第23話 アーサーと国家滅亡
「アリシアちゃん見捨てないでおくれよ~。
滅亡を阻止するために僕が国王になると言ってるんだよ~!」
アリシアさんは不機嫌そうにジョッキの飲み物を飲み干すと、
机に勢いよくジョッキを叩きつける。
「それが悠長に考え過ぎだってんだ!
魔王がどれだけ気が長いと期待してんだい!」
「それは…それでも僕はこの国を守らないといけない!」
「なら今すぐ国王を殺しな!」
アリシアさんは簡単に人を殺す人じゃないはずだ。
アリシアさんの価値観を全部理解したわけじゃないけど、それはわかっている。
そのアリシアさんが、はっきり殺せと断言する。
「あんた舐めすぎなんだよ。
自分の親が今もなお、何やってるかわかってんだろ?
国の半分が悲鳴を上げてる状態で国を守る?
そもそも守れてねーから魔王に狙われるんだろが!」
「それは…わかっているつもりだよ」
アーサーさんが珍しくうなだれて、崩れるように椅子に座る。
「他民族を侵略しては襲う、奪う、犯す。
黄金の宮殿を作りたいという願いのためだけに、
十万の人間が家財を奪われ奴隷に落とされた。
セレモニーを派手にしたいという思い付きで、万の奴隷が生き埋めにされた。
家族を生き埋めにするために、子供の奴隷に自分の親に土をかけさせたんだ」
「そんなの酷い!」
私はこぶしを握りしめて涙をこらえた。
そんなひどいことない!
「滅ぼすに一票」
アリシアさんは笑いながらこちらを見る。
「そうだよね。よく言った」
でもはるま君は首をふる。
「駄目だよ。パパが言ってた。
暴力をふるっても良いのはこれから起こることを止めるためだけだって、
殴り返すための暴力は絶対に許さないって」
シンシアちゃんが少しむっとしながら反論する。
「あんたの父親は綺麗な国しかみたことない綺麗な人なんだろうね」
私は少しイラついたが、
はるま君は冷静に首を振りながら続ける。
「でも父さんはこうも言ったんだ。
やり返すためじゃない。次の暴力を防ぐためなら徹底的にやりなさい。
相手が起き上がってこれないように、
絶対に反撃してこないようになるまで、
徹底的にって」
アリシアさんが嬉しそうに拍手する。
「そりゃいいね。まるで魔王の話聞いてるみたいだ」
アーサーさんが泣きそうな顔で叫ぶ。
「だからちょっと待ってくれよ!」
「待てないっつってんだろ!
まだまだ何万人もの人間が死ぬかもしれねーんだ。
私らがそれを傍観すると思ってんのか!」
「だから!」
はるま君が大きな声を出した。
「やり返すためじゃないんだから、
必ず次が起こらないように考えてやって欲しい。
滅ぼした後の残党が、同じことをしたら何もならない。
城を消し飛ばして、周りの村々はどうなったかまで、考えてやらないと」
アーサーさんが焦ってアリシアさんをなだめようとする。
「だから最速で王位へ辿り着く方法を相談してるんだ。
国王を殺すことに躊躇いはない。第一王子も第二王子も同罪だ。
でもまだ届かない」
私は素朴な疑問をぶつけた。
「第一王子と第二王子が居なくなったら、
第三王子のアーサーさんが繰り上がるんじゃないの?」
アーサーさんは落ち着いた困った顔で答えてくれた。
「それがそう単純にはいかないんだ。
第四王子には大司教の孫娘、第五王子には隣国の姫、
第六王子はこの国最大の商会の会長の娘、
それぞれ婚約者がいて絶大な後ろ盾が後押ししてる。
国王亡き後は、彼らが王の座を巡って争うことになるだろう。
僕はそこに参加する資格すらない」
シルちゃんが妙に嬉しそうに言う。
「だから王子はアリシア様と結婚したかったのですね」
はるま君が突っ込む。
「なるほどね。魔王を後ろ盾とするため、政略結婚だね!」
アーサーさんが慌てて手を振る。
「違うよ~純粋にアリシアちゃんが好きなのさ~」
シルちゃんが残念そうに言う。
「そうなのですね…」
アリシアさんが少し考え込みながら、
「ふん…」
何かを思い出したように私を見つめて語りだす。
「ひとつ後ろ盾に心当たりがあるんだけど聞くかい?」
「もちろんさ」
「ナル、ゆうなの器になってる子を初めて見た時から、
どっかで見たことある子だな~と思ってたんだよ」
シルに向き合う。
「ナルは宗教国家トゥルールの聖女様だろ?」
シルが激しく動揺して立ち上がる。
「違います!」
「あんた父親は?母親は?どこで死んだ?」
「それは…」
間髪入れず賢者さんが口をはさんできた。
「その子は聖女なのよ。トゥルールの滅びを止められたとすれば、その子なのよ」
そんな重要人物だったのか?
シルはふーとため息をつきながら覚悟を決めたように、
「私達は聖女じゃありません。
聖女候補として選ばれた元々は孤児です。
ナルは、私に聖女としての色々なことを教えてくれた姉のような方なんです。
でも、お姉ちゃんは聖女候補の立場を奪われ追放された。
私はそのお姉ちゃんを守るために共に国を捨てました」
賢者が間違えた?
これから聖女になってトゥルールを導く運命だったってことかな?
「やっぱりね、追放された理由は?」
「お姉ちゃんが倒れたからです。
呪いだと判定され呪われた聖女候補として立場を追われました。
獣に食わせるため谷底に捨てられたお姉ちゃんを見捨てられず、
お姉ちゃんを連れて逃げてこの国へ…」
はるま君が恐る恐る口を開いた。
「ちょっと待って。
トゥルールを救うはずだったナルを父さんが封印したせいで追放された?」
「はるま、悪いがその話は後だ。で、王子様?どうする」
アーサーさんは困惑したように、
「それが、今の話と?」
「宗教国家トゥルール、今どうなってる?」
シンシアちゃんが口を開いた。
「はるま、後で教えてくれなかったって言いそうだから言っておくけど、
五年前に一緒に見ただろ。
魔王様が破壊した城、あれトゥルールな」
「あ!」
はるま君が声を上げる。
アーサーさんを見て話し始める。
「城が消し飛んで、国が滅んだ。でも国が消し飛んだわけじゃない。
周りの町や村に国民もいれば、政治的に国に携わっていた人はいるかも」
アーサーさんが深刻そうに頭を振る。
「聖女を旗頭に、その国を復興させる段取りを付ける。それを僕の後ろ盾に?
そんなに簡単じゃない。それにシルちゃんは国を捨てたんだろう…」
なんだこの弟。
なんでこんな難しい話についていく?
私の弟なのか?本当に?
シンシアちゃんがお菓子を食べながらつぶやく。
「文句言うやつはお姉ちゃんが蹴散らせば」
アーサーさんが自分の考えを整理するように話し出す。
「いや、蹴散らさなくても良いんだ。
当代の聖女の圧政がひどかったのは事実。
その悪女に追放された真の聖女候補、シルが帰還する。
……そういう筋書きならどうだろう。
その聖女候補が実際に魔王の側近と隣国の王子を引き連れて戻っている。
信仰が全ての宗教国家ならその説得力さえあれば、民衆はきっと受け入れてくれる。
それどころか、
宗教としてのトゥルールをこの国の国教として国を併合すれば国王確定か」
アーサーさんはシルちゃんを見つめて手を取った。
「この国の未来のために、僕に協力してくれないだろうか!」
シルちゃんは少し困惑したように答えた。
「王子、がんばりましょう」
アリシアさんが納得したように口を開く。
「その筋書きならあとは、
国王を殺してからトゥルールに行くか?
行動してる間に国王が魔王の逆鱗に触れないことを祈るか?
あんたが決めな。
その決断で国の運命が動くかもしれないよ」
アーサーさんは迷いなく言い切る。
「僕は僕のやり方でいく」
アリシアさんに向き合って言った。
「戦力を貸して欲しい」
「国王を殺すだけなら私一人で…」
アーサーさんは少し頬を緩めた。
「そんなことはアリシアちゃんに頼みはしないさ~」
「国王を捕縛する。
国王を幽閉後、他の王子達が手出し出来ないように城を占拠して欲しい。
第三王子がクーデターを起こす。
そこへ魔王が味方する。
他の王子達は魔王を敵だと思っている。
なら逆に利用する。
王位が空席にならないうちは他の王子は国を挙げての魔王討伐には動けない。
その混乱が収まらないうちに、トゥルールの件を片付けて帰還する。
トゥルールを併合し、魔王も脅威としない。
新しい時代を作る王として戻る」
はるま君が少し大きな声で決意したように話し出した。
「国の脅威に何度も関係ない話でごめん。
もし父さんが封印したせいでトゥルールが滅んだのだとしたら、
他人事ではいられないし、父さんがやったことの結果を見たい。
それにシルをここに連れてきたのは俺だ。
最後まで責任もって見届けたい。
俺とゆうなちゃんも連れて行って欲しい」
「お姉ちゃん。私からもお願いだ。はるまが邪魔になったら私が守ってやるから」
アリシアさんが笑顔で言う。
「この件に関しちゃ私も部外者だ。わかった私と一緒に行こう。
ガキが好奇心で言ってる、だけじゃないんだろ?」
「それじゃあ行動に移すとしようか」
アーサーさんがそう言ってから約5分後、国王はクーデターによって幽閉された。
私は、まだちょっとついていけてない。




