第18話 ゆうなと異世界
異世界に一人投げ出され、生きていく。
それがどれほどつらいことなのか。
私はすぐにはるま君に会うことができた。
でも。
はるま君はこの世界でずっと一人で戦っていたんだ。
どれほどつらかっただろう。
どれほど寂しかっただろう。
私は姉として、
そんなことに気付きもしなかった。
とりあえず今は、
私自身のこともよくわからない。
普通に考えれば、
ナルという女の子はどこかに行ってしまい、そこに私が寝ていた。
それだけの話のはずだ。
でも彼女と私が入れ替わった。
というのがみんなの見方だった。
アリシアさんが大きな、いわゆるマンガ肉を持ち上げて言った。
「食うか?」
「食う!それ食べたい!」
マンガ肉に興奮した。
そういうのを売りにしてる店が紹介された動画を見て、
パパに連れてってとお願いしていたことを思い出した。
肉にかじり付く私を見て、アリシアさんは嬉しそうに笑いかけた。
アリシアさんとシンシアちゃんは…
いや、
アリシンの二人はとにかく人に食べさせたがる。
シルちゃんはあまり口数の多い子ではない。
なぜかすんなり私をナルお姉ちゃんとして受け入れたようで、
本当の姉と話しているみたいに接してくれる。
なぜそんなにすぐ受け入れる…
「私にも魔法使えるの?」
その一言で私は今、数時間の魔法講義を受けさせられている。
勉強は嫌いだ。
「ということで精霊魔法というのはそれぞれの属性に基づいた精霊を…」
属性は5個ぐらいにまとめてもらえないと、覚えられるわけない。
「神聖魔法とは、神々への信仰心によって…」
絶対神を一人とかにしてくれないと、誰を信仰してるか忘れそうだ。
「指を振ってドーンみたいな魔法を教えて欲しい」
魔術教師が少し怒る。
「そんな都合の良い魔法があるわけがないでしょう」
「人の領域にはね」
いつからいたのかアリシアさんが後ろからそう声をかけた。
「そういうすごい魔法もあるってこと?」
「そうだね」
と言ってアリシアさんは指を花瓶の花に向けた。
次の瞬間、花びらに穴が開く。
「すごっ!」
「まずは、魔力の練り方を覚えて、詠唱の練習をして、魔法を発動させる」
なんか邪魔くさそうだなと思った。
アリシアさんは笑いながら言う。
「そんな簡単にはいかないさ。まずは勉強。それから練習あるのみだよ」
魔術教師が嬉しそうに言う。
「そうですぞ。ささ、勉強の続きを…」
魔法を使いたいなんて言うんじゃなかった。
私はうなだれて魔術教師の話を聞いた。
はるま君は剣術の特訓を受けている。
こんなことなら私も剣術にすればよかった。
翌日、私は魔術の勉強が嫌になったのでアリシアさんにどこかに連れてって欲しいとお願いした。
そして私は今、
プテラノドンに乗っている。
「はや~い、たか~い、たのし~~」
テンションが上がる。これこそ異世界だ。
背中にしがみついている私を見下ろしながら、
アリシアさんが言った。
「喜んでもらって良かったよ」
「立ってて危なくない?」
「別に落ちたら飛ぶだけだしね」
「アリシアさん飛べるの?私も飛びたい!」
「一番簡単なのは…精霊魔法かね。お勉強しな」
「やっぱり勉強か。嫌んなるなあ」
城に戻るとはるま君が待っていた。
「ゆうなちゃんずるい!
俺も乗せてもらったことないのに!」
アリシアさんが呆れた声で答える。
「あんたは歩くのが好きなんだろ」
「それは違うって!歩くものだと思ってただけで」
その日、はるま君は寝るまでふくれていた。
この一年、理由もわからず大人になっていくはるま君を見て寂しかった。
理由もわかったし、不貞腐れたはるま君を見ていると感じる。
やっぱり、はるま君はいつまでも私の可愛い弟だ。
自分の方が十年長く生きていると威張ってくるところは、
鼻につくけど、姉の器の大きさを見せて許してやろう。
そんなことを考えながら笑いが込み上げてきた。
「ゆうな、これもうまいぞ。食え!」
シンシアが嬉しそうに私に肉を差し出した。
「ほんとだ~おいしい~」
みんなでの食事も慣れてきたし、すごく楽しい。
突然アリシアさんがまじめな顔をして口を開いた。
「それで?見つかったのかい?」
「いる場所はわかったよ~。徒歩一週間ぐらいの距離かな、いつでもいけるよ~」
私は驚いた。
誰だこの人は。
見えてなかったわけじゃない。
今考えれば最初からいた。
でも、全然気にしてなかった。
なんでだ。
「驚かせたかい?初めまして、僕はアーサーさ。
君がゆうなちゃんだね?よろしく」
「よろしくお願いします」
「アーサーさんは、この国の第三王子様なんだって」
「王子様?胡散臭すぎる。あっ」
思わず口に出してしまった。
「胡散臭いかい?それはほめ言葉として受け取っておくよ~」
実際胡散臭い。ペテン師にしか見えない。
「で、賢者だけど、とある祠で隠居生活さ~。
わかってると思うけど、連れてはこれないよ~。
彼に何かをお願いすることは出来ないからね~」
「わかってる。食事を済ませたらすぐ全員で向かおう」
「それで?
ナルちゃんの件を聞くためだけに、
賢者にお願いなんて無茶するわけじゃないんだろ~?」
「私の目的が本題だよ。
ナルの件、はるまやゆうなの疑問の解決はその副産物になるかもね」




