第11話 はるまと眠る少女
「魔王という存在が全然理解出来ない」
誰かに話を聞くたびにわからなくなる。
本当にみんな、同じ魔王の話をしているのだろうか。
頭の整理がつかずに、城下町を散策することにする。
屋台で焼きとうもろこしを買おうと思った。
父さんはなんば、と言っていた。
俺も父さんも好きで、よく一緒に食べたんだ。
買おうとしてアリシアさんからもらったでかい金貨を渡したら、
お店の人が青ざめながらおつりがないとただでもらった。
アリシアさん何をくれたんだこれ。
やっぱりあの人、
思っていたよりずっと偉い人なんだろうか。
歩いていると、
またあの少女が、先日のおじさんに怒られていた。
もめごとになると困るが、どうしても気になったので声をかける。
「あの~」
「あ?」
おじさんがにらみながら振り返る。
しかし目があった瞬間、
「あ、あ、あ、」
そのまま走り去ってしまった。
少女に向き直り声をかける。
「大丈夫?」
「…」
「何か、困ったことある?」
「…」
「困ったな。食べる?」
俺はもらった焼きとうもろこしを差し出した。
「お姉ちゃん」
「え?」
「お姉ちゃんにあげてもいい?」
「いいよ。良かったら何か他にも買って持っていこうか?」
学校で禁止されてるし、
父さんにも母さんにもおごってあげることはダメだって言われてる。
でも…この世界だからよし。ということにしよう。
少女がうなずいたので、一緒に屋台を回る。
少女はにおいに誘われるままにいろんな屋台を回った。
この金貨を見せると、
みんな恐縮したように商品を差し出してくる。
まるでフリーパスチケットみたいだ。
もらうのは悪いと思ったが、
金貨を受け取ってくれない以上仕方ない。
ありがたくもらっておく。
良い匂いに誘われて色々買ったからか。
持っている袋から良い匂いが漂っている。
路地を通り抜け、少女が入る家に入っていく。
「おねえちゃん。ただいま」
少女の目線の先を見ると、
ゆうなちゃんぐらいの年の女の子が眠っている。
年だけじゃない。
なんだか雰囲気もゆうなちゃんに似ている。
顔は全然似てない。
体格も、全然違う気がする。
でも、なぜだろう。
とてもゆうなちゃんに似ている気がした。
「お姉さん病気なの?」
少女に問いかけると、
「わかんない。起きないの」
その瞬間、父さんのことを思い出した。
「見せてもらっても良い?」
気が付けば姉の傍まで駆け寄っていた。
顔色は良い。
元気そうに見える。
まるで眠っているだけみたいだった。
「ご飯は食べてるの?ずっと寝てるの?」
「ご飯は食べない。とうもろこしの良い匂いで起きるかなと思って…」
少女は先ほどの焼きとうもろこしを姉の鼻先に近付ける。
反応はない。
「いつから?」
「もう10年ぐらいになるかな」
父さんが倒れた頃だ。
偶然とは思えない。
胸の奥がざわついた。
父さんも食事もせずに生きている。
点滴もしてない、この子はもちろんしてない。
寝てるだけに見える。
10年寝たきりでやせ細った感じにも見えない。
こんなことがあるのか?
「こういうことって他に聞いたことある?」
少女が首を横に振る。
「他の人に見せても良い?」
少女が首を縦にふるやいなや、俺は走った。
アリシアさんにこの状況を見せれば何かわかるかもしれない。
ゆうなちゃんに似たこの少女を救いたい。
でも、それ以上に、
現実の父さんを治す手掛かりになるかもしれない。
今までバラバラだったものが、
少しだけ繋がった気がした。
俺はアリシアさんの部屋のドアを勢いよく開けた。
メイドが失礼だと注意する。
わかってる。でも聞いていられない。
「あの!病気の子がいて、見て欲しいんです」
「わたしが医者に見えんのか?見てどうすんだ」
アリシアさんが突き放す。
「とにかく見て、俺なんもわかんないから、
そういう病気が普通にあるのかとか。
魔法的なことなのかとか。
なんでもいいから教えて!」
いつもと違う雰囲気を察してくれたのか。
「わかった。いこっか」
アリシアさんはすぐ聞いてくれた。
メイドに向かって、
「ついでに医者にも見せるか。医者の手配してやってくれない?」
メイドはすぐに手配しますと言ってくれた。
道中で事情を話しながら、アリシアさんと少女の家に戻った。
アリシアさんが見る。
考え込む。
いや、違う。
固まっている?
「これは…少なくとも私の知ってる病気じゃないね」
「魔法?」
「それはわかんない。
魔法だとしても、
こんなに綺麗に痕跡を消せるもんかね。
少なくとも私には無理だね」
「アリシアさんでも使えないって、使える人いるの?」
「そりゃーいっぱいいるさ。
魔法ってのは体系も種類も山のようにあるからね」
「わかる人はいるかもってことだよね?」
何かのとっかりでもいいからわかってくれ。
「でも私に想像すらさせないような魔法となると…」
アリシアさんが何かに気付いたように見えたが、
すぐに頭を振ってかき消したようだ。
しばらくして医者が来て診察してくれたが、
やっぱり何もわからなかった。
「運んで欲しい」
「え?」
アリシアさんが俺を見た。
「この子のこと調べて欲しいんです。
わがまま言ってるのはわかってます。
でもちゃんと調べて欲しい。
俺が出来ることなんでもするから!」
「いいよ」
アリシアさんは二つ返事で軽く答える。
「適当なわがまま言ってんじゃないんでしょ?
あんたにとって大切なんでしょ。
ならいいよ。
シンシアがあなたの力にはなんでもなりたいって言ってたしね」
「ありがとう!」
思わず声が大きくなった。
アリシアさんはしゃがみ込み、
不安そうな少女と目線を合わせた。
「あんたも一緒にね。
ここにいるよりはましさ。
大丈夫だよ。私が保証してやんから」
少女は眠る姉を見る。
それから小さくうなずいた。




