第102話 ゆうなとヘレン
「お父様!孤児院を作るってどういうことなの!」
勢いよく扉が開けられる。
そんなに孤児院を作りたくないんだろうか。
すごい剣幕だ。
「何故、孤児院を作る話になったの?答えて下さい!」
「それは…隠者様がご所望されたからじゃ」
「孤児院作るってそんなに悪いことじゃないんだし怒らなくても」
「これが怒らずにいられますか!
私が何年も前から何度も何度も、
どれだけ度言ってもそんなくだらないものと言ったくせに!
隠者様が所望されたから作る?
こんな馬鹿にしたことがあって!?」
あ、作るのが嫌だったんじゃないのか。
自分の話が通らなかったのが嫌だったんだ…
「そもそも隠者ってだれよ!
この子達?
この子達の話なら聞くんだ?
へ~そうなんだ!」
「ヘレン、そんな言い方はよさないか。
まずはお客様に挨拶をする!」
「はじめまして!私はゆうなよ!」
私はヘレンの手を取り握手をした。
「俺ははるま。よろしく。」
ヘレンは少し不機嫌そうにしながらも、
私達に向き直りスカートのすそを上げてお辞儀する。
「初めまして、ヘレンと申します。」
挨拶をするその姿は上品なお嬢様に見える。
「ねえ!お嬢様ってどうやってなるの?
塾とかで教えてもらうの?」
私は気になった瞬間、思わず聞いていた。
「家庭教師が厳しいのよ!
やれスプーンの角度がどうとか、
やれ扉を開くスピードがってね。」
「あんまり教育の成果は見えないような…」
はるま君の一言にヘレンが詰め寄る。
「ちょっと!あなたそれどういう意味かしら?」
「いや!そんな教育なんていらなさそうなお嬢様だなあと…」
「なんか胡散臭いガキね!」
「私の弟なの!」
「そうなの?あなたも大変そうね。」
私とヘレンは意気投合して、
この世界のお嬢様の大変さをたくさん聞いた。
「それで、ヘレンは孤児院を作りたいんだよね?
領主さんから許可ももらったし、作る?」
「そう、作りたいんだけど、それだけじゃ足りないのよ。
隣の街にも飢えてる子供はいるし、他の国にもきっと…」
「素敵!ヘレンは世界中の子供達を救いたいのね」
「そんな…私にどこまで出来るかわからないけどね」
「よし!とにかく他の街を見てまわろうよ!」
はるま君が意気込んで言うとヘレンが怒鳴りつける。
「何よ勝手に決めて!出しゃばらないで!」
「ご…ごめん」
はるま君がはるま君だ。
最近のはるま君は生意気だったから、これぐらいがちょうどいい。
「お父様!隠者様は孤児の現状を見ることをご所望です。
私が、このわたくしが、案内して差し上げてもよろしくって?」
「いやしかし…」
「我等はそんな所望は…」
「よろしくって!?」
「わかった。わかった。
馬車と護衛を用意しよう」
「我等の意思は…」
有無を言わさぬ圧にすごい行動力…
「ゆうなちゃんみたいだ」
「なんだと?」
はるま君が不思議そうな顔でこっちを見る。
私は…こんなか?
領主さんが用意してくれた馬車はかなり大きかった。
馬に翼は生えていないが、馬車はペガサスの馬車を思い出させる。
翼は生えていないが…ん?
「角だ!ユニコーンだ!」
「あら、ユニコーンで興奮するなんて、本当に子供ね」
「ゆうなちゃん!ほら!ユニコーンだよ」
「へ~角が生えてるね。強そう」
次の瞬間、はるま君が角で叩かれた。
「痛って~!なにすんだよ!」
ユニコーンは頭を下げて、私の方に頭を擦り付けてきた。
「ユニコーンは女性が好きなのよ。
そんなことも知らずに近付くなんて、本当に馬鹿な男ね。
それにしてもゆうなにはすごい懐いてるわね。
私にもそんなことしないわよ」
「そ、そうなんだ。
なんでだろうね」
「ユニコーンは清らかな乙女に好意を示すって聞いたことあったな。
清らかな乙女?ゆうなちゃんが?」
「知らなかったの?こう見えて私、聖女なんだけど?」
はるま君が笑いながら言った。
「聖女の力を持ってることは知ってるよ。」
「ユニコーンさん。
すきがあったらいつでも、けりをぶち込んで良いからね。」
「なんでさ~ユニコーン嫌いになってきた…」
はるま君はこれでいいんだ、可愛い弟のはるま君で。
領主さんに綺麗な服を買ってもらったアダムとイブが笑いながらこちらを見ている。
二人は目に見えるように体調が良くなって、笑えるようになって安心した。
「あだっ!いてっ!おしっりがっ!」
「ほんっとうにうるさい男ね。
黙って座ってられないのかしら」
「だって!これ、すっごい揺れて!」
確かに乗り心地は最悪だ。
「馬車なんてこんなものよ。
何を言ってるのかしら」
「馬車は、空飛ぶ方が良いね」
「何それ!空飛ぶ馬車?欲しい!どこに売っているの?」
「ペガサスって空飛ぶ馬がいてね。
どこにいるのかはわからないよ!」
「なんだ。やっぱり役に立たない男ね」
「うぇぇぇぇ!」
「あ!アダム大丈夫?」
窓から首を出し吐き出すアダムの背中をさする。
イブもやばそうだ。
反対側の窓から首を出させる。
私とはるま君も昔は車酔いがすごかった。
だからパパもママも、家族旅行は電車移動にしてくれたなあ。
パパなんて自分の車さえ持たなくなったんだった。
私なんて五分の距離でも車に乗ると吐いていた。
可哀そうに…
だから二人の辛さはわかる。
「隣の街まではどれぐらいなの?」
「もうすぐ着くわよ。
ほら!見えてきた!」
「もう少しだから、頑張ってね」
街の入り口に差し掛かると、はるま君、アダムとイブが飛び出した。
御者のおじさんが預かり所に馬車をつないでいる。
私とヘレンは伸びをした。
「ん~疲れた~!」
「あなたの弟、軟弱ね。
あんなのと旅をするなんて、あなたも大変でしょう。」
「そうだねえ。まあでも強いんだよ?」
「あなたの方が強そうだけど?」
「それも…そうかも」
私達は二人で笑いあった。
「さて!まずは街の状況を見て回りましょうか!
軟弱者のはるま君は寝てても良いわよ?」
「いくよ!二人だけだと街吹っ飛ばすとか言い出しそうだから」
「最悪な街ならね~」
街を歩いているが、それほど治安が悪そうには見えなかった。
「領主さんの言っていた盗んだり奪ったりの世界ではなさそうだね。」
「ここは割と良い街よ。
私もお父様にたまに連れてきてもらうの。
うちには無いスイーツのお店とか、とてもきれいな生地のお店があるわ」
「子供を捨てたりも?」
「というより、売買されてるわ」
「やっぱりあるんだ。奴隷だね」
「多くは獣王国に売られるって聞いたことがあるわ」
「獣王かあ。怖そうね」
「ヘレンはそれをどうしたいの?買って孤児院で面倒見る?」
「それが困ってるのよ。きっと全財産はたいても足りやしない」
「獣王は凄いお金持ってるのかな。
獣王ってそもそも奴隷を買ってどうしてるんだろう」
「けものの王ってぐらいだから食べる?」
「家畜を買ってるイメージなのかな?」
「そんな!」
ヘレンを見ると顔が真っ青になってる。
「大丈夫よ。そんなひどいことになってないかも」
私はそう言いながらヘレンの背中をさすった。
「これって、街を見て回るより、獣王国見に行く方が早くない?」
「でも…獣王国は危険すぎるわ。お父様にも駄目だって言われてるし」
「それはそうか…でもさ。
世界を変えたいなら、世界が変わるぐらいの危険にも飛び込まないとね。」
「あなたはまたそんな偉そうに…
それはそうかもしれないけど」
「危ないことがあっても、こっちのは最強の隠者砲があるしね」
「我等を便利道具扱いするな」
「でも守ってくれるよね?」
「なんかお前ら嫌な奴になっていくな」
「人は大人になると嫌な奴になるのよ」
「そうか、確かに奴も好きだが嫌な奴ではあったな」
「奴隷の売買してる所はどこですか?」
私はとりあえず道行く人に聞いてみた。
「な!ゆうなちゃんそんな直球で…」
「聞かないとわからないじゃない」
「ヘタレはるまさん?ゆうなの邪魔をしないで」
「ヘタレ言うな!」
「あっちだって!」
私はみんなに方向を教えながら歩いた。
「あ!あれだ!」
見つけた私は意気揚々と走った。
「ゆうなちゃん!走ると…
あ~あ~」
気が付いたら転んでいた。
何につまずいたのだろうか…
何も無かった。
擦りむいた膝に手を当てて治す。
「なにそれ!神官様みたい!」
神官?この世界にも聖女のような存在がいるんだろうか。
「神官様っていうのは怪我を治したり出来るの?」
「うん、大けがを治したり医者に治せない病気を治したりするらしいわ」
「機会があったら会ってみたいな。」
「街に戻ったら会ってみましょう。
新しく神官の力を授かった人が教会にいるのよ。
前の人は急に力がなくなっちゃってね」
聖女が居なくなったことと、
シルが聖女になったこととか関係あるのかな。
そんなことを考えながらも、私達は奴隷商会の門を叩いた。




