第116話 ゆうなとオリンポス
「駄目、耐えられないよ。
こんなのって無いよ」
邪教の神と呼ばれる人達が、
鞭を打たれて馬車を引いたり農作業をしたり、
休むことも許されず働き続ける。
私は直視出来ず顔を背けることしか出来なかった。
「俺達には何も出来ない。
神と呼ばれる存在が本当に神に等しい力を持っているなら、
俺達には勝てないし今喧嘩を売るべきじゃないから…」
そう言いながら、はるま君の手は震えていた。
恐れじゃない…きっとこれは怒りだ。
「お二人ともめったなことは致されぬよう」
私達にずっと付いて来るけど、こないだの人とは違う人だった。
「あなた達はずっと私達についてくれてるの?」
「私共はお二人の望みを叶える役にございますゆえ。
我々のことは、随神とお呼び下さいますよう。
基本的にどちらかがおそばにおりますゆえ」
鞭を打たれていた男が、列を離れて倒れた。
「み…水を…」
「随神さんお水ってある?」
「手を出しなされますな。
あれにはあれの役目がございますゆえ」
「そんな…」
そばまで行くが何も出来ない。
その時、倒れた男性に鞭が飛ぶ。
私は、とっさにその鞭を止めようと手を上げ割って入った。
腕に巻き付いた鞭が背中を激しく打ち付けた。
「きゃあ!」
ものすごい痛みに悲鳴を上げてしまった。
それを見たはるま君が間髪入れずに飛び上がる。
「何やってんだ。てめー!」
はるま君の拳に鞭を振るった男が吹き飛ばされる。
「あああ、おやめくだされと申したのに…」
反撃が来るかと思い飛ばされた方を見ると、
その場で平身低頭、土下座していた。
「あれ?反撃は…無い?」
同じような鞭を持った男が二人、
吹き飛ばされた男の脇を抱えて去って行く。
「うおおおおお!」
言葉に出来ない訴えを叫んでいるように見えたが、
そのまま連れ去られてしまった。
倒れていた人は、いつのまにか列に戻っていた。
「あれ?なんだったんだ?」
「あやつは反省房でお仕置きですな」
「なんで?」
「何をいまさら、あなた様方はご客人にございますゆえ。
あなた方が何かなされるたびに、誰かがあのようになりますな」
「あ!そうだった。
ゆうなちゃんは大丈夫?鞭で打たれたところ」
「うん、大丈夫。
ちょっとひりひりするけど」
「ヒリヒリしてるなら大丈夫じゃないでしょ。
見せてみてよ」
私は背中をはるま君に向ける。
「ちょっと赤くなってるね」
シャツをめくって背中を覗いたはるま君はそう言った。
「赤くなってるぐらいなら大丈夫だよ」
「駄目だよ。
随神さん冷やすもの無いかな」
「はいな」
随神さんが手をかざすと凄く気持ちよかった。
「おお、ヒリヒリが消えたよ!」
「それはようございました」
「ありがと。
私達が余計なことをしたら、ゼウスさん怒る?」
「めったなことで怒りはされんでしょうな。
怒られましたならここオリンポスと第六天の戦争になりますゆえ。
まあでもその程度でございますれば…」
「その程度って、最悪じゃないか」
「神々は戦が大好きゆえ。
神の歴史、神話も戦の話ばかりでございましょう?」
「それは…そうかも」
「働きもせずに奪うことでのみ成立する世界…
最悪な国じゃないか、反吐が出る」
「奴隷に落とすは更生の道、戦いがある以上は敗者は必ず生まれますれば」
「奴隷を解放しようとゼウスを叩いたとして、
勝った後にゼウスの処遇をどうするかって話か」
「戦争が起こった原因がお互い様なら、
敗者を無罪放免ってわけにいかないか…」
「そうだ孤児…親が奴隷になったら子供はどうなる?」
「神は子供に執着せぬゆえ。
大人と同じような扱いにございます」
「この中に子供もまぎれてるってこと?
ほんとにクソな世の中だな」
「その物言い、お父様そっくりでございますな」
「パパも抗おうとしてたのかな…」
「そもそも随神は何故随神なの?最初からそう生まれたから?」
「我らも元々邪教の神、天主様に敗れ、
その強さに焦がれ付き従いましたゆえ」
「随神としての立場で付き従うようにしたってことね」
「さようにございますれば、我らの使命はあなた方を守ることゆえ。
おお、噂をすれば羅刹が戻ってまいりましたな」
「こないだまでついてくれてた人だね。
羅刹さんって言うんだね」
「ゆうな様、はるま様、羅刹戻りましてござります。
おお、夜叉よ。
しっかり励んでおったか?」
「お主に言われる筋合いも無し。
天主様はご機嫌如何であったか?」
「お二人が顕現されたことを知り喜ばれておったわ。
ゆうな様、はるま様こ奴に不出来はござりませんでしたか?」
「大丈夫!いろいろしてもらってるよ!」
「それはよろしゅうございました」
「お二人は、この国の奴隷をなんとかしたいと思われておられてな」
「ゼウス等取るに足らぬ、なんとかしたけば奴隷を奪えば良かろう」
「これ羅刹よ。天主様のご意向も聞かずにそのようなことを」
「お二人のなさりたいようになさるようにと言付かっておるゆえ」
「おお、ならば滅ぼそうぞ」
「いや、駄目でしょ」
はるま君がそう言うと夜叉さんは困ってるように返した。
「駄目…でございますかな?」
「駄目だね」
私が言うと羅刹さんはシュンとした顔で答える。
「駄目…でござりまするか」
話をしながら歩いていると、
子供の奴隷も大人に混じって働かされてるのを数人確認出来た。
「子供だけでもなんとか助けてあげられないかなあ」
「ゼウス殿に寄越せと申しますれば」
「寄越せと言ってもらえるものなの?
もらえたらどこかで安全に暮らせる?」
「断れば腕の一本も捩じ切れば聞きましょうぞ。
その後は第六天に住まわせればよいでござりましょう。
天主様も奴隷の子を丁重に招くことは反対されませぬでござりましょう」
「腕を捩じ切るのはどうだろう…」
「そうだぞ羅刹よ。
お主は短絡的でいかん」
羅刹さんは乱暴だけど、夜叉さんは少し知性派なのかな。
「あのゼウスが腕の一本で言うことを聞くか?
半身を消し炭にしてくれよう」
「おお、夜叉よ。その通りだな」
二人とも同類だった。
「ゼウスさんも強いんでしょ?」
「自らを全知全能などと喧伝する者など底が知れておりますれば」
「勝てるの?」
「勝てと申されますれば必ずや」
「駄目だよ」
「勝つのは駄目と申されまするか」
「違って、戦って解決するのがね」
「なるほど、知略にて奪うことをお望みでありますれば」
「それも違うなあ」
「なれば我等はどのように致しますれば」
「それが問題なんだよなあ」
「ふむ…」
夜叉さんも羅刹さんも難しい顔をして黙り込んだ。
難しいことを言ってしまったなあ。
「パパなら力で奪う?」
「わかりませぬ。
天主様も戦いを辞め籠られましたゆえ…
同じことでお悩みなのかもしれませぬゆえ。」
「強さに従ったあなた達は、
戦わないようになったパパをどう思うの?」
「どちらでもよろしいかと…
強さは力に非ず、何物にも負けぬ力のことでござりますれば」
「戦えと言われれば戦いますれば、勝てと言われれば勝つ所存にござりまする」
「戦うなと言われれば戦いませぬ、
それでも勝てと申されれば勝ってご覧に入れましょうぞ」
「それが良いな。
戦わずに且つ」
「ふむ、頓智にござりまするな。
少し考える時間を頂きますれば」
「そうだよね…トンチだよね…」
それから俺達は何も出来ずに、
荒野を眺めて城壁に並んで座り、
二人でお茶を飲んでいた。
夜叉さんと羅刹さんは何やら相談していた。
私達の出したトンチにどう答えるか考えてるんだ。
「どうしたら良いんだろうね。」
「俺達にはどうしようもないのかな…」
「でもあきらめたくないよ」
「だよね…」
「では夜叉よ頼んだぞ」
羅刹さんにそう言われて夜叉さんが飛び立った。
「夜叉さんどこか行ったの?」
「少し調査と準備を致しますれば」
「そっか…」
「どうしようかなあ」
「しばし食事でもしてお待ち頂きますれば。
こちらにお持ち致しましょうか」
「そうだね。
お腹もすいたし…」
それから羅刹さんがお寿司を運んでくれた。
「サーモンいっぱいだ!」
「たまごにマグロにサーモン、私が好きなものばっかり」
「俺のはいくらが入ってる」
私は魚卵アレルギーでいくらは食べられない。
私のだけに入ってないってことは…
「私とはるま君が好きなもの知ってるの?」
「天主様より聞き及んでおりますれば」
「パパから聞いたんだろうな。
魔王さんも邪神さんやその他の人達もみんな…
封印させるぐらいだからどんな関係なんだろうって思ってたけど、
私達への対応を見る限り、仲が悪いって感じじゃないよね」
「そうだよね。どちらかと言えば俺達には協力的だし守ってくれるし」
「パパのことは追いかけないって決めたけど…気になるなあ」
「だよなあ」
「でもさ…」
「なに?」
「コーン巻きがいっぱい入ってる…」
「父さん俺達がまだコーン大好きだと思ってるんだろうな」
「今でも好きだけどね…」
涙があふれてくる。
「パパの中ではまだ私達の一番好物はこれなのかも」
「だよね。あれから三年…好きな物も変わるってのに…」
はるま君も涙を浮かべていた。
パパの同魂存在に会ってパパがいるような気がしてた。
でもやっぱり私達のパパはあの時から時間が止まってるんだ。




