第100話 ゆうなと物欲
「世界の全てを私の力で浄化するわ!」
私は意識を集中する。
世界の全てを綺麗にするイメージ…
「いや、無理でしょ。
絶対無理だから辞めときなって」
「やってみないとわかんないじゃん」
「いや、わかるでしょ。
それが出来るならトゥルールの聖女だって、
魔王の魔法完全無効化とかしてたでしょ」
「私は特別かもよ!」
「無理だって、倒れられたら面倒なんだから辞めてよ」
「面倒って何よ?
あ、そうだ!
二人とも名前が無いと不便だから、名前付けても良いかな?」
「アーサーとアリシアは?」
「なんでよ!はるま君適当過ぎ!
知ってる人の名前付けたらややこしいでしょ」
「そう?じゃー何かある?」
「アダムとイブとかどうかな?」
「良いんじゃない?」
私は女の子に向かって言う。
「あなたはイブね」
「私…の名前がイブ?」
「そう、イブ!」
男の子に向かって言う。
「あなたはアダムね!」
「僕の名前が、アダム?」
「そうよ。あなたが、アダムね!」
「二人とも顔色良くなって良かった!
やっぱり森の瘴気が駄目だったのかな」
「そら瘴気の中にどっぷり浸かっとったら体調も悪うなるやろ」
「瘴気が悪いって分かってたのかよ」
「勝手に森に住み着いとるんやからしゃーないやん」
「このお金もらって良かったの?」
「我等は使いもせんのに、
勝手にお布施言うておいていきよるさかい、
あってもしゃーないねん」
「お金が役に立つ社会だといいな」
「文明的ってことね。
あ、街が見えてきた!
結構大きな街だね。
大きな建物もあるし、人も多そう」
「子供を捨てないといけないような、貧しい感じには見えないな…」
城門のようにはなっているが、門番は居ない。
私達はそのまま街の中に入った。
「もの凄い活気があるね」
道を歩いていると、店という店が繁盛してる。
様々な物を買い求める人であふれていた。
「あの森の状況を考えるとありえないな…」
「なんでこんな状況で子供を捨てるんだ?
貧富の差が激しいとかか?」
「アダムとイブは、この街に住んでたの?」
「わからない…ずっとあの森にいたから…」
「そうか…」
私は通りすがりの人に聞いてみた。
「貧民街みたいな所はありますか?」
「なんだいそりゃ?」
「仕事もお金も無くて飢えてる感じの人がいる所…」
「欲しい物だらけのこの街で、働かないやつなんかいやしないよ」
「そうなんですね。ありがとう。」
「すぐ使っちまうから、金のない奴はいっぱいいるけどね」
そういうと女性は忙しそうに去って行った。
「こういう街なら、やっぱり情報収集は酒場かな?」
「私達は、お酒飲めないから駄目でしょ」
「お酒飲めないと酒場は駄目なの?酒場って冒険者の交流の場でしょ?」
「アニメやゲームならそうかもだけど…
酒の場って書いて酒場だからね。
とりあえず食事するところに行ってみる?
あ、あそこは?看板に肉の絵が書いてある!」
「そうだね!あそこに行こう。」
お店に入った私達は店員に促されるままに席に着いた。
「おすすめのお肉料理を五人前お願いします!」
水が四つ運ばれる。
隠者が姿を消したままだからだ。
「隠者の隠れるってそういうことじゃないと思うよ?」
「そうなんか?なら隠れるってどういうことや?」
「隠居する感じだから、人里離れて人前に出ないってことだと思うんだよね」
「姿消してても人の街に来たらあかんってことか?」
「そうだね。まあでも良いんじゃない?やりたいようにやれば」
「隠者も難しいもんやな。
賢者は賢そうにしてたらええんやろ?その方が簡単やったかな」
「なりきるっていうか、そういう遊びなの?」
「奴に教えてもらったんや。
キャラ付け言うんか?」
「パパに?パパ、何をさせたかったんだろ?」
「まあ、その辺はな。いろいろあるんや」
そんな話をしていると、料理が運ばれてきた。
店内にそれほど人がいないことを確認して、店員さんに街のことを聞いてみた。
「この街で子供を捨てるような人に、心当たりありますか?」
「ああ、たまにあるね。
まあこの街は欲しい物であふれてるだろ?
考えなしに買い物して金が無くなったりしてね。
食費も無くなっちまった連中が口減らししたりね」
「え?カバン買ったらご飯食べられなくなったから、子供捨てるみたいなこと?」
「ま、そうだね」
「うそだろ…」
「トゥルールでも、金がないから子供を売るとかはあったけど、
子供も貴族の使用人になるって話だったし、
そうしないと大人も子供も飢えて死ぬって状況だった。
欲しい物買うために子供を捨てる?
まさか…」
「その、欲しい物を買うために、子供を売るとかって人は無いんですか?」
「あんまり聞かないね。
子供を買えるほど蓄えあるやつが、いないんじゃないかな」
「いや、子供を働かせるとかは?欲しい物のために」
「たまにいるんだよ。後先考えないやつが」
「エールお代わり~!」
「あいよ~。
ちょっとごめんね」
他の客に呼ばれて店員さんは行ってしまった。
「子供を売るほど後先考えない?欲しい物のために?」
「はるま君知ってた?
パパの会社が大変なことになったことがあったんだけど、
お金が無くても、
パパは私達が欲しいって言ったお菓子やおもちゃ買ってくれてたんだ。
自分はご飯抜いたり歯が痛いのに歯医者行かなかったり、持病のお薬すら飲まずに…
そんなパパやママを持った私達には理解出来ないよね。
死ぬからって子供を売る親すら理解出来ないのに、
欲しい物があるから子供を捨てるなんて…」
「ゆうなちゃん、それ駄目だよ。
うちと比べちゃ駄目。
俺達は良いパパとママに恵まれて幸せだった。
それだけに感謝するべきだし、それだけの話なんだ…
そうじゃない家の子だっている。
数万の奴隷を生き埋めにしようとしてるのを止める為に、
親を殺す人だって見てきたでしょ?
俺達の世界にだって、
親を殺したいほど憎んでる人もいるし、
子を大切に思わない親もいる」
アダムとイブは何も言わずに食事を続けた。
お肉が思ったよりおいしい。
やっぱり、全てが充実した街に見える。
そして、隠者の食べる姿…
フォークとナイフが勝手に動いて肉が消えていく姿は異様だ。
やっぱり…隠者ってそういうことじゃないと思う…
食事を終わらせて店を出た私達は、あても無く街中を散策した。
街はやっぱり活気があって、買い物を楽しむ人がたくさんいた。
ただ、買い物姿に少し違和感があった。
この人達は、本当にそれが欲しいんだろうか…
何がとは言えないけどなんとなく、
そんなことを思わせる姿だったんだ。
宿を取った私達が受付をしていると、一人のおじさんが駆け込んできた。
「これ見てくれよ!とうとう手に入ったんだ!」
おじさんが手に掲げているのは…変な仏像?だった。
「金貨五枚もしたんだ。一か月も待ったんだ!全財産をはたいた甲斐があったよ!」
全財産…?
この変な仏像に?
「それは凄いじゃないか!なんか私も欲しくなってきたよ!金が六枚でどうだい?」
「なんで…あれが欲しいの?」
私は驚いて、受付の人に尋ねた。
「欲しい物に理由はないさ!」
「あれに全財産の価値があるの?」
「変なこと聞くね。欲しい物が居れば価値が付くのは当然だろう」
「動画で見たけど、株ってやつみたいなものかな」
はるま君が分析しだした。
「株ってのはいくらの価値がありますよって権利らしいんだけど、
欲しい人が居ればどんどん価値が上がるし、
欲しい人がいなくなったら価値がなくなるから損するって…
そんな感じなのかな」
「私達の世界にそんなのあるの?
子供にはわからない価値が本当はあるんじゃない?
そんなあやふやなものにみんながお金を出すとは思えない」
「でも、あの仏像も金貨六枚で売れれば金が一枚儲かるわけでしょ?
無駄ってわけでもないし、価値はあるんじゃない?」
「みんながあんな感じでお金を使って、ご飯食べられなくて子供捨てるってこと?」
「あんな物のために…」
「そうは言うけど、そのために必死で働いてるんだからね。
あんたたちは何のために仕事してるのさ」
私達はまだ仕事をしていない。
なんのために?生きていくために必要だから仕事する?
何か欲しい物があるから?
パパはなんのために仕事してたんだろう…
なんのために…
それから私達は部屋に案内されて、夜遅くまで話をして眠った。




