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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第五章 渇愛

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第108話 ゆうなと足りない答え

「獣王国は最低の国です!

買った奴隷はそれはむごい扱いを受け生き地獄です」


あちこちに包帯を巻いた生傷だらけの人達が口々にそう言っている。


なんだろう、どういう状況だろう?


「そんなことないでしょう?獣王国は良い国でしょう?」


姉姫の言葉に、そのうちの一人が答える。


「獣王国は情報管理が徹底されていて、良い国だと言わされているだけです」


恐れているのか?声が震える。


「なあに?それじゃ本当は悪い国だって言うの?」


妹姫の言葉に、また違う人間が答える。


「悪く言う者は粛清されるため、良い国だと言わされているだけです」


緊張からだろうか、若干棒読みにも感じる。


その時、突然姉姫がパンと手を叩き言った。


「まあ良いわ!各自もう少し自然に言えるように、

獣王国は最低の国だって自分に刷り込みなさい」


何を言っているんだろう?私は理解が追いつかなかった。


「昨日言ってたのも、あんな感じ?」


「そ、そうだけど…」


私達を見つけた二人の姫がこちらに駆け寄ってきた。


「みなさまいらっしゃったんですね」


「あれは?何をしていたんですか?」


私の疑問に姉姫が答える。


「外の世界に行く行商担当者には教育を施しているのです」


「あれが教育?獣王国は最低の国ですって言うのが?」


「そうですね。獣王国のことを外に広める役目にもなっていまして」


「だからなんで?」


「え?ああ、何故あのような外聞を広めるのかということですか。


そうしないと、金に困れば『獣王国に子供を売れば良い』と思う親が増えるかもしれません。


奴隷売買の仕組みに獣王国が組み込まれることを防ぐためですわ」


「だからって自分の国をそんな悪く言わせるなんて…」


いや、これはパパならやりそうな方法だ。


「わたくし、

この国に来てから自分が浅はかだったと、どんどん気が付かされますわ。」


ヘレンが少し落ち込んでいるように見えた。


「いや、この国ちょっと極端だからね。


その通りしないといけないことないからね」


「わたくしにはこのような強さはありませんわ。


心が折れそうですもの」


普通ならそうだよね…


「ここの考え方、俺は好きだけどな」


「そりゃ、はるま君は好きでしょうよ」


「なんで俺は好きなの?」


「あの宰相さんが、パパみたいだからよ」


「あ!そうか!確かにそんな感じする!」


「でも止めるようなことでもないよね。


これはこれで良いんだと思う。


いやでも…なんか嫌だなあ」


「それと、子供の件がまだわからないね」


そうだ、ボロボロの服を着て質素な食事を与えられていた子供達、

あの子達がなんだったのか知らないと…


「それでは、今日は工場を見に行きましょう」


「工場?」


「この国の工芸品を作っている工場です」



「あ!あの子達だ!」


昨日見たボロを着た子供達だった。


「あの子達は?」


「攫われた子供達の素性を調べていく中で、

何度か犯罪組織を壊滅させたことがあるんです。


この子達は、その組織で盗みを働かされたりしていました。


子供に罪は無いとの考えから、犯罪奴隷にすることはしませんでした。


しかし、罪が無いとも言い切れず、ここで働き罪を償ってもらっています。


一定の期間が過ぎると、他の子達と同じように扱われます」


「刑務所みたいなことかな」


「これも…あんな小さな子を罰する必要があるのか、疑問ですわね」


「でも、無罪放免した所で、生きていけない子供はまた罪を犯すんだろうね…」


「ああ、難しいな。何が正しいのかなんて私達にはわからない」


「でも、子供を捨てたり売ったりする世界より、よほど健全には見えますわ」



それから、この国のあらゆる施設を見て回ったが、

考え続けてもなんの答えもないまま、一週間が過ぎた。


そしてある日の夕食、また獣王や宰相と夕食を共にした。


「答えは出たかね?」


「いえ…考えれば考えるほどわからない。


素晴らしい国だと思う。


でも…何かが足りない…」


「で、あろうな」


最近口数の減っていたヘレンが、突然立ち上がった。


「宰相閣下に弟子入りを希望致しますわ!」


「それは」


宰相さんが口を開くと同時に、アダムとイブも立ち上がった。


「私達もここで仕事をさせて欲しい」


「これはこれは、私も想定外だ」


宰相さんが、少し嬉しそうに困って見せた。


「私の方が先です!


宰相閣下のやり方は素晴らしいと思います。

でも足りない何かを、わたくしなりに見つけたいと思います」


「僕達は、罪を償わないといけない。


ゆうな様とはるま様を襲ったこと、食おうとしたこと」


「それはもう良いって言ってるのに」


アダムが首を横に振り、話を続けた。


「それから、ゆうな様とはるま様が成すべきことのために役立てる力が欲しい!


この国で働き、学ぶことでそれが出来ると考えました」


すごい、元々こういう子達だったのか、この短期間で成長したのか。


堂々として物言い、イブの目も決意に溢れていた。


「それは良いだろう。


まずは捕らえた子供達の処遇について、君達三人でもっと良い方法を考えてくれ。


それを入門試験としよう」


「わかりましたわ!アダムとイブもよろしくね」


ヘレンの意気込みにアダムとイブが首を縦に振った。


それから、私達は三人が宰相さんから情報をもらうのを聞いていた。


その夜、はるま君と話をしたが、奴隷制度や孤児の扱いについて、

心が締め付けられる悲しみと何も出来ない苦しみの中で眠った。



目を覚ますと、見慣れたいつもの寝室だった。


生まれ育った家、売られることも捨てられることもない安心…

パパとママに挟まれて眠った記憶が、私を作ったのだと実感させられる。


「これ…なに?」


いきなり、全身の毛が逆立つような感覚が走る。


「はるま君!これきっとアリシアさんだ!」


横で寝ていたはるま君が飛び起きる。


「なに?なんて?」


「行くよ!」


そう言いながら、私は窓を全開にする。


「何してんの?寒いよ」


寝ぼけてるはるま君を担ぎ上げ、私は窓から飛び降りた。


「うわあああ!」


絶叫するはるま君を無視して私は叫んだ。


「助けて!イフリートさん!」


その瞬間、私達はイフリートさんに拾い上げ空高く舞い上がった。


「己で飛び降り助けても無かろう」


「助けての方が早く来てくれるかなと思って」


「まったく、無茶をしてくれる」


「ほんと無茶だよ!なんなんだよ!俺パジャマままだよ?」


「私もパジャマだよ!アリシアさんの強烈な圧を感じる。


それだけでも、私達が行かないと世界の危機でしょ!」


「わかったよ。俺には何も感じないけど…」


「こんなに強烈なのに?」


「見えもしない相手の圧なんてわかんないよ」


私の感覚がおかしい?


いや、でも間違いなくこれはアリシアさんのそれだと思う。


あれ?でも私、こんな本気のアリシアさんの圧知らない…


なんでアリシアさんだと思うんだろう?


「おそらくあれであろうな」


「神の研究所があった場所?」


「この強烈な存在感、ここまで来れば俺にもわかるよ。


でも、こんな何キロも先から察知したってこと?」


私達は、元々神の研究所の校舎があった部分に舞い降りた。


「誰もいないね。」


「間違いなく、ここに気配があるのに…」


右にも左にも前にも後ろにも、全ての方向からアリシアさんを感じる…


私はぐるりと一周回って周囲を見渡した。


冷汗が止まらない。

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