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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第一部 第一章 魂の境界

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第10話 アリシアと魔王

「あれは魔王がまだおねしょしてた頃の話さね」


「ちょっちょっと待って待って、魔王がおねしょするの?」

思わず突っ込んだ。


アリシアさんは当たり前だって顔して答える。

「私の知らない頃の話だよ、

あのおっさんが50歳ぐらいの時の話だからね」


シンシアが突っ込んでくれた。

「お姉ちゃん、そんな前の話聞きたいわけじゃなくね?」


「そうですね。魔王の人となりがわかる話とか、

変わったと思うきっかけとかそういう話が聞ければ…」


「そういう話もするよ。400年分ぐらい話せばいいんだろ?」


俺はおそるおそる聞いてみる。

「その話どれぐらいかかります?」


「1年ぐらい?」


「いや、もう少しコンパクトにお願いします」


アリシアさんが呆れたように言う。

「そうだね~。ちょうど10年前だったかね魔王を名乗りだしたのは…」


「…終わり?アリシアさんから見た魔王とか、魔王を名乗りだした理由とか」


「そういう話ね。あれは200年ぐらい前の話だね」


「私が新兵として前線に配備されたころの話…」



「これだから田舎兵士等入れるのは嫌だったのじゃ!」

一人の司令官が怒りのまま暴言をぶつけている。


「申し訳ありません」

敵に物資を奪われ、命からがら逃げかえった私は上官に叱責されていた。


「敵に陥落した前線基地に物資を提供するなど、

この戦いに負けたら全ての責任はお前にある!」


作戦に失敗し陥落しているなど、伝令も受けていない。

今さらだが、下級兵だけで救援物資の補給という任務そのものが無茶だったのだ。


1時間。


2時間。


傷付き疲れ切った状態でいったいどれぐらいの時間叱責されていただろうか。


「もうよい。死罪は確定だ。今すぐ切り捨てる」

上官が剣を抜く。



ヒュン!

剣を振る音が聞こえた。


シュッ!

地面に剣先が刺さる。


見ると傭兵の一人が上官の剣を切り落としていた。


剣を鞘に戻しながら、

「生きて帰ってきた部下を殺す指揮官なんかに、

誰が命を預けるんだ」


そういうとその男は天幕を出ていこうとする。

「私はこれで失礼する」


数名の兵士が同調するように踵を返した。


「今出ていけば、お前たちは反逆者として終われる立場となるぞ!」


「本気でそう思うなら追って来い。

命を懸けて俺たちと戦う覚悟が出来ての話だろうな?」


「いや、それは、、、」


その振る舞いは、まるで無敵だった。


この男に、ついていこう。


そう思った私は、そのまま去って行く連中の後を追った。



そんなことがあったのにね。


その直後何したと思う?


気が付いたら大量の物資を拝借しててね。


あの時は本気で呆れたんだけどね。


近くの村に行ってそれを村人にふるまうの。


それから数日、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎよ。


まじめな顔してついて行った自分が馬鹿らしくなったわ。


今思い返しただけでも、自然と笑い声が出てくる。


その村ってね。


いまだにその時期祭りをやるの。


特別な名前の無い、祭りって名前の祭りをね。


みんな楽しかったんだ。



毎日酒を酌み交わすうちにわかってきたことがあった。


彼は戦いを終える戦いを目指していたのよ。


この世に秩序をもたらすために、必要な戦いもあると信じて戦っていた。


誰よりも強いのに、誰よりも戦いたくなかったのよ。


でもね。


どこが勝とうが負けようが、戦争なんてなくならない。


だってそうでしょ?

武力で自分の望みを叶える可能性が残っているうちは、

追い詰められた国は必ず戦争を選ぶわ。



殺せど殺せど終わらない戦争、

拡大しても拡大して止まらない欲望渦巻く権力の世界。


限界を感じていたのよ。


私の件で、彼は無理だと悟った。



それから私たちが目指したのは、戦争にすらならない圧倒的な力。


それからおおよそ200年、表舞台には出なかった。



秘宝が眠る遺跡を目指し冒険をした。


古代龍を討伐して魔法技術の封印を解いたり、

とにかく楽しかった~。


精霊と契約をするために、数日生死をさまよったこともあったわ。



いくつの命をかけたかもわからない。



そのうち同志が集まったんだけど、

純粋に思想に賛同した者、力だけを欲した者、様々だった。



力を欲する奴は駄目ね~


自分の命すらかけられない。


なんで人智を超える力を無償で得られると思うのよ。


そりゃ運が悪けりゃ死ぬでしょうよ。


代償として命を差し出せる馬鹿だけが残ったのよ。



それでも同志はどんどん集まっていったの。

いつしか数万の人智を超えた戦力を有する私たちは、

魔王軍と呼ばれる存在になっていったのよ。



でも、それでもね。


彼は魔王なんて名乗ったことはなかったの。


王だとすら思っていなかったわ。



あのおっさん、ずっと魔王なんて呼ばれるの嫌がってたんだけどね。


10年前急に、「俺は魔王になる」って言いだしたの。



私は理由は知らない。


他の誰も知らないんじゃないかな。


知っているとしたら一人だけ…


ううん、あの子も知らないんじゃないかな。



ひとつだけ確かなことがあるんだけど、

今の魔王はあの頃のおっさんじゃない。


仲間が溺れたからって湖干上がらせるような馬鹿だし、

誰かが怒り出すまで下らない冗談言ってる面倒な奴だし、

命かけた戦いだってのにべろべろに酒に酔って現れるし、

そんなわけわかんないやつだけどさ。


私はおっさんのこと大好きなんだ。


でもね。

魔王と名乗る前のおっさんの方が、好きだったんだ。


だからって離れようとは思わないんだけどね。


今だって大好きなんだから。



少し潤んだ目をこする。

言ってて自分でも笑っちゃうんだけどさ。


みんなも一緒だと思うよ。

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