第120話 はるまと不滅の神
「なんだよ今頃!」
この一週間、起きても自宅だったのに、
今日また急にこの世界に飛ばされてきた。
「おお、お目覚めですか」
「ああ、羅刹か」
「またお二人がお眠りになったと心配してござりました。
夜叉めは天主様にご報告に上がっておりましてござります」
「俺らにもよくわからないんだ。
心配してくれてありがとう」
ゆうなちゃんを見るとまだ幸せそうに寝ている。
「シヴァ共は国に戻りましてござります。
奴隷共の処遇をどうするか、お待ちしておりました」
「奴隷か、今はどうしてるの?」
「特に何も。
食料等は奴らが作った物がありますゆえ、
自由に過ごさせてござります。
今のところ不自由もないかと」
「そっか、ゆうなちゃんはどうしたいんだろうな…」
「では、この話はゆうな様がお起きになってから致しますれば」
「そうだね」
「では、この羅刹めは朝食の準備をしてまいります」
なんで来れなくなったり来たりするんだ。
これいったいなんなんだ…
そんなことを考えてたらドアを乱暴に開けて、羅刹が飛び込んできた。
「少しまずいことになってござります」
「どうした?」
「他の軍勢がこちらへ向かっておるようでござります。
オリンポスが滅び、ここに奴隷がおりますれば…
おそらく漁夫の利を狙っておるのでござりましょう」
「なら、戦闘は避けられないか?」
「おそらく」
俺は寝ていた部屋から出る。
「ここどこ?」
立派な宮殿だった。
「オリンポスが在った地にてござります。
お二人がお目覚めにならぬゆえ、即席で立てますれば」
これを即席で?凄いな。
見れば見るほど立派な宮殿だった。
「軍勢はあちらにてござります」
俺は羅刹の指さす方を見た。
「勝てる?」
「勝てとお命じ頂けますれば必ずや」
「あれが、奴隷を奪いに来たのなら、必ず勝て。
今更元に戻れるかよ」
「承知致しましてござります」
軍勢はどんどん近付いて来る。
シヴァの軍勢と同等か、それ以上かもしれない。
「多いな。ほんとに勝てる?」
「他化自在天の右腕の名に懸けまして」
「なら安心だ」
安心なわけない。
たぶん、羅刹は勝てなくても必ず勝つと言う。
勝てる保証なんてない。
でも、奴隷を奪いに来た奴なら戦うしかないし、
後ろでゆうなちゃんが寝てる以上逃げる選択肢はない。
戦場はゆうなちゃんから出来るだけ離したい。
俺達は二人で軍勢に向かって歩きだした。
とんでもなく大きな馬に乗った隻眼のでかい老人が俺に語り掛ける。
「主は何者じゃ。ここにあった国はどうした」
「我は第六天の魔王、他化自在天様の配下にして羅刹と申す。
シヴァに敗れたオリンポスは、我ら第六天の管理下に入った」
「なに?第六天の魔王はオリンポスと同盟を結んでおったはず」
「笑止、形ばかりの同名とは周知の事実、
我らがオリンポスを滅ぼそうと、もとより不思議はないわ」
「今更何故シヴァがと思うたが、そういうことか…」
「我らと一戦交えるつもりで来たのではないなら、引き取られよ」
「そうはいかぬ。このオーディン、獲物を横取りされて軍を返すわけにもいかぬ。
今この時がラグナロクの始まりぞ!」
そう言うとオーディンと名乗った男は、羅刹に向かって大きな槍を投げつけた。
羅刹が避けるが槍は瞬時に羅刹を追いかける。
「イフリート!ベヒーモスもいるか!?邪魔するやつらを排除しろ!」
そう言うと俺は全身に魔力を集中させる。
青い炎が全身を覆う。
大量の火球を全身から出しながらオーディン目掛けて突っ込んだ。
火球から放たれた数十の青い炎がオーディンを狙い撃ちする。
それと同時に俺の拳がオーディンを討ち続ける。
「ぐああああ!」
俺の真横で羅刹が苦痛の声を上げた。
羅刹の腹にでかいハンマーがめり込んでいる。
俺を狙ったハンマーを羅刹が喰らったんだ。
「がああああ!」
先ほどまで追いかけていた槍が羅刹の背中に刺さる。
俺を守るために槍を無視してハンマーを喰らったから…
余計なことをした…俺は完全に足手まといになっていた。
「第六天の手練れと思うたが、この程度か」
槍とハンマーが手元に戻った二人の大男が、再度二つの武器を投げつける。
イフリートとベヒーモスがそれらを受け止める。
二柱はそれなりの敵を倒したようだったが、同じレベルの神々が数人いる。
数は問題じゃないと思ってた…でも同レベルの化け物がこんな数いたんじゃ…
数の不利が絶望的に思えた。
イフリートとベヒーモスが抑えられた状態で、
ものすごい速さの神が突っ込んできた。
やばい、なんだあのスピード。
身体が反応しない。俺じゃ勝てない。
死ぬ。そう思った瞬間、夜叉が間に割って入る。
「勝手に主を攻撃されると困る。
それなりに早そうじゃが、お前には絶望を食らわせてやろう」
そう言う夜叉の身体が一瞬透けたと思った瞬間、相手を飲み込んだ。
「ざまあないの羅刹よ!役に立たぬならもう死んでおけ!」
「誰に抜かしておるか!」
そう言った羅刹の身体が急に大きくなり、上からハンマーを持った巨人を叩き潰した。
敵も味方も、俺に測れる強さじゃなかった…
そう思った瞬間、半端じゃないプレッシャーを感じた。
天変地異とも思える化け物の中に居ても、空気を変える存在。
この存在感を俺は知っていた。
「己の宿敵と戯れていれば良い物を、生きていることに飽きたのか?」
間違いない魔王だ…
その瞬間、オーディンが槍を投げつけた。
ものすごい速さで飛んでくる槍を、
まるでテーブルの上にある箸を持つように自然につかむ魔王。
その槍を指で挟んだまま、片手で無造作に折った。
レベルが違う…
槍を一瞥して、無造作に投げ捨てられる槍。
あんなに驚異的な力を持っていた槍を、弁当の割りばしを捨てるように…
「なめるな~!」
オーディンの顔が怒りで染まる。
馬の上から飛びあがり、まっすぐ魔王に向かって剣を打ち下ろした。
「うるさい」
ハエでも振り払うように手を払った。
たったそれだけの動作で、オーディンの上半身が飛んでいった。
そう、上半身だけだ。下半身はその場で崩れ落ちた。
その瞬間、戦いは決したと全ての者が悟ったのだろう。
全員が馬から降りて跪いた。
「お前がはるまか、ゆうなは無事だったか?」
俺が答えるより早く、ゆうなちゃんの声がした。
「はるま君何してるの~?なんでまたこの世界に来てるの~?」
振り向くとゆうなちゃんが目を擦りながら、サンドイッチを頬張っていた。
さすがはゆうなちゃん…らしいな。
「無事のようだな」
魔王が少し笑った気がした。
羅刹と夜叉が魔王の前にひれ伏す。
「このような失態、いかような罰も受ける所存でござります」
「大事は無かった。別にかまわんさ」
「しかし」
「それにしてもラグナロクとはな。くだらん」
「は!申される通りかと存じます」
「このまま天使共も滅ぼしてくれようか」
「お望みであらば」
魔王は俺達を見て言った。
「子供の前でする話ではないな。
まずはこの子らを休ませろ」
「承知致しましてござります」
それから俺達は夜叉と羅刹に連れられ、宮殿で少し休んだ。
「やっぱり全然通用しなかったよ」
「結構強くなったのにね」
次々出て来る神話の神々はやっぱり怪物だった。
しかもその怪物があっけなく死んでいく。
頭がついて行かない。
「他の世界とは強さのレベルが違うものな」
声がしたので見ると、ベッドに小さな巫女服の少女が寝転んでいた。
そう言えば魔王の肩に乗っていた…
必死でそれどころじゃなかったけど。
「巫女、天狗か…」
「我等は天狗ではないぞ?巫女じゃ!」
「いやわかってるんだけど、天狗の同魂存在が巫女だって聞いてたから」
「同魂だからと一緒にするでないわ。
せっかく奴のおかげで別の人格を持てたと言うに」
「パパのおかげで別人格を持てた?」
「ああ、いやそれはな」
「約定で言えないのに、うっかりが過ぎるんじゃない?」
「わかっておるならそっとしておけ」
「なんか新情報頂戴よ~」
「お主らは知り過ぎじゃ、新たな情報などくれてやってたまるか」
「世界の話なら答えてくれるでしょ?
俺達なんかわかってきたんだけど…
人が死んで天国に行くとか地獄に行くとか、
もっと言えば魂があの世に行って生まれ変わるとかも無いんじゃない?」
「ありゃせんな」
「でも考え方は間違ってないじゃない?」
「そうじゃな」
「どういうこと?」
「たぶん神様とか天国はこの世界のことで、地獄もあるんだよ。
ただし死んだ人間が言う場所って認識は間違ってる。
人が死んでもここに来ないから…」
「ああ、そういうことか」
「俺が気が付いたのはここからなんだけど。
魂は不滅なんだよ。
だって人は死んでも同魂存在が死ぬわけじゃないから。
俺が五万人殺したって現実の世界で同時に五万人死ぬ事故が起こったわけじゃない。
たまたま事故で死んだ人達だけあの場に居たって、変だろそんな話。」
「そっか、例えば私が死んでもナルが同時に死ぬわけじゃないってことね」
「そうじゃな。人の生き死には関連しておらん」
「そして、俺が死んだこの世界には、俺の同魂存在となる人間が再度生まれる。
それを輪廻転生って言うんじゃないか?」
「そうじゃ」
「でもそれは厳密に言うと生まれ変わりじゃない。
だってそれを生まれ変わりと言うなら同魂存在が同一人物ってことになる。
新たな同魂存在が生まれるだけだから」
「そうなるな」
「そして、たぶんこの世界の神々はその仕組みを知ってるから、
この世界では神が不滅の存在と認識されてる」
「そうだな。
例えばこの世界にオーディンの同魂存在が生まれる時、
魂に刻まれた情報でオーディンに似てるやつを生む可能性があるってだけで、
全く似て非なる者が生まれる可能性もあるよね」
「その可能性の方が高いのう」
「でだ。
俺達の人生を通して魂の情報は少しずつ増えていく。
その行きつく先はどこだって話だ。」
「どこに向かうかは我等は知らぬ。
この理を作りし混沌が何を考えておるのか…そもそも考えておるのかもな」




