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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第五章 渇愛

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第104話 ゆうなと傷の意味

「このままじゃ、はるま君が死んじゃう!」


さっきから全力で回復しようと神聖力を注ぎこんでる。


全然回復しない。


「治る?きっと私をかばってくれたせいよね」


「ヘレンのせいじゃないわ。

時間がかかるの、お茶でも飲んで気楽に待ってて」


ヘレンにはそう言ったが、回復の兆しが全く見えない。


力が足りないのかな…どれだけの力があれば回復するんだろう…


「聖女の力の使い方がわかってへんなあ」


隠者の声が頭に響く。


「力の…使い方?


聖女の力で出来るのは、魔力の流れを止めること、力の底上げ?


だから、私は神聖力の自然回復能力をさらに底上げさせようと…」


「それが間違ってる言うとんねん。


聖女の力の根源は知識の力やろ」


「知識の海の中から治し方を探せってこと?」


「違うやろ。


君は何のために力を行使するんや?」


「はるま君を治すため」


「君が今やっとんのは?」


「回復を促す」


「目的はどっちやねん?」


「え?


あ、はるま君を治すことと回復させることは違うってこと?」


「目的と手段をはき違えんな言うことやな」


「神聖力を使おうとすることがそもそも間違ってるってことか」


私は気持ちを静めて、聖女の力に願う。


「はるま君を治したい。」


はるま君が元気になり、微笑む姿を想像する。


「はるま君を治したい!そのための力を!」


これは…神聖力?魔力?精霊力?わからない。


いろんな力が混じってはるま君を包み込む。


「はるま君!」


はるま君の顔色が良くなっていくのがわかった。


「坊主はこれで大丈夫やろ」


「聖女の力は知識の力、

私が頭でっかちにこうすれば治るって余計なことしない方が良いってことね。


聖女の力をなんのために行使するのか。


あれってこういう意味だったんだ」


ひとまず峠を越えて一安心だ。


ヘレンははるま君の手を握りずっとすすり泣いている。


とっさに人を守れるはるま君が頼もしく思える一方で、

少し心配の種が増えた気がした。


「それはそうと、なんで助けてくれなかったの?」


「勝てるはずの戦いに勝とうとしとらんかったからや」


「だってあんなに強いんだもん!」


「そやかて勝てたやろ?あれは強いよ。


そういうたかて嬢ちゃんらに勝てんわけやない。


なんで勝とうとせんかった?」


「勝てるわけないと思ってたから…」


「君らが森でおとなしく暮らすつもりやったら我等が守ってやるつもりやった。


奴の子供らが危険にさらされるのは、困るからな。


せやかて君らは獣王国に行くんやろ?なんのために?


世界を変えようとするもんが、我等に守られてるだけで良いわけないやろ。


己らで戦わんかいや」


「そうか…守ってもらいながら人を助けたいなんて、おこがましかったかもしれないね」


「そこまでは言うとらんよ。


死なんようには守ってやる。


でも腕の一本や二本や三本、失ったところで戦う覚悟がないなら、

世界を変えられるなんて驕らん方がええな」


覚悟が足りなかったのかもしれない。


でも、私達にその覚悟が出来るだろうか。


「さっきから聞いてたら、あんた何言ってるの!

死ぬのなんて、嫌に決まってるじゃない!


でも、苦しむ人をほってもおけないわよ!」


「おお、嬢ちゃんの考え方も嫌いやないでえ。


けどな、その考え方はいつか破滅を迎えるわ。


はるまとゆうなが破滅に向かうのを止めるのも、

我等の役目なんや。覚えといてんか。」


ヘレンはそれ以上何も言わなかった。


隠者の言うことも正論だとわかる。


でもヘレンが言うことももっともだ。


命を捨てたいわけじゃない。

でも、そんなことを考える暇もなく人に手を伸ばしてしまう瞬間はある。


「きついこと言うてごめんな。

間違えてる言うてるわけやない。


正しいと証明したいなら、最善を尽くせ言うとるだけや」


そうだ。私達はもっと考えないといけない。


それこそ命懸けで、人生最後の日までかかっても、考え続けなきゃいけないんだ。


「ん、んん」


「はるま?はるま!起きたの?」


はるま君がうめき声を上げる。


凄い汗が出てきてる。


「治ったんじゃないの?


まって、もう一度やってみる」


「君は回復ってなんやと思っとるん?」


「え?怪我や病気を治す?」


「怪我ってのは切れて血が出るとかでわかりやすいな。


病気ってなんや?」


「え?体の不調とか…死ぬような体の中の病気?」


「病気の説明の中に病気が出たら駄目なんじゃなくって?」


「あ、そうか。いやでも...なんだろ?治さないといけないこと?」


「なら、はるまが背が低いの気にしとったら病気か?」


「それは子供だから」


「大人になっても背が低い人は病気か?」


「違うと思う…」


「なら目が悪い人は病気か?


辛いのが苦手なんは病気か?」


「目が悪いのは…病気かな。


目医者さんがあるから!」


「ほか医者があったら病気か?医者が言うたら病気か?」


「え、わかんないよ。」


「食糧難で辛い物しか食べ物が無い世界なら、辛いの食べられへんのは病気やろ?」


「あ、そうかも。


ものの見方で病気かどうかも変わるってこと?」


「そういう病気もあるってことや」


「よー考えてみーな、死に至る状態が病やって言うんやったらやで?


甘い物食べ過ぎたら死ぬ言われても、甘い物食べずにおれんのは病気やろ」


「それが…はるま君の状態と?」


「はるまは、怪我が治った疲れと勝てんかった戦いを悔やんで苦しんでる状態や。


ほっときゃ勝手に立ち直るけど、治してやりたいんなら治してやりゃいい」


「治った結果忘れるとかもありそうだね。


そっか、病気を治すにも同じような問題があるかもしれないってことだね」


「そうや。治すってのはそういうことや」


「ファ…ファンタジーで…見たこと…ある。

ポーション…で、筋肉疲労を…治したら、力が強くならないって…」


「はるま君!よかった!気が付いたんだ!」


「坊主はようわかっとるやんけ。


そういうこっちゃな」


はるま君がにっこり微笑んだ。


「怪我をした理由に意味はなくても、

怪我をした結果に意味が生まれることもあるってことね」


「なんや、わかっとるやんけ」


「父…さんの、言葉…だね」


「はるま君はもう話さなくても良いから寝ときなさい」


私は、はるま君に毛布を掛けて目を瞑らせた。



はるま君が寝てからも、ヘレンはずっとはるま君につきっきりだ。


額のタオルを頻繁に変えてくれてる。


ずっとぶつかってたけど、これも怪我の功名って奴かな。


私はヘレンの肩に手をかけて休むよう促した。


「ヘレンが無理すると、はるま君もゆっくり眠れないかもでしょ?」


「そ、そうだね。もう少ししたら休むよ」


心配で見ていたが、気が付いたら私も寝ていた。

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