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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第五章 渇愛

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第109話 はるまと怪物たち

隠者を付け狙うあの女性が、まるで隕石のように落ちてきた。


俺とゆうなちゃんは、とっさに飛び退いた。


地面が抉れ、周囲が隆起する。


土埃の中から女性が飛び出してきた。


前回は真正面からガードして全身を砕かれた。


その記憶が脳裏をよぎり、身体が硬直してしまう。


反応が遅れ死を直感したその時、

イフリートが女性の横っ腹を殴り、女性が吹っ飛ばされる。


彼女の攻撃を一撃でも受けた瞬間に確実に終わる。


彼女は吹っ飛ばされても、ピンポン玉のようにすぐに飛びかかって来る。


必死に避けるが、

避けても避けても反射するように正確に追いかけてくる。


イフリートとベヒーモスが横から攻撃を仕掛けるおかげで生きているが、

俺の回避はどう考えても間に合ってない。


「ゆうなちゃん!魔力を…」


「前と同じだね!わかった!」


ゆうなちゃんが集中しだした瞬間、彼女の標的がゆうなちゃんに変わった。


俺は馬鹿だ。

自分を無力化すると知ってて、彼女がゆうなちゃんを放っておくわけがなかった。


ゆうなちゃんには避けられないから、

イフリートとベヒーモスでも捌ききれない。


無防備なゆうなちゃんに彼女が殴りかかる。


俺はとっさに突っ込んだが、俺の攻撃じゃ彼女の力を弱めることすら出来ない。


ゆうなちゃんの死を想像した瞬間、俺の魔力が爆発する。


俺のこぶしは彼女の顔面を捕らえ、彼女は吹っ飛んだ。


「なんだ?今の感覚?」


考える間もなく何度でも突っ込んでくる彼女を再度避け続けた。


一瞬一瞬を全力で避け続けて、足の疲労が限界を訴え始める。


前回ゆうなちゃんが魔力を封じたら彼女は弱くなった。


もしかして、魔力を身体にまとって強くなってる?


さっき彼女を吹っ飛ばせたのはそれか?


避けながらも、俺は魔力を拳にまとわせてみた。


真正面から突っ込んでくる彼女を、ギリギリで避けながら再び顔面にこぶしを打ち込む。


彼女は打たれたボールのように吹っ飛んだ。


これだ。これが強さの秘密なんだ。


倒せないかもしれないが、一方的に殺される状況じゃなくなった。


これだけでも希望が持てる。


そう思った瞬間、今までと比べ物にならないぐらいのスピードで彼女が飛びかかってきた。


避けられない。

そう思った瞬間、彼女の動きが不自然に止まった。


力が抜けるように膝をつき、次の瞬間には倒れていた。


「なんだ?どうした?」


不思議に思いながらも、彼女をよく見て驚いた。


「まどかさん!?」


まどかさんにアリシアさんが入って…アリシアさんがあの彼女だったから…


まどかさんにあの彼女が?


「なんか混乱してきたな…」


「いろんな世界の同魂存在がまどかさんに入るってこと?


ちょっと待て…それって…」


「はるま君!大丈夫?」


「まどかさん?まどかさんが襲ってきてたの?」


「いや違うんだけど…」


そう言いかけた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。


「大丈夫?」


「無理…立てそうにない。


ちょっとそっとしといて」


「そんなことより、パジャマがどろどろなっちゃって、ママに怒られるね」


「そんなことよりって…


ああ、でも確かに怒られるのは嫌だなあ…」



「朝ご飯呼びに行ったら居ないし心配するでしょう!


パジャマもどろどろで!


とりあえずそのままお風呂入りなさい!」


やっぱり母さんには怒られた。


結局まどかさんはあれから起きずにお姉さんに預けてきた。


「ああ~疲れた~」


湯船に浸かりながら考えた。


「アリシアさんならともかく、

あの女の人や他にもやばい同魂存在がいるかもしれない。


そもそも、アリシアさん以外には俺達会ってるんだろうか…」


「はるま君~私も入るんだから早く上がって~」


「わかったよ~もう上がる~」



風呂から上がった俺は再び布団に横になった。


まだ足が震える。


恐怖からか疲れからかももうわからない。


いつの間にか眠っていた…



身体が重い…


起き上がるだけで悲鳴を上げそうだ。


「まどかさんって言ってね。すんごい綺麗な人なんだよ!


それでそれでね!はるま君強くなったんだよ!


いつも私を守ってくれるの、パパにも見せたかったわ」


父さんの部屋からゆうなちゃんの声が聞こえる。


ゆうなちゃんはなんであんなに元気なんだ。


その声を聞きながら俺は、再び眠りについた。



起きると、再び獣王国の客室だった。


かすかに音が聞こえる…


隣を見ると、一緒に寝たはずのゆうなちゃんがいない…


俺は怠い身体を起こし、ベッドから降り部屋から出ようとした。


ドアを開けた途端に、激しい銃撃が聞こえてきた。


「なんだ?銃撃戦?」


俺は銃撃が聞こえる方向に走った。


「はるま君!やっと起きたのね!」


「まだ朝でしょ?何かあったの?」


「はるま君一週間ぐらい寝てたんだよ?」


「まじで?そんなに寝てたのか。だからこんなに身体が怠いんだな」


外に出ると数万人はいる大群の大乱戦だった。


「うわ!危ない!」


頬を弾丸がかすめた。


「全軍退却~!」


「獣王軍が引いていく、劣勢なのか?


獣人が人に勝てないとも思えないけど…」


引いていく獣人の中に二人の人影が逆行して前に進んでいる。


「獣王と宰相だ!」


「ぐおおおおお!」


けたたましい獣王の咆哮が大地を揺るがした。


宰相が腕を振るうと、津波のように大地が抉れ、数十人が空へ放り上げられた。


獣王が叫ぶたびに、前方の兵士が吹き飛ばされる。


「獣王と宰相だけで勝てそうじゃないか…


二人の出撃準備をするためだけの獣王軍に見えるな」


その時、大型の大砲が放たれた。


宰相が大砲に向かって走り飛び乗った。


同時に、獣王が両腕で大砲を受け止め大砲を跳ね返す。


大軍の真ん中に降り立った宰相を中心に、爆発が起こったように見えた。


あの女性と比べても、比べ物にならない速さで縦横無尽に敵を蹴散らしていく。


獣王が両手を広げて天を仰ぎ見る。


指先からバチバチと電気が飛び全身を雷が包んでいく。


黒い雲が空を覆い荒れ狂う。


空気が震え、あれが近付いてはいけない物だと本能が教えてくれる。


それを見た宰相は、その場を飛び退き大軍を突っ切って離脱した。


宰相が離れきる前に、その場に数々の大きな雷が落ちる。


ギリギリで難を逃れた宰相はそのまま獣王の前に戻り、獣王を殴った。


たぶん、獣王を怒ってる。


たぶん、獣王が正座して謝ってる。


なんだこれ、コントみたいになってきた。


雷を落とされ大部分を壊滅された敵兵だったが、諦めず戦いを挑むようだ。


正座した獣王に怒る宰相の背中から大軍が押し寄せた。


振り返った宰相は、両手を上に掲げた。


天空に光が走り魔法陣が描かれていく。


魔法陣が完成した瞬間、それは大きく光った。

光が消えると、そこには大きな真っ黒な空間があった。


黒い玉じゃない、空間、それは元々何かがあった空間に空いた穴だった。


その大きな玉が地面の敵軍目掛けて落ちる。


文字通り空間が抉れていく、

全てを飲み込むその玉は空間ごと飲み込んで地面に激突した。


そこには何もない。


俺は見たことがある。


トゥルールを飲み込んだ悲劇、あれと同じに思えた。


やっぱりあの宰相は戦いを挑んではいけない相手だ。


想像はしてたけど、あの獣王の隣に馬の人ってだけで勝手に頭脳派だと思ってた。


流石に戦力の九割が消し飛ばされて、敵軍はそのまま退却していった。


宰相に押された獣王が勝鬨を上げ、獣王軍からは大歓声があがった。



その夜は、祝勝会が開かれた。


大量のお酒と料理が振舞われ、多くの人がバカ騒ぎをしていた。


見渡す限り、聞こえてくる話題は獣王と宰相のことばかりだった。


獣王がお酒を飲む宰相に何か言っていた。


「何度も謝ったであろう。もう良いではないか」


「避けられるから良いというわけではないだろうこの馬鹿獣王が!」


「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」


「失敬!獣王陛下は少々頭がお悪いだけでしたなあ!」


「なんなのだ貴様は!」


「宰相です。宰相閣下、ほら言ってみて下さいまし」


宰相さんはお酒を飲んで少しテンションが上がっているように見える。


父さんもお酒を飲んだらなんだか陽気になってたな。


この二人のコンビは、見ていて飽きないし面白いな。

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