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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第三章 覚悟

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第19話 父と約定

「もうだめだ~助けて~」


はるま君がプテラノドンのしっぽで、振り落とされないようにしがみついている。


「落ちたら落ちたで拾ってやるから安心しな~」


アリシアさんのその言葉があるから笑っていられる。


「なんか冒険って感じがして楽し~!」


ほどなく目的地に到着した。

ほんとにすぐだった。



降り立った先に鳥居がありアリシアさんを先頭に進む。


そのあとにシンシアちゃん、はるま君、私が続く。


「先に言っておく。

何があってもしゃべるんじゃないよ。

口を聞いたら死ぬ。そう思いな」


意味はわからなかったが、言われたとおりにしようとうなずく。


シンシアちゃんも、はるま君も黙ってうなずく。


「これが祠かね」

アリシアさんは何か覚悟を決めたような表情で祠を開ける。


開けると中に小柄な人が座っていた。


祠の中は人が一人やっと座れるだけの空間だ。


この人はここにずっと座ってるのか?


隠居生活と言っていたが、生活出来るとは思えない。


なんだかとても異質だ。



「帰れ」


たった一言つぶやいた。


「せっかく来たんだ。茶でも出してくれ」

アリシアさんが強気に答えた。


しかしアリシアさんの額には冷や汗が浮かんでいる。

何か感じているんだろうか。


「一人の楽しい時間を邪魔するな」


楽しんでたんだ?なんだこのちっちゃい人。


「もっと楽しい話しようぜ」

アリシアさんの腕が震えだした。


強がってるのが伝わる。


「弱き者よ。虚勢をはるな」


「そりゃ私は強い方じゃねーけど、あんたに舐められるいわれはないね」


「我等に何か頼みか?覚悟はあってのことだろうな」


「代償が必要なことはわかってる」


アリシアさんが息をのみ、決意したように口を開く。


「あんたの全てが欲しい。眷属になってくれ」


「愚かなことよな。お主にその代償を払えるとは思えぬな」



「代償はこの世界の未来だ」


アリシアさんはそう言うと、

おもむろに指を右目に重ねる。


誰かが止める間もなく、

指先が眼窩へ食い込む。


アリシアさんの顔が悲痛に変わる。


それでもためらいはなかった。


彼女は目的のために片目を失ったんだ。



「自分を高く買ったものよな。

そんなものを差し出して代償になるとは、

賢者に差し出す代償が足りねば失うのは命。

わかっておろうな?」


「違う」


「ほう?」


「この目は、私が見てきた魔王の全てだ。

その半分をお前にくれてやる。

代償は、お前を手に入れた魔王が作るこの世界の未来だ」


「魔王の作る未来とやらにその価値があると?」


「少なくともこんな所で隠居するよりは、あんたの欲望も満たせるだろうさ」


「お前にとって魔王とは?」


「世界の全てさ」


「強き者よ。今より千年を、お前にやろう」


「それだけあれば充分だ」


「千年後、代償が足りなければお前の全てを喰らう。

ゆめゆめ忘れるな」



アリシアさんがにやりと笑う。


「さ~じゃあ、もうあんたは私のもんだ。

まずはそっから出ようか」


おもむろに賢者の身体をつかみ引きずり出す。


「きゃー!何すんのよ!」


身長30センチほどの、小さな女の子が出てきた。


「この賢者様に向かってなんなのよ!」


「話し方も変わったね~」


「仕方ないのよ。舐められるんだからね」


拍子抜けだ。今なら私でもデコピンで倒せそうだ。

「プッ!」

実際はやばい存在なのはわかってるけど、笑った。


「ほら~そうやって笑うやつがいるのよ!」



「ま~いい本題だ。聞きたいことがある」


アリシアさんが私を指さし話はじめた。


「この子の身体、どんな状態かわかるかい?」


賢者が私をまじまじと見つめる。

「もちろん知ってるのよ。奴の子供達なのよね?」


「パパのこと知ってるの?」


賢者は静かにうなずき、話を続けた。


「まず、あんたの目、それは契約してやる理由の半分なのよ。


魔王が作る世界を対価に自分の目を差し出す人間、そいつが奴の子供を連れていた。


それが理由の全部なのよ。


ここに奴の子供が居なければ、あんたの目は無駄になっていたと知っておくのよ」


「この子の父親が、それほどたいそうな人間ってことかい」


「その子達が入った器、それは封印されてるのよ」


「どういう封印だい?」


賢者がため息をつきながら話す。

「その前にひとつ、話しておかないといけないことがあるのよ。

あんたに我等の全てをやるわけにはいかないのよ。

奴との約定の範囲外での契約だと覚えておくのよ」


「なんだそりゃ。どういうことだい」


「言えないのよ。賢者は約定に背かないのよ」


「わかってるよ。で?」


「その封印は私がその存在や解く方法を言えない対象なのよ」


「なんだそりゃ。この件については振り出しか」


はるま君が力強く言う。

「そんなことないよ!封印だってことが確定した。

それに賢者がかかわってることまでわかった。

それほど大切な何かなんだ。

軽くむかつくから封印した。みたいな単純な話じゃないことは間違いない」


賢者がご満悦って顔でほめる。

「察しの良い子なのよ」


私は驚く。

「はるま君が賢い。なんで?」


「俺の方が長生きしてるからね」

どや顔がむかつく。



「私たちが来た世界のことはわかるの?」


「知識としては知ってるのよ」


「私達のパパも同じ状態?」


「同じなのよ」


パパも封印されてるんだ。



「ちょっと待て!」


大きな声に衝撃が走った。


「父さんが封印に関わってる。

いや、父さんが封印した張本人ってことじゃないか!?」


パパが賢者と契約した?


パパはこの世界に来た?


「そうなのよ」


「パパも、ナルも?」


「そうなのよってば」


「なんでナルを、どういう接点?」


「それは言えないのよ」



「この封印のこと知りたかったらどうしたらいい?」


「それも約定で言えないんだけど、これだけは教えてあげる。


奴と我等以外にこの封印を知るものはいないし我等は教えない。


奴は封印を解かれることも、封印の秘密を知られることも望んでいなかった。


だから封印の痕跡はどの世界にも残っていない」


「そんな…じゃあ私達には知る術がない?」


「これ以上はこの話に関しては言ってあげられることはないのよ」



パパはこの世界に来たことがある。


パパが自分で自分を封印した。


パパがナルのことも封印した。


パパが悪い人なのかもって頭をよぎった。

それを振り払う。

そんなわけない。


何か大切なことがあるはず。


パパが自分で自分を封印したってことは、

私達が封印に迫ることはパパの邪魔をすることになるのかもしれない。


なら私達は何をするべきなんだろう…


心細くてはるま君の手をぎゅって握る。


はるま君も同じ気持ちなんだろうか。


手が震えてるのが伝わってくる。



―― 第二章 完 ――


ゆうなも、はるまも、まだ知らない。


父が子にもたらした奇跡が、

精神世界の絶望そのものだったことを。

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