第101話 ゆうなと欲しい気持ち
「お前らのような者に、領主様はお会いにならない。
それなりの対価を持って出直せ」
街のことを聞くために領主の所に来たけど、
やっぱり子供が急に来ても会ってももらえないよね。
それにしても、ここでも何かを欲しいになるんだ。
全ての人が欲しがる世界…でも健全に努力もしてる…なら出来ない人は?
私はアダムとイブを見ながらそう思った。
「隠者の使いで来た。領主にそう伝えろ!」
はるま君が急に凛々しくなった?
私達は隠者の使いじゃない…でも隠者はいるし、良いのかな?
「は?隠者?なんだそれ?」
やっぱりそんなうまくは行かないか…
「瘴気の番人だよ!」
「瘴気ってなんだ?」
約定は…どうした?
押し問答を繰り返してると、執事っぽい人が走ってきた。
「申し訳ありません!隠者様の使いの方でしたか!」
「今すぐ面会の準備を致しますのでこちらへ!」
衛兵さんが驚いている。
「へへへ!ありがとう」
そう言いながら、はるま君が衛兵さんにどやってる。
こういうはるま君の子供っぽい所は、姉として本当に困る。
「はるま君、挑発しないの」
「だって、あいつが…」
「あの人は衛兵としての仕事をしただけよ。
そもそも子供だけで隠者の使いってのだけでも怪しいのに」
「ゆうなちゃんだって…」
しばらくすると、男の人が慌てて入ってきた。
「隠者様?隠者様は?」
「えっと、私達は使いで」
「使い?隠者様はおらんのか?
おお!いらっしゃるではないか!」
男が膝まずく先には、さっき買ったジュースが宙に浮いている。
見えない何かを隠者様だと思ってるのか…
もしかして!隠者が見えないのって私達だけ?
「空に浮かぶそのジュース、隠者様なのでしょう?」
あ、見えてなかった。
「そうだ。我等は隠者と呼ばれる存在」
「お会い出来て光栄にございます!」
男は床に額をこすりつける。
「今日はここな子らの話を聞いてやってくれ」
賢者もそうだった。
私達に肝心なことは教えてくれないけど、
沢山のことを教えてくれて、助けてくれる。
「なんでもお聞きしましょうぞ。
おい!茶を持て!」
「ここに」
男の後ろに執事が、ポットを持って立っていた。
進められて椅子に座った私達は、この世界のことを色々聞いた。
「皆が欲しい物の為に最善の努力をする。
それだけのことです」
「努力が出来ない人は?」
「捨てられて森に行く者もいますが…
隣町に行く者もおるかもしれません。」
「正確にはわからないと?」
「努力をしたけど、最善じゃ無かった物も同じかな」
そうだ、努力にもいろいろある。
トゥルールの市長も、
子供を売れない親を努力が足りないと切り捨てていた。
「同じでしょうな」
「この子達のように捨てられ森に行った人間は、
瘴気にさらされて飢えて死にそうだった。
その事実はどう思ってる?」
「事実は事実、悲劇かとも思いますが…」
悲劇だと思える人の心はあるんだ…
「止めようとは?」
「止められませんでしょう。
生活も出来ないほど浪費しても、欲しい物があるのならば…」
そうなんだ。努力をしてる。
自分の金で物を買ってる。
なら、生活出来るお金を残す匙加減、
それさえ覚えれば良いけど、それが難しいんだ。
「私ね。ずっと不思議だったんだ。
子供を捨てるほどお金に困ってる。
子供を捨てるほど欲しい物があるなら、
奪おうとは思わないのかなって…」
「いるんじゃない?」
「その割にはこの街は治安が良すぎるんだよ。
なんで?」
「…?」
領主がキョトンとしている。
「私に…聞かれているのですか?」
「そりゃそうでしょ」
「いや…盗みを働く者が何故いないのか…
盗みを働いたことが無いのでわかりませぬな」
「え?」
盗むって概念が無い?
そういう発想がないってこと?
いやそんな簡単な話なわけない。
「盗むって言葉はわかるのよね?
盗人って概念も…」
「そりゃわかりますよ」
「あ、そうか…
あなた達にとって大切なのは買うっていう行為なんだね。
盗んで手に入れても意味がない。
だって手に入れることが目的じゃなくて買うこと自体が目的だから」
「そりゃそうでしょうな」
もしかして…
「お金をいくらでも上げるから、
なんでも買っても良いよと言われたら嬉しい?」
「いや…それは嬉しいのか…どうですかな」
執事が口を開いた
「私には病弱な娘がおりまして、治すための薬を買えるのなら嬉しいですな」
「それそれ!そういう欲しい理由」
「しかし、この世に欲しい理由のある物など、それほどありますかな?」
そうなんだ。
欲しい理由が無い物の方が多いんだ。
「手に入る喜びよりも…欲しいと言う感情そのものの方が大切?」
「それはそうでしょうな。欲しいから手に入れるのですから」
「手に入れる過程が大切なんだね。
だから盗んだり奪ったりはしない」
「この街の者はそうですな」
「違う街もあるってこと?」
「そりゃそうですな。
だから戦争が起こる」
ここでも戦争は起こるんだ。
しかも奪い合いの戦争…
「この街でも戦争は起こるの?」
「起こらないように努力はしております。
兵を整え、不可侵条約を結び…
何よりこの街は背後が瘴気の森ゆえに、責めにくいのです」
「なるほど、だからすぐそこに瘴気の脅威があるのに発展するんだね。
そしてそれを維持するために隠者との約定が必要と…」
「隠者様を呼び捨てにされるのは」
「よい!この子らは我等の巫女、子供とでも思ってもらおうか」
「は!そのような方とは存ぜず御無礼を!」
領主は頭を下げる。
「いいよ。俺達はただの子供、そう思って接して欲しい」
「だが、この子らはこの街を消し炭にする力を持っておるぞ」
隠者はキャッキャキャッキャと笑ってる。
なんだかたちが悪い子供みたいだ。
「とにかく、奪われるのを防ぐために防衛費がものすごくかかる。
だから街を守るための税を取ってるってことよね。
その取った税から森に捨てられる子供を守ることは出来ない?」
「税は取っておりますよ。全ての取引に2割ほど課税しております」
消費税二十%ってことかな。
「しかし、子供を守ると言いましても…」
「孤児院を作るとかじゃない?」
「それじゃ子供が捨てられること自体は解決しないよね」
「孤児院と言うと捨てられた子供達を育てる場所ですな。
それなら作れますし、運営に適した人物にも心当たりが…
隠者様がご所望とあらば、森を騒がせた責任もありますしな」
「それはそれでお願いします!」
「我等は別に…」
私は隠者の方をにらんだ。
「わ、わかったよ。我等は所望する」
執事が領主に向かって困った顔をした。
「お嬢様が怒りに…今呼びますか?」
「あ、ああ。呼んでくれ」
お嬢様が孤児院作ると怒る?
孤児院なんてお金の無駄よとか言うわがままお嬢様なのかな。
「あと、子供が捨てられない制度が必要だと思う。
生活費まで無くなるほど物を買ってはならないって法律とか…」
「それは難しいですな。
個人の持つ資産を管理することは出来ないですし、
物を欲しい気持ちも捨てさせられない」
「違うのかも…
孤児院が悪いみたいな考え方しなくても良いんじゃない?
アダムとイブが親元に帰れる方が良いかって言うと微妙なんだよね。
子供を捨てるような親なら、孤児院にいる方が幸せでしょ?」
「予算の都合もありますが、
無理に戻してまた捨てられるより、
幸せに暮らせる孤児院を作る方が良いでしょうな」
「でも子供を捨てるほどの物欲が…」
「ゆうなちゃん、人の価値観は俺達には変えられないよ。
魔王なら滅ぼす!ドーンかもしれないけど…」
そうよね。
魔王のそれが正しいってわけじゃない。
間違っても無いのかもしれないけど…
「まずは、今出来ることを考えようよ」
「それは…」
確かにそうなのかもしれない…
私には出来ない。
いや違う。
踏み込むべきじゃないのかもしれない。




