーサーが制止する。

「それは危険すぎる。敵が誰なのかもわからないのに」


アリシアさんが続ける。

「食べるタイミングで失敗するかもしれない計画だよ。

たいした計画を出来ない人間の仕業さ。


危険だって思った瞬間に私が消し炭にしてやるよ」


俺は気が付いて話す。

「アリシアさんは隠れてても良いんじゃない?」


シンシアちゃんが聞いてきた。

「なんで?」


「市街地を散策してた時にいなかったから。

宿の人は知ってるけど、それ以外の人は知らない。

計画が杜撰なら気にしないかも」


アーサーさんも了承する。

「そうだね。足りないってなってもその時はその時だ」



それからアリシアさんは魔法で隠れ、俺たちは倒れたふりをした。


1時間ほど待つ。


誰も来ないのか?


アリシアさんがイライラしてる。

「めんどくさいね」


その時、ドアが静かに開いた。


「寝てるか?」


「大丈夫だ」


「子供は1,2,3,4いるな」


「大人は一人?全部で六人じゃなかったか?」


「いや、市長は全部で五人だって言ってたぞ」


「でも宿屋は…まあいいか」


「とりあえず子供四人は連れていけ」


「大人はここで殺せ」


「もういいかね?市長だってわかったし」

アリシアさんが言うとアーサーさんは呆れたように言う。

「早いよ。アリシアちゃ~ん」


「良いだろ。市長だってわかったんだし、市長を締め上げればいいさ」



「な、お前ら起きて…」


「やっちま…なっ」


アーサーさんの剣が頬をかすめる。


「たぶんきみたちは市長に雇われたんだろ~、なぜ?」


「言うわけが…ヒーー」

剣が頬に食い込む。


「子供を売り飛ばすためだ。

男は殺してここに来た痕跡も消せと言われてる」


「馬車とかどうするの?」


「馬車?知らない。

男を殺してどこか見つからない場所に捨てて来いと言われただけだ」


アリシアさんが呆れたように言う。

「やっぱりずいぶん杜撰な計画だったようだね。

馬車残したらバレるってわかるだろうに。

それにしても、皇太子殺すってのはずいぶん後先考えない感じだね」


アーサーさんも呆れたように両手を上げた。

「そうだね。市長には事情を聴くとして、懲らしめないといけないかな~」



それから宿屋を出る。


驚く店主にアーサーさんが声をかける。

「もうこういうことに手を貸しちゃ駄目だよ~?」


店主が激しく頭を縦に振る。



市長の家に着くと、アリシアさんがドアを蹴り開ける。


「は、はひ~。あなた達は!

いきなりなんですかな。衛兵~衛兵~」


アーサーさんが剣を構えた瞬間、駆け付けた衛兵が吹っ飛ぶ。


「あんたの剣じゃ殺しちまうかもしれないしね」


アリシアさんが言うとアーサーさんは肩をすくめて笑った。



鋭い眼光に戻ると、アーサーが市長の胸ぐらをつかみ詰め寄った。


「子供をさらってどうしようとした?」


「それはあの~な、なんのことですかな?」


アリシアさんが手から炎を出し市長の髪を焼く。

「証人はいるんだけど、連れてこなかったんだ。

なんでかわかるかい?


私には証拠も証人も必要ないんだよ。


あんたを殺しても解決するんだからね」


「は、はひ~。商会に売るんです」


「援助が要らないって言ったのは、それが理由か?」


「はひ~、親が子供売ってまして~」


俺は思わず口をはさんだ。

「もしかして努力が足りないって言うのは」


「はひ~、子供を売れない親は飢えて死ぬしかない」


「最悪だ。なんだよそれ!」


市長は震えながらも、怒りをむき出しにして怒鳴った。

「子供を10人売れば大人が100人生きられる。

子供だって売られて拷問を受けるわけじゃない。

貴族の使用人として幸せに生きていく子もいる。

お前は、魔王に夫を奪われた未亡人に、子供と共に飢えて死ねと言うのか!」


「じゃあ、アーサーさんが聞いた時助けてって言えば良かったじゃないか!」


シルが悲しそうな顔でぼそりと言う。

「後戻り出来ない。ということですね」


「そうだ。

商会に目を付けられたら売られた子達がどうなるかもわからない。

私は市長として、より多くの民を守らねばならない」


やりきれない。

親が子供を売るってなんだよ。


俺は背負われて寝てるゆうなちゃんを見て考えた。

俺たちの価値観じゃわからない。

理解出来ない。


アーサーさんが市長から手を放し、吐き捨てるように言った。

「この生活を見る限り、市長の座を守る方が大切だったんだろう?

民を守ったのも事実だろうが、犠牲の上に私腹を肥やしていたのも事実だろう」


「それは…」

市長はその場に崩れ落ちた。


教会はこの件にかかわっていないのだろうか。


街の事情をしっかり聞くために、枢機卿の所に向かった。



司祭は枢機卿は帰ってきているが、夜遅いので出直せと言う。

アーサーの身分を明かしても追い払おうとした。


なのに、ゆうなちゃん――今はナルの姿だけど――を見ると、

「少々お待ちください!」と言い残し司祭は慌てて走っていってしまった。



しばらくして、高位の司祭であろう男を伴って戻ってきた。



その司祭はひざまずき祈りをささげる。


そして一言、

「おお、ナルビア様、お帰り頂きありがとうございます」

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