第111話 ゆうなとそれぞれの出来ること
「はるま君、死んでる?」
心音が聞こえない気がして私は慌てた。
「息は?」
かすかにしてる気もする。
もう一度胸に耳を当てると、小さいけど、動いてる…よね?
「イフリートさんこれ生きてるよね?」
「寝ているだけであろうな」
「焦った…でもこんな心臓の音小さくて良いのかな?
普通がわかんないから、わかんないや」
「それにしても、昨日一日起きなかったのに今日も起きない。
このまま起きないなんてことは…
パパみたいなことは、心臓が動いてるから今は大丈夫かな」
ウサギの侍女さんが入ってきた。
「宰相閣下がご心配されて飲み物を持っていくようにと仰せつかりました。
はちみつやミルクなどの栄養のあるものから作った物でございます。」
「ありがとう」
ストローを口に入れると、予想外にごくごく飲みだした。
「ああ、飲むんだ。
これなら安心ね」
「良かったです。宰相閣下にもご報告しておきますね。
他に必要な物はありますでしょうか?」
「すごい汗かいてるから着替えさせて上げられたらうれしいんだけど」
「承知しました。後程お着換えをお持ち致します」
「何から何までありがとう」
「いえ、宰相閣下のご家族のような物と伺っておりますので、
当たり前のことでございます」
やっぱりわかってたんだ、パパの同魂存在だった!
「宰相さんはいる?」
「今後のことで他国の王と会うと出かけられました」
帰ってくるまで何も聞けないか。
いや、話したくないから、わざとこのタイミングで出掛けたのかも。
邪神さんが私達に余計なこと言って大変な目にあったのを知っている。
宰相さんが言いたくないことは、無理に聞くのは辞めておこう。
「ヘレンやアダムとイブは?」
「宰相閣下に同行されました」
なんだか、一人置いていかれてる感じが強くなる。
ヘレンはともかくアダムとイブも、私の考えの及ばないことを始めてる。
私は…私にしか出来ないことってあるんだろうか?
はるま君もいないし心細いな。
「姫様が本日もまた茶会はどうかとおっしゃっていました。
もしよろしければ準備いたします」
正直毎日お菓子食べてお茶飲んでの生活は楽しい。
人生のほとんどの悩みはお菓子で解決する。
「わかった。いくよ。
でもそれまでどうしてようかなあ。
孤児の子達の所にでも行くよ」
「承知しました。
時間になりましたらお迎えに上がりますね」
「ゆうなだ~!ゆうな~聖女の力見せてみろ~」
私は完全になめられていた。
なんでだろう。
初めて会った日に何か失敗したかな。
「くら~!聖女様と呼べ~!」
もちろん聖女様と呼んで欲しいなんて思ってない。
「そうだ!ゆうな絵の描き方教えろ!」
「お!絵なら良いよ!今日はみんなでお絵かきしようか」
この施設は今も問題を多く抱えている、
教育もしていると言っていたが、物を教える教師が足りない。
仕事はごく簡単な作業だけに限られるので何かを覚える機会も少ない。
「絵なら私にも教えて上げられるんだけどなあ」
「ゆうなは絵を描くのうまいもんな!」
教えてさえあげれば、この子達は勉強も出来るし、出来ることももっと増える。
何かいい方法は無い物か。
「凄い!ちょっと教えただけで上手になったじゃない!」
この子達ほんとに優秀で呑み込みが早い。
「お昼ですよ~!ゆうな様も食べていって下さい」
「ゆうなずりーぞ!勝手に大盛りにすんな~」
「このリンゴももら~いっ!」
「お代わりいくらでもあるから取り合わないの!」
「ご飯食べたら外で鬼ごっこしよ~!」
「ゆうなが鬼な~!鬼みたいだし」
「だ~れが鬼だ!食っちまうぞ!」
「きゃー食われる~!」
本当に良い子達ばっかりだ。
この中にだって罪を犯した子達はいる。
生きる環境によって人は変わる。
私はここにいるだけで人として大切なことを学んでいる気がした。
「ゆうな様、お茶会の時間でございます。」
「え~ゆうなもっと遊ぼう~!」
「お姫様と約束してるの。また遊ぼうね」
「お姫様に失礼すんなよ~!
またな~」
「ゆうな様は人気者ですね」
「遊ばれてるだけだよ」
「子供は自分の味方に敏感ですからね」
「ゆうな様ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「今日は行商の方から特別に頂いたお菓子がありますの。
今日はゆうな様とお茶会だとお話したら下さったのよ」
「会ったことも無い行商の方が私に?」
「いつかお会いしたいとおっしゃっていましたわ」
「そうなんだ!会うぐらいならいつでもいいよ」
「伝えておくわ、喜ばれることでしょう。」
「とても美味しくってよ」
「これ!すっごいおいしい!」
それを聞いた妹姫が笑いながら言う。
「ええ!すっごいおいしい!ですわね」
「あ!そうだ。
みんなに聞きたかったんだけど、お嬢様教育ってどういうことするの?」
「礼儀作法やダンス、お花を生けたり楽器の演奏もありますわね」
「お勉強は?」
「もちろんありますわよ。
貴族の物として国営に携わることもありますし、家業もありますから読み書きから帳簿の知識に至るまで」
お茶会する時間はあるんだ。
少しずつでもみんなに協力してもらえればもしかして…
「みんなに、孤児の子達の教育を手伝ってもらうのはどうかと思うんだけど」
「まあ、私達が先生ですか?」
「教えるレベルかと言われますと、どうなのでしょうか」
「みんなのレベルにならなくても良いんじゃないかな。
最低限の読み書きが出来るだけでも仕事は増えるし、
お会計出来るぐらいの計算が出来ればそういう仕事もある。
それに最低限の教育を受けたら、そこから専門的に学ぶかを選ぶことも出来るよね」
「なるほど、適性を見極めるだけでも教える価値はありますわね」
「そうそう、そういうことが言いたかったの!
流石お姫様は賢いね!」
「ゆうな様ほめ過ぎですわ。
みなさまいかがでしょうか。
お茶会の時間をお試し学校体験会にするだけでも、
価値はあるかもしれませんわ」
「そうですわね。
正直お茶会も楽しいですが毎日じゃなくても良いですしね」
「わたくしは計算が得意ですのでお教え出来るかもしれませんわ」
「わたくしは演奏なら、演奏でお仕事にはなりませんわよね」
「仕事になるかならないかで考えなくても良いよ。
いろんなことを知れば、選べる選択肢が増えるでしょ?」
「遊び感覚でも試してみる価値はあるということですね」
「でしたらわたくしはお花のお手入れを教えて差し上げたいわ」
「わたくしは手紙の文章を褒められることが多いのでそれを教えてあげようかしら」
各々が自分の得意分野等を話し合いどんな授業を分担するか、
お互いの授業をどう補助するかまで話し合いは盛り上がった。
行動力というのか、暇なお嬢様パワーは凄いな。
「では、明日はどういうことを学びたいかを聞いたりしてみましょう」
「そうですわね。楽しくなりそうですわ」
「皆様が仕事出来るようになれば、国の為にもなりますよね」
「そうですわ。お父様にも褒めて頂けるかしら」
やっぱりみんなお父さんから褒めてもらうの嬉しいんだ。
私もそうだな…
パパ…今の私のやってること見て、褒めてくれるかな。
その日の夕食の時に、姫様から獣王さんに報告した。
「ぐわっはっは!それは良い!
是非ともやってみなさい。」
その一言だけだった。
私はこの気持ちの良いぐらい豪快で思い切りの良い性格が大好きだ。
「獣王さんって良い人だよね。私大好きだよ!」
「まあ、ゆうな様ったら」
「わっはっは!そうだろうそうだろう!
にもかかわらず宰相のやつはいつも、こんな吾輩を悪者扱いしおる」
「卑劣じゃなくて悪人なら、
宰相さんのそれはきっと最高の誉め言葉だよ」
「そうなのか?悪は悪い奴のことであろう?」
「宰相さんの言う悪い人って、
きっと誰かのために悪に落ちることが出来る信念を持った人のこと。
たぶんだけど、卑劣な悪党とは違う種類の人のことだから…
きっと宰相さんは、
子供を捨てた人のことも、子供を攫う人のことも悪とは言わないはず」
「なぜそなたらにそれがわかる?」
「似た人を知ってるから…」
「そうか…最高の褒め言葉…そうなのか」
獣王さんはとても嬉しそうにそう言い続けた。
宰相さんに褒められて喜ぶ獣王さんの姿が、かわいらしく思えた。




