第106話 ゆうなと獣王国
「離せ!離せって言ってんだろうが~!」
「イフリート~!ゆうなちゃんを守れ!」
「心得た!」
私達は、城の前に降り立つなり捕らえられ、
ゴリラみたいな人や熊みたいな人達の怪力で押さえつけられて、
城の中まで連れてこられた。
「お前はこっちだ!」
はるま君と私達は引き離されて連行されそうになっている。
「危害を加える意図はないと言っているだろう!おとなしくしろ!」
「はるま君!おとなしくしよう!
この人達に戦う意思がないなら戦っちゃ駄目!
押しかけたのは私達なんだから!」
「わかった!お前ら、ゆうなちゃんに何かしたらただじゃおかないからな!」
私達は促されるままに、広い部屋に通された。
沢山のおやつやジュースが並んでいる。
「こちらでお待ちください。
こちらにあるものは自由にお召し上がりください。」
ウサギみたいな顔した人は、そう言いながら部屋を出て扉を閉めた。
「はるま君は大丈夫かな」
「これだけの待遇ですもの、敵意は無いのではなくて?」
「そうだよね…」
「心配は…してるのでしょうが…
あなたよく今それ食べれますわね」
「え?おいしいよ?」
「いや…まあ良いですわ。
私達も頂きましょう。
アダムとイブも食べておきなさい。
食べられない状況になるかもしれないものね」
アダムとイブも食べ始めた。
しばらく待つと扉が開き、ウサギの人が入ってきた。
「手違いがあり、申し訳ありません。
ゆうな様と言うのはどちらでしょうか?」
「私です。」
「では、ゆうな様だけ、こちらへご一緒頂きます。」
「わかりました。三人ともおとなしく待っててね。」
「大丈夫ですわ!アダムとイブは私にお任せあれ。」
「大丈夫、おとなしく、待つ」
私は案内され、玉座のある謁見の間って感じの場所に通された。
「はるま君!」
「ゆうなちゃん!大丈夫だった?」
「こっちは大丈夫だった!お菓子もおいしかったし」
「お菓子?まあいいや」
待っていると一人の馬の人が現れた。
他の人と違って凄く上品そうな豪華な服を着ていた。
少しだけ鼻につく感じがしたけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
暖かそうというか優しそうというか、なんだろうこの感じ。
「すまなかったね。この国の民は人とは違い、少し乱暴な気質があってね」
「人とは違う?あんたたちは人じゃないってことか?」
え?馬の顔とかさっきもゴリラとか熊とかいたし、人じゃないでしょ?
そう思った瞬間、馬の顔の人が本当に楽しそうに笑った。
「これは失敬、君はやはり面白いね。
私達は人に見えているんだね。」
「え?だって言葉が通じてるし、
同じ言葉を話してるんだから、
むしろ外国の人達より俺に近いでしょ」
そうだ。
はるま君はそういう人間だった。
「もう少ししたら獣王陛下が来られる。
しばらく待ってくれ」
「人をこんな所へ無理やり連れてきたのに、なんだか偉そうだな」
馬の人の目付きが少し厳しく変わる。
「偉いんだよ。
この国は獣王国、今から来るのは獣王。
君達は例え他国の王であったとしても、
この国に入れば国王ではなく一人の外国の者だ。
逆に私が君の国に行けば立場は変わる。
それをはき違えると、痛い目を見るよ」
「この人の言う通りだよ。
今偉そうなのは、確実にはるま君の方だよ」
「そっか、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。ちゃんとごめんなさいを言えて偉いね」
「あ…」
はるま君も何かに気が付いたみたいに顔が優しくなった。
「でも、必要以上に敬意を払う必要も無いから気楽にしてくれ。
これから来る国王は、君達の国の王ではない。
君達にとってはただのどこかの王様であり、ただの人だよ」
そう言うと馬の人は少し笑った。
「宰相閣下、獣王陛下のおなりにございます」
馬の人が跪くのに合わせて私達も跪いた。
はるま君も察したのか同じように振舞おうと見てまねている。
「表を上げよ」
こういう時は何回か言われてからだったっけ?
そう思っていると馬の人が立ち上がった。
はるま君も立ち上がった。
「あれ?え?」
ゆうなちゃん、立ってかまわないよ。
私は立ち上がると獣王を見た。
聞いていた通りライオンの顔の人だった。
「この国には何用で来たのだ?」
獣王の問いかけに私は少し迷ったが、
考えてもわからないので正直に行こうと思った。
「孤児や奴隷を救いたいと思っています。
獣王国が奴隷を大量に買っていると聞き、
どういう扱いをされているのか見に来ました」
「ほお、奴隷はゲームの駒にして殺している」
「な!?」
「と言ったらどうする?」
私達は答えられない。
もしそうなら戦うのか?
奴隷解放のために戦争をする覚悟はあるのか?
今ここで宣戦布告する覚悟も…
「どうするのだと聞いているのだ!」
獣王は大きな声と共にけたたましい雄叫びを上げた。
その風圧だけで吹き飛ばされそうだ。
機嫌を損ねてはいけない。
「陛下…」
馬の人が口を挟むと同時に再度雄叫びを上げて威嚇する獣王。
「陛下!」
馬の人が怒りをあらわに怒鳴り声を上げる。
「はい!」
獣王が裏返った声で答える。
「茶番はそのぐらいにしておきましょう。
彼らに敵対するなと言ったはずです」
なんだか獣王と宰相のパワーバランスがおかしい気がする。
なんだ?ライオンが馬を怖がる?
「はい、いや。
わかった。
吾輩に汝等と敵対する意図はない、孤児も奴隷も助けるべき存在だ。
共に孤児や奴隷が生まれない世界を作るためなら協力しあおうぞ」
獣王に裏表は無いように思った。
本当に孤児や奴隷を救いたいと思っている。
馬の人も悪い人には見えないけど、
なんだか底知れない怖さはこちらの方が強かった。
「とにかく、しばらく滞在し今吾輩らが何をしようとしているか、
買った奴隷がどうなっているか見て回るがよかろう。
我が二人の姫を案内役にするゆえ、ゆっくりしていくがよかろう」
「ありがとうございます」
私とはるま君は深々と頭を下げた。
「凄い国ですわ!私の理想がここに詰まっている!」
姉姫に案内されて私達は奴隷が暮らす施設を見て回った。
城の中の一画に各自個室も与えられ、とても良い環境で暮らしているようだった。
仕事が出来る物は仕事も与えられ、小さな子には学校のような時間もあった。
「本当に良い場所だね」
私がそう言うと姉姫はとても嬉しそうに説明してくれた。
「ありがとうございます。
宰相閣下の考えですが、お父様の自慢の国策です」
「やっぱり宰相さんが凄い人なの?」
「そうですね。
あの方が宰相であれば獣王は正直誰でもかまいません」
「それは…お父さん可哀相なんじゃ」
「お父様がそう言っておられますの、だからうちに男児は、跡取りは必要ないと」
「そこまで言わせるほど凄い人なんだね」
「だから、お父様も頭が上がりませんのよ」
「だからか、なんだか立場が逆転して見えたから」
「普通の国ではおかしなことなのでしょうね。
でも獣王国は実力主義の世界、それが通るのです」
「だからこんな良い国になるのかな」
「俺は、ちょっとだけ宰相さんが強すぎるのが怖いな。
裏表は無いんだろうけど…あの人にはなんだか底知れぬ不気味な感じがする」
私は笑ってしまった。
「なんで笑うのさ」
「いやそれ裏表あるって言ってるようなもんでしょ」
「いや、そんなこと……いやそうだね。
でもなんて言うか、なんか気になるって言うか」
「まあその気持ちはわかるよ。何かありそうな人ではあるよね」
「奴隷を買うペースとか選び方に決まりはあるの?」
「特に決まってはいませんね。
ただ犯罪奴隷は買いませんし、優先されるのは攫われた疑いがある子だと思います。」
「攫われた子もここに?」
「一時的にはおりますが、攫われたことが確定すれば親元に返します。
宰相閣下は、攫った者は確実に捕らえます。
捕らえて、攫った子の身元をはっきりさせます」
私は聞くのが怖かったが、聞いてみた。
「攫った人は?」
「聞きたいですか?」
「…」
姉姫は笑った。
「殺したりはしませんよ。犯罪奴隷として売ります。
別の子を買う資金になりますから、というのが宰相閣下の方針です」
いや、それも怖いんですけど…
「じゃあ、ここにいるのは親に売られた子がほとんどってことね?
そういう子は帰したりすることはないの?」
「ありえません」
その言葉には少し怒りが感じられた。
「子を売るような親に子を返してどうなると言うのでしょうか」
「それはそうだね…」
「みなさま~!おやつの時間ですよ~!」
そう言いながら沢山のおやつを持った侍女を従えて妹姫が現れた。
「みなさまもどうぞ、一緒に召し上がりましょう」
買った奴隷と共に、姫がおやつを食べる。
それだけでこの国の素晴らしさが語れる気がした。




