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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第五章 渇愛

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第112話 ゆうなとそれぞれの選択

「計算なんてやりたくねーよ!


つまんねーもん!」


「わたくし無理ですわ。


あの子達に苦手なことさせるなんて、どうやったら良いのか」


授業開始して二日目ですぐにそんなやりとりが発生した。


「やりたいことだけやるではダメですの?」


「それじゃ仕事に必要なスキルが手に入らないかも」


「やってみて適性があれば楽しくなるかも」


はるま君はもう五日も起きてない。


はるま君がこのまま起きなかったらと思うと、

教育のことに集中出来なくなっていた。


「とはいえ、私が言い出したんだ。


問題を解決して前に進まないと…」


やる気にさせる方法…


私の成績が少し上がりだした時期…パパが眠った年、小学五年生の時だった。


勉強が嫌いな私は、通知表の「がんばろう」が増えてママに怒られだしてた。


パパは成績にはあまり関心が無かったから、

別に良いじゃないかと言っていたが私は成績が落ちるの嫌だったんだ。


頑張りだしたあの時は、

100点取ったらパパに遊びに連れてもらうとかご褒美もらったっけ。


ご褒美か…


そうだ、ここは物欲の世界、欲しい物のために頑張る世界だ。


でもお金を使うわけにいかないし…


あのころ何が嬉しかった?


五年生の時の担任の田中先生が特に出来た答案に、

タナカマンってキャラの絵を描いてくれたんだ。


あれ嬉しかったっけ。


タナカマンもらったよってパパに見せてた記憶が蘇る。


「そうだ、タナカマンシールだ」


「タナカ…何?なにーるですって?」


「成績が良かった人にシールをあげるの」


「シール?それをあげれば頑張りますの?」


「だってここは、欲しい物の為に頑張る世界でしょ?それこそ子供を売るほどに」


「なるほど、成績でしか手に入らないシールなら、頑張るかもしれませんわね」


それから私達は手作りのシールを作った。


絵を描いた紙に糊を付けただけの子供の手作りシールだが、

100点を取るたびにノートに貼ってあげることにした。


「やったね~!タナカマンシールだ!」


「いいや~俺も次は頑張るぞ~!」


「効果覿面だったね!」


「さすがゆうな様の案ですわね」


「みんなの授業が良いからだよ!」


「ゆうな様!」


ウサギの侍女さんに呼び止められた。


「宰相閣下とヘレン様達がお戻りになるようです」


「ほんとに!良かった!子供達の教育のことも話したかったんだ」


「竜で戻られるので、竜厩舎に参りましょう」


私達はドラゴンポートと呼ばれる場所の近くで上を見上げて待った。


「あ!あれかな?」


ドラゴンがものすごいスピードで飛んできた。


近付くと思ったよりでかい、どんどん大きくなる。


「でっか!」


このドラゴンだけで、世界が滅ぼせそうな迫力だった。


ドラゴンが着陸して四人が下りてきた。


「宰相閣下!ですから私は言いましたわよね?」


怒るヘレンをアダムがなだめた。


「ヘレンさん、今さらそれを言ったところで」


イブも何やら擁護している。


「あの場合は宰相閣下のご判断に間違いは無かったと思いますよ」


宰相さんが呆れている。


「ああもう君達は邪魔くさいな」


「邪魔くさいとはなんですの!わたくしはみんなのためを思って」


「おかえり!」


「ゆうなさん!ただいまですわ」


「何かあったの?」


「宰相閣下が喧嘩をお売りになって戦争になりますのよ」


「戦争!?」


「そんな大層なことにはならないよ」


「なんでそんな気楽なんですの?」


ヘレンがすごくずけずけ言うようになっている。


「一週間ですごく仲良くなったんだね」


「まずは風呂に入りたい」


全然気にしてない感じで言う宰相さんにウサギの侍女さんが答えた。


「承知致しました。すぐにご準備致します」


そう言うと宰相さんとウサギの侍女さんは城に戻っていった。


「なんか大変そうだね。


私も色々あってヘレンに報告したいことがたくさんあるんだ」



それから私達は、昼食を食べながらここ数日の報告をしあった。


「子供達の教育がうまくいきそうで良かったですわ!


それなら私の計画もうまく出来そうですわね」


「それより戦争ってなんでそんなことになったの?」


「やはり元々獣王国は煙たがられていたようでしてね。


そんな獣王国が奴隷市場をコントロールする話でしょう。


難色を示した国の王が、無理な要求をしてきましたのですわ」


「どんな要求なの?」


「簡単に言えば、奴隷の生殺与奪の権利を寄越せとか、

奴隷の生産した利益を寄越せって話ですわね」


「それは飲めないね。


交渉は出来そうになかったの?」


「なら滅ぼすか」


「え?」


「たった一言、それだけが宰相さんの答えですわ」


「まじか…」


「もっと知的な人だと思っていましたのよ」


「それから、その国王は聞こえてないふりをして譲歩しましたのよ。


利益を少しもらえればいいかなとか、生殺与奪は言い過ぎたとか」


「じゃ交渉は出来そうだね」


「滅ぼした方が速そうだな」


「え?」


「宰相閣下はもう一言そう申されただけですわ」


「えええ…」


「それが初日ですわ。


次の日はもう少し会話が進みましたが、

俺達がやろうとしてることの何が気に食わないとか。


戦争してまで茶々を入れたいのか?と」


「交渉する気は無かった?」


アダムが続けた。


「確かに利益を持っていかれたりするだけでも問題なんですよ。


獣王国が奴隷ビジネスの黒幕になるだけなので、

それは避けたかった宰相閣下のお話も理解は出来ます」


それを聞いていたイブが補足した。


「というより、

獣王国が救った奴隷の子が頑張った成果を、

奪おうとする人の王を許せないんだと思う。」


「ああ、それは私もわかるかな。


なんか許せないよね。


それで戦争になるの?」


「おそらくそうですわ。


獣王軍は他国では戦わない。


迎え撃つ専守防衛しかしないと申されて、こちらに戻りました。」



それから城内は戦争ムードで慌ただしくなり、

安全のため私達は客室での待機を命じられた。


夜になり私ははるま君にドリンクを飲ませて、

侍女さんが持ってきてくれた夕食を食べた。


「窮屈な思いをさせて申し訳ありません」


「いつ責められるかわからないもんね。


大丈夫だよ。


戦争の準備大変なんじゃない?」


「戦争と申しましても、

獣王軍が行うのは獣王陛下と宰相閣下の出陣まで時間を稼ぐこと」


「二人だけで戦うってこと?」


「決着はそうなることでしょう。


下手に軍が戦うと被害が出る可能性がありますから」


「二人なら被害が出ないってこと?


とんでもなく強いんだね」


「そうですね。全軍よりお二人の方がお強いかと」


「やっぱりすごい人なんだね」


「はるま君…起きないのかな」


ウサギの侍女さんが食事を下げてから、

私はベッドに寝転がりはるま君の横顔を眺めた。


「パパみたいなことにならないよね?」


鼻をつまんでみた。


「疲れてるだけだよね?」


瞼を広げて見る。


そんなことを繰り返しながら、私は涙で枕を濡らしながら眠った。



翌朝、大きな爆発音で私は飛び起きた。


部屋のドアを勢いよく開けて飛び出す。


城から出ると、すぐそばまで大砲が飛んできている。


専守防衛しかしないという言葉通り、城のギリギリまで敵の侵攻を許している。


飛んでくる大砲でも傷付かない頑丈な城と、

二人の化け物の存在がそれを可能にしてるんだろう。


「あ、はるま君が息してるのか確認してなかった」


なんだか胸騒ぎがして、私は城の中に戻った。


前から走って来るはるま君を見つけて、私の心は歓喜の叫びを上げた。


「はるま君!やっと起きたのね!」


はるま君が起きた!


飛び上がるほど嬉しかったんだ。


「まだ朝でしょ?何かあったの?」


ハグしようかと思ったが、気の抜けたはるま君の言葉にそんな気も失せた。


「はるま君一週間ぐらい寝てたんだよ?」


「まじで?そんなに寝てたのか。だからこんなに身体が怠いんだな」


本当に毎度毎度なんだこの弟は、人の心配も知らないで。


それから私達は走り、再び城から出た。


大乱戦が始まっていた。


二人の怪物が出るまでの時間稼ぎ、

犠牲者を出さないことだけが軍の使命だった。


「全軍退却~!」


ついに出るんだ。


二人の戦いをついに見れる。


「ぐおおおおお!」


獣王の雄叫びが開始の合図となり、

そこからは二人がひたすら敵を倒す一方的な戦いだった。


途中宰相さんが獣王さんを怒ってコントみたいになったけど、

二人にとってはこれは死闘ではない…いや戦争ですらないんだ。


宰相さんが作り出した黒い球が、敵も大地もまとめて飲み込んでいく。


あっけない戦いだった。

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