第3話 ゆうなとしおりん
「パパ!はるま君、絶対何か隠し事をしてると思うんだよ!
夜は誰よりも早く寝るのに、毎朝眠そうにしてるの。
朝ご飯も食べないし、夜中にごそごそおやつを食べてるんじゃないかと思うのよ」
はるま君がママに呼ばれて行ったので、私はパパに愚痴る。
「昔さ、私、本をじっくり読むの苦手だったの覚えてる?」
主人公が何を考え、どんな景色が見えているのか。
それが頭に浮かぶくらい読んでごらん。
「あれ苦手だったな~。
でも最近は、パパの難しい本も読んでるんだよ」
そう言いながら本を取り出す。
「正直まだ難しくてよく分からないんだけど。パパの本棚の本読んでるんだよ」
パパはいつも、「無理に勉強する必要はないけど、本は読みなさい」と言っていた。
パパは宿題もせず、授業も寝てばかりだったらしい。
それでも勉強で困ったことがないのは、本をたくさん読んだからだ。
というのがパパの持論だったが、
部屋の本棚には色んな国の言葉で書かれた本が並んでいた。
「勉強してないのにあんな本読めるわけがない…」
私はパパに読み聞かせるように、本を読んだ。
パパの感想も聞きたいな。
パパには何が浮かんでるんだろう。
パパならきっと謎も全部分かったんだよね。
私には、まだ分からないよ。
気付けば、本の文字が涙でにじんでいた。
そうしていると警備員さんが声をかけてきた。
「お友達のしおり様が来られたようです」
いつからかパパの護衛に、警備員さんが立つようになった。
理由は知らない。
正直、パパとの団らんを他人に見られているのは気持ちのいいものではない。
私はパパに「またあとでね」と声をかけるとしおりんを出迎える。
「昨日のエイガク見た?」
「見た見た!」
『俺様の英雄学園』――通称『エイガク』。
不思議な力を持つ少年少女が英雄を目指す、今一番人気のアニメだ。
「レン様のさ!」
しおりんが興奮したように言う。
「『豆腐の角に頭をぶつけても人は死なね~んだよ』ってセリフ!」
「死ぬんじゃないか!って思ってたのに、そりゃそーだって笑っちゃった」
私はお守りにしているレン様のキーホルダを見せながら笑った。
しおりんは塾を掛け持ちして忙しい。
なのに私が好きなアニメだけは毎週見てくれる。
しおりんが少しまじめな顔で言った。
「今日の朝の件だけどさ、気を付けないと駄目だよ?
ゆうなちゃんが暴力振るったり殺すとか言ったらゆうなちゃんパパも悲しむから」
「そうだよね。わかってるんだ。でもイライラが抑えられなくなっちゃってさ」
「そういう所は嫌いじゃないんだけどね」
「あ、そういえばさ。天狗の噂聞いた?
天狗の祠ってのがあって、会えるらしいよ」
「え~しおりんってそういうの信じるの~?」
「すっごい賢い天狗らしくて受験とかにご利益あるって、今度お参りしてみない?」
「しおりんが行きたいなら、付き合うよ」
「それよか、はるま君のことなんだけさ~。
昔はずっと一緒に遊んでたのに、
最近のはるま君は少し変なんだよね。
近くにいるのに、遠くへ行ってしまったような気がするの」
「昔は私達が遊んでる時にいっつも寂しいって来てたよね。
はるま君も大人になったってことじゃない?」
「そうなのかな~、夜も早く寝るのに朝起きたら疲れててさ。
な~んか隠してる気がするんだよね」
「夢遊病とか?それか悪夢を見てるとか。はるま君も色々あって悩んでるのかも」
「夢遊病か~それなら疲れるね。悪夢でも、やっぱり寝不足とかにはなるのかな」
「ゆうなちゃんパパならどうするかな~ゆうなちゃんが何か悩んでたら」
どうだろう。パパなら…
パパがお客さんと会議してる時に、会議室を覗いてじっと見つめてたんだ。
どうしたの?ってパパが声かけてくれて。
「パパがかまってくれないから寂しいけど、
パパの邪魔をしたくないからここで我慢してるの」
って言ったんだけど、涙が堪えられなくて号泣しちゃったんだ。
そしたらパパはね。
「ごめんね。こっちにおいで」
って私を膝にのせて会議を続けてね。
その時のお客さん、怒ってたと思う。
でもパパは「すいませんね」って笑いながら私の頭をなでてくれたの。
その話を聞きながらしおりんが言う。
「それ良いね。はるま君にどうしたの?って聞いてみよう」
「頭撫でたら怒るよね」
私としおりんは笑った。
しおりんが帰りパパの部屋に戻ると、ママがパパの身体を拭いていた。
「今日先生から連絡があってね。
ゆうなちゃんの絵がコンクールで入賞したんですって。
昔から絵を書くのが好きだったわよね。
一緒に書こうって言われてあなた嫌がってたわよね。
絵心無いからって」
ママはいつも楽しそうにパパに話しかけてる。
二人の時間を邪魔しちゃ悪いので、
私ははるま君の隠し事を暴くためにリビングへ戻った。
「あの~さ~」
「なに?」
はるま君が予想以上に冷たい。
「最近~さ~悩み事~とか…ない?」
「ない」
なんだこの弟は、姉に向かってもう少し可愛くなれないか?
「夜中にこっそり、おやつとか食べてる?」
「は?何それ」
「いや~夜寝るの早いのに、毎朝眠そうだしさ。朝食もあんまり食べてないし」
「なんもしていないよ。よく寝るだけ。用が無いならもういい?疲れてるんだよ」
少しむかついてきた。
「心配してんでしょ!何してんのか!何悩んでるのか!」
「…ごめん」
「何かあるなら話してよ」
「あのさ、じゃー相談なんだけどさ」
「ゆうなちゃんがゲームの勇者だとして、
魔王を倒したらパパに会えますって言われたら、そうする?」
なんだこいつ?もしかしてゲームの攻略法で悩んでんのか?
「え?倒すんじゃない?」
「でも魔王ってスゲー強いんだよ。一撃で国を滅ぼしちゃうぐらい」
「レベル上げたら勝てるんじゃない?ゲームなんだし」
「でも…悪い人じゃないかもしれないんだよ」
「それじゃその人は魔王じゃないんじゃない?」
「え?」
「魔王って悪い人でしょ?じゃ人違いなんじゃない?」
「…いやたぶんその人が魔王で合ってる…はず?」
「じゃ倒す。仕方ない。パパに会いたいもん」
「いや、でも悪い人じゃないのに倒したら駄目じゃない?」
「その人のせいでパパに会えないなら仕方ないでしょ。
でも、そうね。倒したくないなら頼む?」
「頼む?」
「そうよ。倒されたくなかったらパパに会わせて下さいって頼む」
「でも、その人にそんな力があるかわからないから」
「倒したらパパに会えるってイベントの人ならなんか意味あるんでしょ?
答え知らなくても一緒に考えられるでしょうが!何言ってんの」
「そんなにうまくいくかな」
「知らないわよ。
そもそも倒すか倒さないかしか選択肢が無いゲームなわけ?」
「ゲームじゃないけど…そういう考え方もあるか」
「そうよ。わかったら、これからはなんでもお姉ちゃんに相談しなさい!」
「わかった。また話すよ」
はるま君はそれっきり口を開かなかった。
ゲームの攻略法であんなに悩むなんてまだまだ子供ね。
パパの部屋ではまだママが話してた。
でも実際、本当に悪くもない人を倒したらパパに会えますよって言われたら…
私はどうするんだろう。
「倒すかもしれないな…悪い人じゃなくても」




