第12話 はるまと第三王子
魔法的観点からも彼女の眠る理由はわからない。
アリシアさんが知る限り一番魔法に精通してる人に見てもらった。
「こりゃー魔法で眠らされているとかそういうことじゃないね。
ありえるとしたら、神の領域の魔法。神官共が奇跡と呼ぶ類の物さね」
「神様の…呪いみたいなこと?」
「悪意のあるものならね」
「どういうこと?」
「彼女を守る善意の可能性もある」
「こいつはね。あらゆる外的からもこの子を守っておる。
飯を食わなくても衰えない身体、外圧からも守っておる。
この子を傷付けたいなら、こんな手の込んだ魔法使うかね?」
「その魔法は解けるの?」
「まず無理だね。
今言ったことがそもそも仮説さね。
ありえるとしたらって言ったじゃろ?
何が起こってるか。本当の所は。
な~んも、わからん」
アリシアさんも何も言わなかった。
ただ、
眠る少女をじっと見つめていた。
ほどなくして、
アリシアさんのお使いで出かけていたシンシアが帰ってきた。
「だれ?なんか増えてる?何それ?寝てんの?」
「シル…寝てるのは…お姉ちゃんのナル」
シンシアは両手に持った袋を抱え上げ言った。
「食うか?」
「プッハハハ」
思わず吹き出した。
そうだ。
シンシアはこういうやつだった。
初対面で名前を聞いた次の言葉が食う?
シンシアらしい。
このシンシアに5年間助けられたんだ。
「ご飯にしようか。
アリシアさんもありがとうございます。
いろいろ頼んでご飯も食べずに動いてくれて」
「そうだね。飯食いながら話すっか。
置いてけぼりのシンシアちゃんにも話してやらねーとな」
みんなで食卓を囲む。
家族団らん。
そんな雰囲気だった。
「結局何もわからないってことね?」
「そうなるね」
そういいながらもアリシアさんはどこか遠くを見ている。
ずっと記憶を探ってるように、何かを考え込んでいる。
会話が少し重たくなる。
その時だった。
「いや~、なかなか面白い話じゃないか~」
誰だ?気が付くと当たり前に食卓をともに囲んでいた。
なぜ気にも留めなかった?
存在感を感じなかった。
「んで?お前だれ?」
シンシアがぶしつけに言う。
シンシアのこういうズケズケした所に旅の途中も時折助けられた。
アリシアさんが口を開く。
「ほんとにずうずうしい奴だね。
あんたは勝手に人の部屋で勝手に飯食ってんじゃねーよ」
男性が口を開く。
「そんなこと言わないでおくれよ~。
僕だってここの王子なんだ。
客人と一緒に食事をする権利ぐらいあるだろ?」
「ふん!」
アリシアさんはこの男性が嫌いなのかな?
すごくつっけんどんとした態度だ。
……
ちょっと待て。
「王子?」
驚く俺を嬉しそうに見つめながら男性が口を開く。
「そう。初めまして、僕は第三皇子のアーサー。
この国の王位を狙う一人さ~」
「王子!」
後ろに控える執事が制止する。
王子は笑顔のまま。
しかし、その目の奥に激しい憎悪が見えた。
「良いじゃないか。
アリシアちゃんの力、魔王国の後押しをもらって僕が必ず王位を奪い取る」
執事が心底困ったという顔で頭を抱える。
「口に出さないで下さい。
それを聞かれただけで王にも他の皇族にも睨まれるというのに」
執事は言いながら少し泣き出しそうだ。
「しっかし、これだけ大口叩く男を、誰も気に留めないんだから凄い才能だよな」
執事が口を開く。
「王子は幼少の頃より、
認識阻害や隠匿といった魔法の才能だけは突出しておりましてな」
「だけは?」
「だけは」
「ハッハッハッハッ。
そうしないといつでも殺される環境で育ったからかな~」
王子が豪快に笑う。
豪胆というより、
どこか壊れているようにも見えた。
ふと、魔王になりたかったわけじゃない。
それでも魔王になったあの人の話を思い出した。
「なんで王様になりたいんですか?王様ってそんなに魅力的?」
「どの道、この国が変わらなければ、全ての民と共に亡ぶ運命に変わりはない。
なら、王族皆殺しにしてでも国王になるしかないだろう?」
アーサーが急に真顔になり力強く口を開く。
「魔王が力を振るう理由は明確なんだ。それがわからない馬鹿が多すぎる」
それはなんとなくだがわかる。
きっと根底にあるのは何かを守るためとかだ。
「例えば奴隷を解放する。それだけでも魔王の目的の一つは果たされる」
それにはアリシアさんもうなずいた。
「為政者というのはね。
相手が何を求めているのかちゃんと見極めないといけない」
為政者のことはわからないが、俺もそうだ。
魔王が何を求めて何をしようとしてるのかをしっかり見極めたい。
その先に父さんがいるはずだから。
「それとね…」
王子がもったいぶるように言った。
「王様ぐらいにならないとアリシアちゃんと結婚する立場は得られないだろ~?」
「お前と?」
「僕と」
「私が?」
「アリシアちゃんが」
「ありえね~だろ。何言ってんだてめ~」
「ありえなくないさ~魔王軍の重鎮とこの国の王。釣り合うじゃないか~」
「お前さ~私が指先ひとつでお前を消し炭に出来るって、理解してんのか?」
王子はにやりとしながら答える。
「アリシアちゃんはしない。いやできないさ。
アリシアちゃんはそんなことの為に力を手に入れたわけじゃないからね」
この人は理解してるんだと思った。
理解した上で、魔王達と手を取り合った先の国の繁栄を本気で目指してるんだ。
「チッ!」
アリシアさんは舌打ちしながら頬杖をつき、ナルの方を見た。
「ふ~」
考え込むようにつぶやく。
「まさかね…」
アリシアさんは時折この目を見せる。
何かを思い出しているというより、
頭の中で浮かんだ疑惑を打ち消しているように見えた。
「そうか!」
アリシアさんは机を叩き立ち上がる。
「王子様よ~ちょっと探して欲しい人間がいるんだけどいいかい?」
おどけて王子が答える。
「なんでも頼んでおくれよ~アリシアちゃんの頼みなら僕は大好きなデザートだって我慢出来るさ~」
「賢者と呼ばれるあいつ、この国にいるはずだから探してくれ」
王子が真剣な目に戻り聞いた。
「本気なんだね? わかった、3日くれ」
王子はそれだけ言うと重い空気を放ったまま部屋を出て行った。
賢者?誰なんだろう。
それ以上は何も聞くことが出来なかった。




