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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第三章 覚悟

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第24話 はるまと滅びし国

玉座にアーサーさんの剣が刺さる。


「父上、しばらく頭を冷やして頂きます。

退位か…首を飛ばされるか、よくよく考えなさいませ」


「き、貴様ぁぁぁ!」


剣で国王を押さえながら、アーサーさんがその場にいた全員に向かって宣言する。


「国王はしばらく静養なされる!


細かな儀式は省くが、私はこの瞬間をもって、

皇太子の座についたことを宣言する!


この国は変わらねばならない。


そのために失うものもたくさんあるだろう。

あきらめてもらうこともたくさんあるだろう。


私に賛同しなくとも、協力してくれなくてもかまわない。

国王以外の誰一人として罪に問わないことを約束する。


ただし、邪魔をするものは容赦しない」


その後、国王は牢に幽閉された。


「私は国王だぞ!私がこの世の全てだ。世界は私のために存在している!」


最後まで気分の悪いことばかり叫んでいた。



決めてから5分程の間に、あっという間に終わってしまった。


国の大事がこんなあっけなく終わるとは、

アーサーさんの決断力、行動力、これが王になる男の力か。



一部始終、見ているだけだったアリシアさんが口を開いた。


「さて、ここからはスピード勝負だよ。


他の王子が反乱すれば私の部下は邪魔な人間を殺す。

国王が解放されることにでもなれば、王国はそのまま滅ぶ」


「わかっているさ。さっそくトゥルールに向かう」


アーサーさんは部下に何やら色々な指示をして部屋から出て行った。



ゆうなちゃんがシルとシンシアに何か話している。


にこやかに話をしているが、

ついさっきクーデターが起きた雰囲気じゃない。


あれは…女子の力なのか?



それからすぐ、俺たちはトゥルールに向かった。



アリシアさんが乗り物を用意してくれた。


「聖女の凱旋なら聖なる感じが良いだろ?」


アリシアさんが指差した先には、

3匹の白い翼を持つ馬が引く大きな馬車があった。


翼を持った馬!ペガサスだ!テンションが上がる。


ふと父さんと馬に乗った時のことを思い出した。


初めての乗馬で、終始パパ、パパと父さんにしがみついて泣いてたんだ。


馬車は三台用意されていたが、俺たちは全員で一台の馬車に乗り込んだ。



道中、トゥルールのことを聞いた。


首都が魔王の手によって消滅したために、現在は国として機能していない。


周辺諸国から物資は届いているが、

足元を見られて物価が吊り上がりどんどん貧しくなっていったという。


滅びゆく国、という見方をされているため、

誰もその後の取引相手としては見ていないようだ。


搾取され、残るのは周辺国家からも見捨てられた村々だけだ。


最悪だ……


「でも、だからこそ聖女が救いとなり、

王国への併合という道筋が国民にとっては光となるだろう」


そう言いながらも、アーサーさんの顔は暗い。



それから数日、馬車は走り続けた。


俺たちが寝ている間もずっと。


時折アリシアさんが魔法をかける。


疲れないし眠らなくても大丈夫な魔法だそうだが、

そんな魔法をかけられて走り続けるのは…ちょっとかわいそうだと思った。



数日後、首都に次ぐ大都市に到着したが、廃村かと思えるほど朽ち果てていた。


アリシアさんはやっぱりという感じで言う。

「野盗に襲われたり、魔獣と戦う力も残っていないんだろうね」



俺たちは市長の屋敷に行った。


市長は思ったよりも元気そうだった。


市街地の人の感じとは雰囲気が違う。


「どのようなご用件ですかな?」


「私はヘルホープ王国の皇太子、アーサーと言います」


市長は驚いたように答えた。


「は、はひー、皇太子殿下でありますか。

これはこれはこのような所までよく来られました」


アーサーを皇太子と知って、あからさまにゴマをすっている感じがした。


なんだか嫌な大人だ。



応接室に通される。


さっきからゆうなちゃんとシルのことをじろじろ見ている。


値踏みをするような嫌な顔だ。



アーサーさんが口を開いた。

「この国の実情を聞かせて頂けますか」


「そうですな。

あの~みんなあれですな。

みんな未来に向けて元気に頑張っておりますよ」


「まともな食事をしていない者も多いようだが?」


「食料はですな~あの~ありますよ。

それにあれですな。

あの~そう、頑張りが足りぬ者がいるのも事実ですな」


絶対に嘘をついてるな。


こっそりおやつを食べたことを聞かれてるゆうなちゃんと同じ話し方だ。


頑張りが足りないってなんだ?


「では、援助等は必要ない?

国が壊滅状態で大変でしょう?」


「援助はそりゃー…いえいえ、なんでもありません。

商会の方が良くして下さいますから、大丈夫です」


「まともな食事が出来ない方もいらっしゃるのに?」


「まあそれはあれですな。本人がもう少し頑張れば良いだけの話ですからな」


なんだろう。

話が進まないというか進めないようにしてる?


ゆうなちゃんが口をはさむ。

「努力して何をしたら解決するの?」


「それはこちらの話と言いますか……」


まったく話がかみ合わないまま話は進まない。


「や、宿の手配を致しましたので、今日はどうぞそちらへ。えへへへ」


宿に行く前に俺たちは大聖堂に向かった。


枢機卿が居なかったが、アーサーさんが司祭から事情を聞く。


聖女を失った教会が急激に力を失ったこと、

そのせいで民が飢え市長も悪事に手を染めだしていること、

そして何より聖女復活の可能性が限りなくゼロなこと。


「新しい聖女は生まれない?」


「そのとおりです。聖女は聖女の力でのみ生まれる。

聖女の力が無い今、新しい聖女は生まれませぬ」


「聖女が最低でも一人必要ってことか?」


「聖女が祝福を授けて聖女候補を生む、

聖女候補が継承にて聖女より力を受け継ぐ。


どちらにも聖女は必要なのです」


聖女候補のシルは聖女が居ないと聖女になれない。

俺たちは解決策も無いまま、宿に行くことになった。


「今は休業しておりましてですね。

掃除も行き届いておりませんで申し訳ありません」


「かまわないよ。食事もいらないよ」


「いえ、食事は用意させて頂きます。市長からも言いつかっておりますので」


部屋でゆっくりしていると食事が運ばれてきた。


固いパンと薄いスープ、豆が数粒。


「これで足りている?援助がいらない?何を隠している?」

アーサーが深刻そうに考え込む。


「おなかへった~頂きま~す!」

と言ったと思ったらもう無い。

「ごちそうさま~足りないなあ」

一瞬で食べ終わった。


本当に食いしんぼだ。


シルはゆうなの食べっぷりを笑いながら見ている。


アリシアさんとシンシアも食べ始めた。


アーサーさんも食べようと口に運んだ瞬間。

「駄目だ!食べるな!」


アーサーさんが全員の食事を見る。


「アリシアちゃん、シンシアちゃん吐き出せ」


そう言った瞬間、アーサーさんがゆうなちゃんの口に手を突っ込む。


ゆうなちゃんは吐き出した。


「ごめんよ。ゆうなちゃん。でも吐き出してくれ」


「何度となく毒を盛られてきたからわかる。これは毒物だ」


「はあ?」

アリシアさんとシンシアはきょとんとして見てる。


この二人にはそもそも毒はきかないかもしれない。


シルと俺は食べてない。



ゆうなちゃんは何度も吐いた。


顔色がどんどん悪くなっていく。


そして突然静かになると、

その場に倒れ込んだ。


「ゆうなちゃん!ゆうなちゃん!」



「俺がもっと早く気が付いていれば!」

アーサーさんが取り乱す。



俺はゆうなちゃんを失うんじゃないかって思いで胸が張り裂けそうになった。


「ゆうなちゃん!ゆうなちゃん!」


泣きながら身体をゆすり続けた。


父さんが倒れたあの日を思い出した。

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