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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第五章 渇愛

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第113話 はるまと強さの基準

「嘘だろ?ここであの世界終わり?」


起きるとまた家だった。


「なんであれで終わり?


なんにも終わってないよね?」


ゆうなちゃんが不思議そうに言う。


そりゃそうだ。


だって戦争終わって祝勝会して寝て…終わり?


「でも考えたら今までの世界でも、これからって所で終わりだったんだよね」


「そうだけど、これまで以上にこれで?って感じじゃない?」


「そうなんだよなあ。


何が変わったから終わりなんだ?


ヘレンが動き出したから?


教育をし始めたから?」


「そもそも違うのかも」


「何が?」


「何かが変わったから終わるとかって考え方がね。


混沌は気まぐれって天狗も言ってたでしょ?」


「終わりに理由がないかもしれないってことか…」


俺がそう言うと天狗がため息をつきながら言った。


「混沌のやることに理由を求めるとこんがらがるぞ。


あれに理屈なんてない。


我等を見てて人の世の政治に興味があるように見えるか?」


「見えない。ってか人類が滅んでも興味ないんでしょ?」


「そんな我等よりも理の外のもんだぞ?」


「そっか、奴隷制度が無くなったら成功なんて理屈がそもそも無いのか。」


「私達に何かを変えさせたかったんじゃなくて、

例えば見せたかっただけとか」


「見せたかった?何を?」


「わかんないけど、いろんな世界を。


一度だけ仏界に行ったでしょ?なんか意味不明なふわふわ漂ってるみたいな世界」


「あれは完全に見せたかっただけって言われたらそうかもね」


「そういうことなんじゃないかな。


で、私達が何かを見たから終わった」


「その可能性の方が濃厚だろうな。

世界の秩序よりはお前らの成長の方がまだ興味あるだろ」


「俺達の成長が?なんで?」


天狗は答えなかった。


「考えてもわかんないし、とりあえず朝ご飯食べよっか」


「そうだね。なんか肩透かし」


「まあ、まだなんでかいけないけど、数日したら行けるパターンも残ってるけど…」


「今までの無かったパターンね」


「最初のアリシアさんの世界でしょ。次のルーナの世界でしょ。

ノイジーの世界に、樽の世界。そして獣王国の世界。


あと仏界があったでしょ?


はるま君が言ってた火の山と氷の海の世界、これはまだ行くのかな?

私のスイーツ食べ放題の世界も、まだ行くのかな?


これで八個でしょ?

あと知らない世界が二つだね」


「やっぱりゆうなちゃんはなんか抜けてるんだよなあ」


「なんで?」


「俺達が今いるここがあるでしょ?」


「あそっか!ここも一つの世界なんだね」


「わかってきたじゃねーか」


「自分達の世界を中心だと思うなってことだね」


「回廊を理解するには、それが一番大切だ。」


「あの世界はあれからどうなるんだろう」


「まだ三日だからな。


ただ、あの戦争してた国は獣王国の属国になったぞ」


「まあ、あれだけやられたらなあ」


「今日はどうしようかなあ。


おねえさんとこでも行く?


まどかさんのことも気になるし」


「あ、そうだった。

おねえさんのところに放り込んだままだった」



「あきさんに会いに来ました」


もう顔パスで勝手に入って良いと言われてるけど、

なんとなく俺達はいつも受付で、

おねえさんに会いに来たことを伝えるようにしていた。


「総帥は急用が出来まして、

しばらく食堂か訓練施設の見学でもしておいて欲しいと伺っています」


おねえさんって総帥って呼ばれてるんだ。


なんかいかついな。


おねえさんの柄じゃない気がする。


「そうする?ゆうなちゃんは食堂の方が良い?」


「なにそれ!私がいつも食べてばっかりみたいな言い方して」


「じゃあ訓練施設で良い?」


「食堂」


一言だけ言うゆうなちゃんに俺は笑った。


「だろうね」


「でも私ははるま君のお姉ちゃんだからね。


可愛い弟の行きたい場所に付き合ってあげるよ。


訓練施設気になるんでしょ?」


俺は命のやりとりが増え始めた現状に少し焦っていた。


強くならないといけない…


ゆうなちゃんに頼ったらゆうなちゃんが標的にされる。


俺自身が強くならないといけないんだ。


「そうだね。


ちょっと気になるかな」


「じゃ行こう」


そう言いながらゆうなちゃんは走り出し、エレベーターのボタンを押した。



訓練施設に入ると、受付の女性がにこやかに迎えてくれた。


「ゆうなちゃんとはるま君ね。


総帥に聞いてるわ。


自慢の訓練施設を見せられるなんて光栄!」


そう言いながら、俺の手を握ってきた。


なんか距離が近い人だな。


ちょっと苦手かもしれない。


「何が見たい?


魔法の威力等を測る計測ルームや、

格闘訓練をする闘技場とか、

他にもいろいろあるのよ」


そう言って、訓練場の資料を見せてくれた。


「この的当てやってみたい!」


ゆうなちゃんが指さしたのは、

的に魔法を当てて威力を測る施設のようだった。


「じゃあ、こっちに来て。」


女性について部屋に入ると、先客が魔法を放っていた所だった。


「ファイアボール」


野球ボールサイズの炎が、的に当たった。


電光掲示板に四十という数字が出た。


「プロボクサーのパンチより強いぐらいでしょうか」


「面白~い!はるま君!やってみてよ!」


前の人が立っていた場所に見よう見まねで立ってみた。


今の自分の立ち位置が知りたい。


右腕を上に左腕を下に構えて、俺は魔力を集中した。


そのまま上下の腕を円を描くように半周させる。


俺の前に火の輪が出来上がり、その中の空間が揺らいだ。


「ヘルフレイム!」


輪から炎の柱が飛び出しそのまま的をぶち抜いた。


「すっごい!五千だって!」


あの女性は、こんなもの出すほど待っちゃくれない。


待ってくれたとしても、たぶんこれでも届かない。


「車に轢かれたぐらいの衝撃ですね。


すごい、人に出せる威力だとは思えない」


称賛されればされるほど、俺の心をむなしく蝕む。


「私もやろ~っと!」


ゆうなちゃんも初級の魔法は一通り使える。


俺は戦力として見てないが、一般人に比べたらそれなりだろう。


「見ててよ!」


ゆうなちゃんは右手を前に出し、人差し指を的に向けた。


こんな魔法習ってたか?


「ドン!」


そう言った瞬間、的にピンホールのような小さな穴が開いた。


「じゅ、十二万?なんですか!それは!」


俺は今見たものを信じられない。


「ゆ、ゆうなちゃん!何したの?」


「むかし、アリシアさんが見せてくれたの。


今の私なら同じようなこと出来るかなって。


それにしても、弟を軽く超えるお姉ちゃんでごめんね~」


ゆうなちゃんは、そう言って無邪気に笑う。


「なんだんだよそれ…」


魔王にだってアリシアさんにだって届くわけないと思ってた。


でも、ゆうなちゃんにすら俺は全然届かない。


この差は何だ。


戦うのは自分の役目だと思っていた自分の浅はかさに恥ずかしくすらあった。


「だいたいなんだよ。ドンって!


ファイアボールとかヘルフレイムとか、

イキって言ってるのが恥ずかしくなるじゃないか」


そう言いながら、俺はまずったと思って前の人を見る。


うんうんとうなずいてくれてるのを見て安心した。


「え~だって、どういう魔法かわからないんだもん」


「わかんない魔法使うなよ…」


俺は新しく出てきた的に向かって走り出した。


拳に目いっぱいの魔力を込めて全力で殴る。


「四万!はるま君は魔法より殴る方が凄いのね!」


「きっとそうじゃない。


強い魔法とか弱い魔法とかじゃない。


効率的に威力を出すために何が一番かを考えるべきなんだ」


「なるほど、とてもいい情報をありがとうございます」


「イフリート、殴ってみて」


イフリートが的に向かって全身を飛ばして、全力で拳を叩きこんだ。


「11万か…ゆうなちゃんのドンなんなんだよ」


ゆうなちゃんが戦う方が、あの女性にも勝てる可能性がある?


ゆうなちゃんを守れるだけ強くならないといけないと思ってたのに、

実際はゆうなちゃんより強くなることが先だなんて…


いやだめだ。俺は今すぐ強くならないと…



―― 第五章 完 ――


はるまがぶち当たる強さの壁。


はるまが追い求める強さの果てに何があるのか。


父を追いかけないと決めた姉弟。

二人は何を見て、どこへ向かうのか。

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