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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第六章 欲望

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第117話 はるまと神々

天宮が地割れに飲まれ、津波のような大軍が全てを薙ぎ払っていく。


ほんの少し前までゆうなちゃんと奴隷をどうしようかとお寿司を食べていた。


爆発音が聞こえたと思い駆けつけたら、攻め入ってくる軍が見えた。


雷を纏った神が姿を現した。


たぶんあれがゼウスだ。


プレッシャーなんて物じゃない、強大な力を感じる。


ゼウスの放った雷は、神の怒りそのものに思えた。


大きな津波と共に現れた神、目にも見えぬ速さで走る神、

一歩踏み出すだけで地割れを起こす神。


神話で語られる神々の名を納得させる強大な神々の出陣。


負けるわけがない。こんな力に抗えるわけがない。


一体どんな馬鹿がこんな奴らに喧嘩売ってるんだ。


さっきまで勝てるか?なんて話していた自分が馬鹿だと思った。


人が抗って良い存在じゃない。


勝てるわけがない。勝てるわけがなかった…


それが今、俺の目の前に沈んでいく。


「シヴァよ!このようなことをして秩序が乱れれば誰も残らぬぞ!」


「倒れるのは己だけよゼウス!」


「無に帰せシヴァよ!ケラウノス!」


空間を雷が支配する。


ゼウスの投げた雷が一直線にシヴァを捕らえた。


その瞬間、シヴァと呼ばれる男の額に第三の目が開く。


雷は砂塵と化し、その目から放たれた青い炎がゼウスを焼き尽くす。


「ぐああああ!我らは不滅、何度でも蘇り己を呪い続けようぞ」


「底なしの死ねんで永遠に生き続けるが良いわ!」


シヴァのその声と共にゼウスの身体が灰になった。


ほんの数分前まで栄華を誇ったオリンポスが今、滅びた。


戦争だと身構える時間も無かった。

まるで初めから決まっていたように、

神の軍勢が滅びゆく姿はまるで物語を見ているようだった。


「夜叉はうまくやったようでござりまするな」


羅刹の言葉に、俺は驚いた。


「お前らが…これを?」


「はいな」


「なぜ?」


「これは奇なことを、

戦わずして奴隷を手に入れるためにござりますれば」


これは、戦わずしてなのか?


「いや、戦ってんだろう?」


「我らは戦っておらんではないですか?」


「そうなのか?」


「いや、違うでしょ」


ゆうなちゃんにそう言われてハッとなる。


「そ、そうだよ。違うよ」


「違いましたか?」


「戦わないってことは戦わすのも駄目だよ」


「あいやこれは我らの失態です。


そのようなルールが存在しましたとは」


羅刹が跪く。


「罰はいかようにも」


「いや…罰とかは…」


どうすんだこれ…


「俺達のせいで戦争が起こった…」


今までは巻き込まれただけだった。


戦いを挑まれたから倒しただけ…


それが、今数十万の神の大群が、俺達の判断で滅びた。


「私達の…せいだよね。やっぱり…」


やばい、ゆうなちゃんに…


ゆうなちゃんにはこのカルマを背負わせないと誓ったのに…


父さん、俺やらかした。


どうしたら良いんだろう。


助けて…



夜叉がご満悦で戻ってくる。


「いかがにございましょうか」


「夜叉よ。違ったようだ」


「何?どういうことだ?」


「戦ってはならぬと言うのは、別の者に戦わせるのも駄目だったようだ」


「なんとそのようなルールが」


夜叉が跪く。


「知らぬこととは言えとんだ失態を!どのような罰とて…」


「罰は良いよ。それよりどうしよう…


とんでもないことになった」


「とんでもないこととは?」


「一つの国が滅んだんだよ?これは俺が軽々しく命じた結果だ」


「しかし、救いたかった奴隷は救えるわけですからな」


「でもどれだけの人が死んだと…」


「ああ、それが問題ですか。

あれらは死にませぬ。どこかでまた生まれますれば」


神は死なない。それが唯一の救いか…


「でも結局これで勝った神が、別の神を奴隷にするんじゃないの?」


「それはご安心頂きますれば。


ゼウスに恨みを持つ者を選びましたゆえ。


あれらは何も奪わぬという条件にて攻め入りました」


本当に俺らが求めた物を忠実に遂行してくれたんだ。


だからこそ重い。


俺達の言うことを純粋に聞いた結果が国を滅ぼす結果を招いたんだ。


俺達はもう国を滅ぼした張本人だ。


「私のせいだね…戦わずに勝てなんて言ったから…」


「違う!俺の命令だ!俺の命令だよな?」


俺は夜叉に詰め寄った。


「はいな。はるま様の命令で行動致しましてござりまする」


「そんなことないよ。


私言ったもん」


「だとしても、俺達二人で言ったんだよ」


俺は夜叉と羅刹に目くばせした。


「まあでもあれですな。

やっぱりはるま様の命だからこそ従った部分も」


「だよね!やっぱり俺が言うと違うよな?」


「そうでござりますな」


俺がうんうんとうなずくと二人は安心した顔をした。


安心してんじゃねー。ゆうなちゃんの不安を取るまで頑張れ。


そう思ってにらみつけると二人はさらにゆうなちゃんをなだめた。


「ど、どちらにしても我らが命令を勘違いしたのが悪かったゆえ」


「そうですぞ。あの命令で戦わすなど夜叉が先走った結果にござりまする」


「でも…でも…」


それからずっとゆうなちゃんはふさぎこんでいた。



夜叉がそっとゆうなちゃんの横にどら焼きを置いた。


ゆうなちゃんがどら焼きを無視するなんて、想像以上に堪えてるんだ。


やっぱりゆうなちゃんにそんな決断をさせるべきじゃなかった。


俺達の決断でこんな結果になるなんて思ってなかった。


ゆうなちゃんを守るためなら何人殺しても良いと思ってた。


そんな俺と天界はある意味で相性が悪いんだ。


いや逆か。良すぎるからこんなとんでもない結果になる。


夜叉も羅刹も当たり前にこの世界の価値観で動いただけだ。


もしかして、父さんの考え方の根幹、

一番色濃く反映された世界なんじゃないだろうか。


「ゆうな様、はるま様、お目通り願いたい」


シヴァと呼ばれていた人が来た。


いらない話をされたくないから、

出来ればゆうなちゃんに会わせたくないな。


「なに?」


ゆうなちゃんが先に返事をしてしまった。


「この度は我らの攻撃を御見逃し頂きありがとうございました」


「何も出来なかっただけです」


「それでも、

我が妻を救い出すことが出来ましたゆえ、お礼申し上げます」


「奥さんが捕らえられてたの?」


「ですがゼウスと他化自在天殿が同盟関係であったため手出しが出来ず…

悔しい思いをしておりました。」


シヴァの話に夜叉が補足する。


「それを我が、ゼウス討伐後、

奴隷を解放するのならば戦いに口を挟まぬと伝えましてございます」


「ああ、じゃあ俺達の決断が戦争の引き金ってわけでもないのか?


いや、引き金には違いないけど」


「いえ、引き金にはなっておらんでしょう。


憎っきゼウスを討つのを止められていた枷が外れただけです」


「ゆうなちゃん、もう良いんじゃない?


奥さん攫われた人が悪い奴を討つのを止めないよって言っただけなんだし」


「それは…そうなんだけど…」


まあ簡単には割り切れないよな。


俺だってそうだもん。


「それにしてもゼウスってのは人の奥さん攫ったりして何がしたかったんだ?」


「ゼウスは人の妻を奪ったり、

望まぬ女性に子を産ませたりすることが日常茶飯事だったようですな」


「なんだそれ、最悪じゃないか。


そんなやつがなんで神なの?」


「まあそんな神はたくさんおりますよ」


「なんだそれ。

神ってなんなんだよ」


「何と申されましても…そういう者だとしか」


「なんなんだよ。なんか気持ち悪りーな。


戦争大好き、家族を引き裂く、無理やり女性に子供を産ませる。

働きもしないで快楽のために遊びに興じる。


そんな奴等、存在してる意味ねーだろ!」


「意味などありますまい。


そこに在れと生み出されたから、

神は神としてそこに存在する」


聞けば聞くほど怒りがわいてくる。


「ならせめて人に迷惑かけないように存在してろよ!」


ここにいる神に罪は無いのかもしれない。


でも…それでも…

理解出来ない世界への嫌悪感が俺を蝕んでいくような…

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