第110話 ゆうなと変化
「それでそれでね!はるま君強くなったんだよ!
いつも私を守ってくれるの、パパにも見せたかったわ」
さっき起こったことにまだ身体が震える。
とんでもない恐怖だった。
それを全力ではるま君が守ってくれた。
私は自分の興奮を抑えるように、パパに全てを話した。
夕食の時間になっても、はるま君はまだ寝ていた。
久しぶりにママと二人で食事した。
「パパみたいな人に会ったんだけどね、
もしそうなら私達に気が付いてるはずなんだけど、
何も言ってこないんだよ」
「パパの同魂存在だったとしても、ゆうなちゃん達の味方には限らないのよね?」
「そう言えばそうだね。
パパを封印したいと思ってたぐらいの人達だし、パパのこと嫌いなのかも。
あ、でも邪神さんは私達のこと、
自分の子供だろって言ってたからその感覚はあるかも」
「やっぱり同魂存在っていうのは、自分自身って感じはあるのかもしれないわね」
「どうなんだろうね。同じ力を持ってるからわからなくはないけど…」
「この世界に奴隷制度があって、
パパが奴隷制度を廃止したかったらどうすると思う?」
「奴隷商人皆殺しにするんじゃない?」
「え?やっぱりそういう感じなの?」
「そりゃそうでしょ。
それしか奴隷解放するなんて無理じゃない?
だってみんな高いお金出して買ったんでしょ?
なら手放さないでしょ」
「やっぱりそうだよね…」
「ママには絶対出来ないけどね」
「皆殺し?」
「もちろん。
ゆうなちゃんとはるま君もそういう危ないことはしちゃ駄目よ?」
「うん…そうだね…私にはどうだろ?やっぱり出来ないかな」
「はるま君起きないわね」
「こんなに寝続けられるなんてすごいね」
「パパも用事が無いと凄く寝る人だったのよ。
48時間ぐらい寝続けたことだってあったもの」
「そうなんだ?
夜中まで仕事してるイメージあったから、
あんまり寝ないと思ってた。」
私がそう言うとママは笑い出した。
「たしかにね、いつ寝てるのかわからないところあったわね」
「今日はゆうなちゃんも早めに寝なさいね。
朝から大変だったんだから、明日疲れるわよ」
「は~い」
それから趣味の絵を書いたり宿題したりしたが、
寝る時間になっても、はるま君は起きなかった。
次の日、目を覚ましても獣王国の客間だった。
はるま君は相変わらず死んだように寝続けていた。
私は本当に死んでるんじゃないかと思い、何度か心臓が動いていることを確認した。
その日の昼食は、ヘレン達三人が考えた捕らえられた子供達の処遇案を発表する会になった。
「基本方針は今のままで良いですが、発想を変えたく思いますわ。
罰を与えるのではなく、健全に働きながら教育を受けさせたいのです」
「具体的にはどうするのかな?」
「ボロの服ではなく作業服、
食事は質素でもかまいませんが、育ち盛りの子供に必要な量の食事は与えて欲しいです」
「罪を免除して待遇を良くしろということかな?」
「罰を与えられるのではなく、次に罪を犯さないように教育するんです」
「それにどんなメリットが?」
「将来の労働力を健全に育成する。
それ自体がメリットになりませんか?」
「どうだろうね。裏切られる可能性もあるし、
途方もない年月をかける価値があるのかどうか…」
「犯罪組織に居た子達は恐怖や知識不足で犯罪に手を染めています。
獣王陛下や宰相閣下の強さは、そんな彼らの求心力になり得るとも考えました」
「私達の存在が、彼らにとって行動を縛る恐怖になると?」
「その通りです。それを良い方向に使いましょう」
「ふむ、抜本的なアイデアというわけでもないが、及第点だろう」
「話を続けてもよろしくって?」
「おや、まだ何か?」
「先ほど言った保護施設を、公表します」
「公表?今まで隠してきた獣王国の実情を?」
「いっそ全てを公にしましょう。
そして、親を失った子や行き場のない子を積極的に受け入れるんです。
罪を犯す前に、子供を受け入れ仕事を与え教育を受けられる施設として」
「獣王国が人攫いや子売りの受け皿になってしまわないだろうか?」
「その危険性はあります。
ですが、子を売るような親から子を助けると割り切るんです」
「なるほどな。売るような親が子を不幸にする前に積極的に売らせるか」
「そして、人攫いに加担したら獣王国が徹底的に叩くと喧伝しましょう」
「奴隷商人すらも全てコントロール下に置くか」
「そうです。もっと積極的に市場に参加することで、
獣王国と敵対しない範囲での商売へと方向転換させる」
「なるほどな。
まだまだ穴だらけではあるが、私の想像以上の視野で考えたのは流石だ。
合格としよう」
「ありがとうございます!」
全然ついて行けない…
ヘレンが全然違う人に見える。
アダムとイブも、こんなことを考えるまでになったなんて…
人はこうやって変わって行くんだな。
「この後三人で宰相執務室に来なさい。詳細を練ろう」
私はちょっとばかりお邪魔な気がして、
どうしようかと思っていると姉姫がお茶会に誘ってきた。
「この後わたくしたち姉妹は、貴族のお嬢様方とお茶会なのです。
はるま様も起きておられないようですし、
ゆうなさまもご一緒にいかがですか?」
「わかった。一緒させてもらうよ。」
「おほほほほほ」
頬が痛くなってきた。
なんだこの笑い方。
なんとなくみんなに合わせてるけど、
絶対みんな無理してると思う。
すると、姉姫が笑いながら私に向かって言った。
「ゆうな様、無理をなさらないでよろしいのですよ?」
「そ、そう?
物語のお嬢様に憧れててね。
みんなを見てると、あこがれの世界に入った気分でちょっとやってみたんだ。
でも、私には無理みたい」
そう言って笑う私に合わせてみんな笑い出した。
「きょっきょっきょきょ!」
一人の御令嬢が笑い出したが、流石にその笑い方はと思ったのを飲み込んだ。
「私の笑い方、変でしょ?」
「え?いや、えっと、うん。なんか違和感はあるね…」
「獣人と一言で言われますが、様々な種族が混ざっているんです」
「そうなんだ!
見た目がちょっと違うとかじゃなくて、違う種族ってことなんだね?」
「そうなんです。そうすると食べる物や話し方、様々な文化が違いますでしょ?」
「それを埋めるために、
獣人文化として共通認識を持っているのですが、
それがなかなか難しいのですよ」
「あ、だからおほほほって笑い方してるとかなの?」
「さようです。だからみんながそれぞれ少しずつ無理をしているのですよ」
「そんな無理しないといけないことなの?
きょっきょっきょって笑っても、最初は驚くかもしれないけどそれも個性でしょ?」
その令嬢は驚いたような顔で答えた。
「宰相様と同じことをおっしゃいますのね」
「昔はもっと厳しくてね。
強い獣王国を作るために、全員が同じ言語同じ文化を徹底されていたのです。
それが今の宰相様になってから、緩和されました。
そんな無駄なことに無理をするぐらいなら、真に獣王国のために無理をしろと」
「パパなら言いそう。
ママなら普通はそうなんだから合わせたらって言いそうだけど」
「パパ?ママ?」
「あ、いや。
私のパパもそういう考え方だったなってだけよ」
「そうなのですね。
だから私達も普段は普通にしているのですが、
やはりお客様の前では、少し気を張って正式なお作法に則るようにしています」
「やっぱり令嬢教育みたいなのがあるの?」
「そうですわね。厳しいですわよ」
「ヘレンもそう言ってたけど、私はお嬢様にはなれそうにないわ」
「あら?ゆうな様はどこかのお姫様だとお聞きしましたわよ?」
「誰がそんなことを?」
「宰相様ですが…間違いでしたか?」
パパがいつも言ってた。
ゆうなちゃんはパパのプリンセスだよって…
「うん、そうかも。
あ、宰相さんって凄い強いよね。
ライオンの獣王さんが強いのは想像してたけど、
宰相さんがあんなに強いとは思わなかった」
「お父様は我が種族でも特別な力に覚醒された方ですが、
宰相閣下の種族は、本来あのような強さは持っていません」
「なら宰相さんだけ特別なの?」
「宰相閣下は、
神話の領域にあった暗黒術の封印を解かれたと言われています。
あの方の使われる魔法は文献にも存在しない物なのです」
「ますますパパっぽいな…」
「ゆうな様のお父様もそのような術を?」
「なんかね。
あちこちで伝説的な力を解放したとか理を超えたとか言われるのよ。
謎だらけで困ったパパなの」
「それはすごい方のようですね。
わたくしも獣王の娘なのだからと、
過度なハードルに疲れたり致しましたが…
ゆうな様も大変なのでしょうね」
パパがとんでもない強さの魔王だとかばれたら、
私もそういうこと言われるのかな。
いや、そんなことはないだろう。
「うちは大丈夫だと思う。
みんなパパがおかしい人だと思ってるから」
パパはむしろいかれてるやつ枠みたいな物よね。
いや、パパはパパ枠かな。




