第119話 ゆうなと裏切り者
「彼があんなことになった責任が、
あなたに無いなんて言わせないわよ?」
しおりんのお父さんがパパを裏切っていた。
その事実が胸に刺さる。
話を聞いてしおりんは泣いていた。
「なんでそんなことしたのお父さん…」
「話は聞いていたけど、
まさかゆうなちゃんのパパの話だったなんて…」
「あなたが彼を裏切ったあと、彼が経営者仲間からどんな扱いを受けたか。
税務署との訴訟、取引先の裏切り、あれだけ人のために走り回った人が最後には全部の責任を押し付けられて、
裏切り者の汚名を着せられあり得ない噂話を流され…
それでも大丈夫だと笑っていた彼が、本当は会社の倒産を覚悟していたことを知った時の私の気持ちが!
そんな状態で人に絶望して、仲間を捨てた彼が、どんな気持ちで笑っていたか」
ここまで感情をあらわにするおねえさんを私は初めて見たかもしれない。
「本当にすまなかった。私が馬鹿だったんだ。
必死に私の会社を守ってくれた彼を、ただの噂話を信じ、他の人間に追従してしまった…」
おねえさんはお父さんの胸ぐらを掴んで力いっぱい罵倒した。
「ゆうなちゃんの親友のしおりんのお父さんだから話をするけれど、
私はあなたのこと今ここで殺したいほど憎んでると覚えておきなさい。
彼の敵は彼が許そうとも私の敵よ!
しおりんを傷付けるようなことが少しでもあれば、
腹いせに殺されると覚悟しなさい!」
「はい!一生をかけて償っていきます」
しおりんのお父さんは額を頭に擦り付けて私達に土下座した。
私は何も言えなかったが、黙ってしおりんの手を握った。
「私達はずっと親友だよ」
そういう私の胸に頭をうずめたしおりんは静かに泣いていた。
「ごめんなさい。
こんな話をするためなら来てなんて言ってない。
少し頭を冷やしてくるわ」
そう言ってお姉さんは部屋を出てしまった。
それから落ち着くまでみんな黙ったままだった。
「彼は本当に人のために必死になる人だった」
「それは知ってる」
「でもね。やり過ぎたんだ」
「どういうこと?」
「自分の限界まで人を助けようとすると何が起こるかわかるかい?」
「助けられない?」
「それだけなら良いんだがね。
助からなかった人間からのヘイトを集めてしまうんだよ。
詐欺師に騙された人間を助けるだろ?でも詐欺師に騙される前には戻らない。
そうするとね。何故か人は最後に助けてくれた人に恨みをぶつけることがあるんだ」
「なにそれひどい」
「それだけに終わらず、再び詐欺師に騙された時にもそれはやって来る」
「最低じゃない」
「最低だよ」
「君達のお父さんはそう言った人間の標的にされてしまった。
騙された仲間を助けようと必死で動いた。
つぶれかけた組織を復興させようと必死になった。
死のうとした仲間を必死で助けた。
君らのお父さんがしたことはそれだけだったんだ」
「それだけなら恨まれる理由になんかならないじゃないか!」
「騙された奴は、彼がもっと守ってくれたら助かったのにと言った。
つぶれかけた組織は、彼がいなければつぶれることなんてなかったと言った。
死のうとした仲間はもっとひどいことになったと言った」
「結果助けられなかったから?」
「いろんな人間に邪魔されたからね。
彼の努力は仲間の邪魔で無駄になった」
「なのにパパのせいにされたの?」
「私がその事実を知ったのは、彼を裏切るのに加担した一年後だった…」
「最低…」
「騙された人間からは手を離して地獄に行くのを見送れば良かったんだ。
つぶれる組織はつぶせばよかったんだ。死にたいやつには死なせてやればよかったんだ。
人間とは醜い物でね。
最後に助けてくれた人間にヘイトが集まることがあるんだよ。
彼はそれを集めきるまでやってしまう人だったんだ」
「それでも、彼は見捨てられなかった。
同じことがもう一度あっても彼はきっと手を差し伸べてしまうわ。
私は彼を殺す覚悟で止めるべきだったのかもしれないと、今なら思うわ。」
いつのまにか戻ってきたお姉さんの言葉は矛盾していたが、
おねえさんの思いが本物だってことだと思った。
「とりあえず、この話は終わりにしましょう。
ゆうなちゃんも、はるま君も、良いわね?」
「わかったよ。
また落ち着いたらパパの話聞かせてね。
あの頃の私達にはわからなかったパパの話」
「ええ、話すことはたくさんあるわよ。
話題には困らない人だから、笑っちゃう話もたくさんあるしね」
そう言うと、お姉さんは少し笑った。
「それじゃしおりんの話をしましょう。
何故話を聞く気になったのか、その理由からね」
「ここ最近の物騒なニュースを見ていると、
私達も力を持たないと娘を守れない気がしていまして…」
しおりんの両親は不安な気持ちや世界の危機に対しての話をたくさんしてくれた。
「私の気持ちとしては、彼のことを…
いや彼の子供達のこと、あなたのことを信じることにしようと思っている。
あの時彼のことを信じられなかった償いにはならないが…」
「償いの前に子供の安全が第一でしょう。
信じなくても良いから、私達のやっていること、
これからのことを聞いてしっかり考えて決めなさい」
「わかり…ました」
それから私達は今の状況や力のことをかいつまんで話した。
どこか信じてはいなかったからか、
言いたくないことは何も言えなかった…
「この程度じゃ駄目だ!」
そう言うとはるま君はまた的に向かって全力で突っ込む。
しおりんとしおりんの両親は、おねえさんに施設の案内をしてもらってる。
私達は全部知ってるし、はるま君がそれなら訓練施設にって言って別行動になった。
はるま君は怒りをぶつけるように的を叩き続けた。
「ああくそ!」
そう叫ぶとその場に座り込んだ。
「今、無理したって駄目だと思うよ。」
私はそう言ってジュースを差し出した。
「ゆうなちゃんが全部言っちゃうんじゃないかと思ったけど、あんまり話しなかったね?」
「なんか言う気になれなくってね…」
「ついて行っても良かったんだけど、なんかね」
「そうだよね。なんかね」
「パパは思った通りの人だったかも」
「そうだね。良くも悪くも全てに全力だったんだろう」
「回廊とか別世界関係なしにパパの昔話聞いたの久しぶりだったね」
「そうだね。あんまり父さんの仕事のこととか知らないから…」
「すっごい有名なゲーム作ってたとか、
いろんな会社の大切なデータを扱う仕事ってぐらいしか聞いて無かったしね…」
「もしかしてだけどさ…」
「いやな予感がするけど大丈夫?」
「私達を守るためはもちろんだけど、
もう世界は良いやってなったからあのタイミングだったのかな?」
「やっぱり…言っちゃうところがゆうなちゃんだよね」
私だってわかってる…言いたくなかったよ。
「どうだろう?それならおねえさんに大丈夫って言った意味が通らない」
「そうだよね。本当にその気なら素直に世界を滅ぼしそうだし…」
「それにさ…世界が滅びて俺達が幸せになれると父さんが思ったとも思えないんだよね」
「ああ、それはそうかも。パパが私達が生きてさえいればなんて考えるの短絡的過ぎるね」
「ゆうなちゃんじゃあるまいしね」
そういうはるま君は笑っていた。
「私だってそれぐらい考えますよ!
でも、やっぱり考えてもわかんないね」
「そうだねえ...それよりも俺はあっちに戻った後の方が気が重いよ…」
「国が滅びてるからねえ」
「なんだよなあ」
それから案内が終わりお姉さんたちが戻ってきた。
次の連休にしおりんの覚醒の儀式を行う方向になったようだった。
私達はしおりん達を送り届けて家に帰ってママに今日のことを話した。
「ああ、まさかしおりんのお父さんだったなんてね」
「ママも知らなかったんだね」
「パパのお仕事相手のことまではね。
でも、きっとその辺りが全てのきっかけだったから、少し恨みはあるかなあ。
パパが体壊したのも、会社が滅茶苦茶になったのも」
「そうなんだ…」
「でも、ゆうなちゃんは気にしないでね。
しおりんは友達なんだし、関係ないからね」
「うん、ありがと」
いろいろ思う所はあるけど…複雑な感情を抱えたまま私は眠りについた。
翌朝、起きるといつもの自宅だった。
「あれ?神様の国は?」
隣のはるま君も起きた。
「え?あれで終わり?」
「まさか、オリンポスを滅ぼしたら終了?」
「そんなわけ…もしかしてやっぱり俺達に見せたいだけだったから出来事に意味はない?」
「学校に遅れるわよ!早く起きてご飯食べなさい!」
「そうだ!あっちに行かなかったら学校だ!」
私達は急いで朝ご飯を食べて学校に走った。
学校ではいつものようにしおりんと話も出来たし、
昨日のことが二人の間で何か問題になることはなかった。
私は自分の不安を確認するように、そう思って安心した。
「うちのお母さんが凄い怒っててね。
次何か問題起こしたら離婚だ~ってさ。
ゆうなちゃんパパにやったこと許せなかったみたい。
お母さんはゆうなちゃんパパが恩人だと思ってたみたいでね」
「そうなんだね。おばさんには私達は気にしてないからって言っといてね。
きっとパパも気にしてないと思うよ。
ママは怒ってたかもだけど…」
「やっぱりそうだよね」
「でもしおりんは気にしないでってママも言ってた。
それでどうこうしようとは思ってないからって」
「ありがとう」
お互いちょっと複雑な感情を抱えることになったけど、
二人で乗り越えていけば良い。
しおりんは私の親友なんだから…




