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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第六章 欲望

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第121話 はるまと勝つための強さ

「ゆうなちゃんがいない!


どこ行った?」


俺は起きた瞬間ゆうなちゃんの姿が見えないことにパニックになる。


毎日でも戦争が起こってもおかしくない世界で、

ゆうなちゃんが一人でうろついていたら…


つい昨日…俺は一人で戦いに赴いたばっかりだ。


それと同じことをゆうなちゃんがしていたら…


俺は部屋のドアを乱暴に開けて外に出る。


扉を出ると入り口を見張るように、腕組で仁王立ちの羅刹と夜叉が居た。


「ゆうなちゃんはどこに行ったの?」


羅刹と夜叉がにやりと笑う。


なんだこいつら…ゆうなちゃんがどこに行ったか知ってるのか?


「ゆうなちゃんはどこに行ったのか聞いてるんだ!」


怒鳴りつける俺に驚いた羅刹が口を開いた。


「これは申し訳ないでござります。


ゆうな様は天主様とお散歩にござります。」


「は?散歩?


ニヤニヤしてなんですぐに言わないんだ!」


「はるま様は起きた時にゆうな様が居ないと泣くと申されましてな。


そんなわけないと申しましてござりますが、

はるま様の慌てようが少し予想外でしてな。


お二人は本当に思い合っておられるのでござりますな」


「泣いてねーだろ!」


「それはそうでございますな」


「すぐ戻ってくる?」


「朝食は共にと申されておりますからして、

それまでには戻られるかと」


「頼みがあるんだけどさ…」


「はいな」


「俺を鍛えて欲しい」


「はてな…強さがご所望ですかな?」


「そうだ…俺は戦いで何の役にも立ててない…


これじゃ駄目なんだよ…


ゆうなちゃんを…戦わせたくないんだ」


「覚悟されますれば」


「覚悟ならとうに出来てる!俺は…」


その瞬間目の前が真っ暗になった。


なんだこれ…


何も見えない。


何も聞こえない。


声も出せない。


いや、それどころか…身体がある気がしない。


なんだこれ!


自分自身の実在感が無い。


いや違うな…身体は動いてる、

身体の感覚が無いんだ。


五感が働いてない感覚なのか…


神経を集中すると目の前に羅刹と夜叉が居る感じがする。


俺の感覚が無くなっただけで、何も変わっていないのか…


五感が無いのに何故俺は羅刹と夜叉がそこにいると感じる?


この感じは…魔力を捕らえてるのか。


二人が魔力を放っているから…


右手のはるか先に何かを感じる…


そこに集中すると、まるで感覚で景色を捕らえるように部屋の風景が広がる。


そうか…意識を散らして見ようと思えば、部屋の風景さえ魔力で見えるんだ。


部屋全体に充満するように魔力を出しながら俺はその魔力の流れを追いかけた。


部屋の景色が広がる。


音の流れさえ、水の流れのように緩やかに感じる。


心地良い魔力の流れに溶け込むように俺の意識は部屋全体に広がっていった。


「はるま様、はるま様、聞こえましたなら…はるま様、はるま様。」


「聞こえるよ」


あいかわらず声は出ないが俺は伝えられたと感じた。


たぶんこれは魔力の流れに自分の意識を乗せたんだ。


その瞬間、視界が戻り音も全てが戻った。


「おお、聞こえましたか」


「今のは…何?」


「戦いのさなか、我らがいる世界、はるま様が届かぬ力の世界でございます」


「あの感覚の中で戦えば強くなるってこと?」


「少し違いましてござります。


目も見えるし耳も聞こえる。でもあの空間で感じた魔力の流れ、

あれを五感を超える力として知覚出来た時、

初めて我等と戦う資格を得るのでござります」


「魔力の流れを追うだけで強くなる?」


「はるま様はどれほどの時間、目が見えなかったでござりますか?」


「十分か…十五分ぐらい?」


「実際は数秒、30秒ほどでござります。


魔力の流れは速く、人が魔力を感じる感覚もとても敏感ですからして。


そこに全ての動作に魔力が乗るとなりますと…」


「それが強者の世界…

それが出来なければ戦う土俵に立てないってことか」


「さようにござります」


「どうすれば鍛えられる?」


「ひたすら修練あるのみ。


まずはその状態で生活出来るようにされてみますれば」


「目を瞑って魔力だけを見て生活するとか?」


「五感を封じる術をお教えしますれば」


「ありがとう!それで色々やってみるよ。」


「お役に立ちますれば幸いにござりまする」


「あ、はるま君!起きたんだね!


あれ?泣いてるの?


ゆうなちゃんがいない~って泣いてたんでしょ!」


言われてみると涙が…なんでだろう…


「違うよ!」


「はいはい!ご飯食べよう!」


ふと見ると、ゆうなちゃんの後ろには第七天の魔王と言われる存在…


戦いの時とはうって変わって存在感が無い…


この男が世界を滅ぼすような力を持っているとは思えなかった。



「これおいしいよね~!なんの肉なの?」


「これは草食恐竜の肉ですよ」


「恐竜って食べるんだね!」


「こちらの野菜もおいしいよ」


魔王に差し出されたサラダにフォークを付き刺すゆうなちゃん。


「はるま君も食べる良い」


「あ、ありがとうございます」


俺はゆうなちゃんほど考えずに魔王と話すことが出来ない…


「俺達があなたの子供って言うのは…」


「ああ、それは君の父親の子供だから、私の子供と言っただけでね」


「じゃあ、私達の器は?本当は誰なの?」


「インドラとアスラ、私を倒すと言われた神々だ」


「あなたを倒すと言われた神々を保護してくれた…?」


「別に倒されても良かったんだがね…


どちらにせよ。それ以上に君達だからだよ」


「約定?」


「よく知っているね。


それもあるが…彼には借りもあるからね」


「パパが何かしたの?」


魔王はそっと自分の口に人差し指を重ねるように立てた。


「それは内緒だね」


「そっか…」


「彼の強さは異常なんだよ。


君たちが受け継いだであろうそれもね」


「私達が受け継いだ…強さ?」


「でも俺じゃあなたに勝てない!あなたほどの強さが欲しい!」


「そう思っている間は、私に勝てないかもしれないね」


「それはどういう…」


俺が言いかけると、魔王は手を上げて制止した。


「羅刹は、私と戦って倒せるかな?」


「我は天主様を倒せませぬ」


「なら羅刹は私より弱いか?夜叉はどうだろう?」


「我は、天主様の敵を屠るにおいては最強にござりますれば」


「我は、天主様を敵から守るにおいては最強にございますれば」


「さてはるま君、彼らは自らを最強だと言う。


私は彼らに勝てるかな?」


「でも、天主様は自分で戦っても勝てるし守れるでしょ?」


「いいや、私の身を守ることにおいては、私は夜叉ほど守れないよ。


私の敵を倒すことにおいて、私は羅刹ほど倒せないよ」


「優しいから?」


「というより、必死になれないからかな」


「例えば、今二人を倒したければ、私ははるま君から攻撃する。


何故だかわかるかい?」


「あ、ゆうなちゃんを攻撃した方が俺が強くなると思うから?」


「そうだね…強さとはなんだ?勝敗とはなんだ?そこをはき違えてはいけない」


初めて会った時に、シンシアが言ってた。


理由によっては魔王は俺に負けてくれるかもしれないと…


あれは譲ってくれるって意味じゃなかったんだ。


俺を殺したいほど勝ちたい理由が無ければ、

魔王は俺にだって負けるって言いたかったんだ。


その理由が、こんな違う世界で、

別の魔王を目の前にしてわかるとは思わなかった。


「俺に必要なのは敵を討つ力じゃなくて、ゆうなちゃんを守れる力…」


「そうだ。はるま君の勝利条件は、ゆうなちゃんの無事だろう?」


「先の戦いで言えば、オーディンに挑んだ時点で君は負けていた」


「そうだ…俺がゆうなちゃんを危険にさらした…」


「そんなことないよ!はるま君はいつも私の無事を一番に考えてくれてる」


「違う。そういうことじゃない。


俺は一撃の攻撃力を鍛える暇があれば、

ゆうなちゃんを守る防御を練るべきだった。


そもそもこれはそういう話だ」


「それがわかる男なら、君はきっと彼より強くなる」


「父さんより…それはあなた以上の魔力を扱えるとか、

拳が鋭いとかそういうことじゃないんだね」


「そうだね。彼の力はそういうものじゃない」


「なんとなくわかったよ」


「ゆうなちゃんを守ると言ったら何があっても守る力、

俺はそれを求めないといけない」


「そして、敵を屠る力においても君はその力を持っている」


そうだ、俺はそれを忘れちゃいけないんだ。


父さんが教えてくれてるような気がした。


やっぱり同魂存在は、まったくの別人と言うほど違う存在じゃない。


俺はそれを深く感じた。

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