地の利があるのでいけそうです
そっと廊下を出て、向かいの部屋の前に立つ。
当然のようにピッキングして入って行く。
そこは、物置部屋。
「誰も使ってないんだ」
床には白く埃が溜まり、天井の隅には所々蜘蛛の巣が張っていた。
「一番良い部屋なのに」
丸い椅子を避けると、小さなフロアハッチ。
軽く持ち上げて開き、梯子を使って降りて行く。
下は広々とした空間。
やけに大きなベッド。
品の良い家具が並ぶ。
ノアはテーブルの上にタバコを置くと、奥の浴室へ向かった。
部屋の中に石鹸の香りが漂っていく。
キュッ。
蛇口を締める音。
体に残る水粒をタオルで拭き取り、肩にかけた。
クローゼットを開き、スーツを取り出す。
シャツに袖を通していく。
「配信されるなら身なりは整えないとね」
箱の中の非常食を手に取る。
ポリ、ポリと齧りながら、テレビをつける。
ボタンを操作すると施設内の防犯カメラの映像が流れた。
「とりあえずニコだな」
ニコは客間にいた。
ベッドで普通に寝ていた。
「さすがニコ、肝が座ってる」
ノアはクスッと笑うと通路の監視を目で追った。
両手を上げ体を伸ばし、立ち上がる。
テレビからアラームが鳴る。
「ん?誰か気付いたかな」
ポケットに大事そうにタバコを入れ、先ほど奪い取った銃を持った。
「行くか」
突然、奥の扉が開いた。
銃を持った男たちが雪崩れ込む。
「動くな!」
「あれ?早いね」
奥にレオンが立っているのが見えた。
「またお前かよ……」
レオンは険しい表情のまま、視線を合わせようとしなかった。
「……ニコが危ないんだ」
何かに押し潰されそうな低い声。
「ニコなら客間で腹出して寝てる」
「俺は、また騙されたのか?」
「知らないよ」
ノアは呆れたように首を左右に振る。
「もう邪魔すんなよ」
そう言うとゆっくり後退りし、先ほど降りてきた梯子に手をかけた。
留め具に向け銃を撃つ。
乾いた音と共に金属が弾け飛ぶ。
次の瞬間、梯子はノアごと一気に巻き上がっていった。
「上だ!」
「殺さず捕えろ!」
バタバタと走り去る男たち。
「……それは無理だろ」
レオンの声が部屋に残された。
ノアは埃に塗れた部屋を真っ直ぐ抜ける。
「そこまで配信したいんだ……」
小さく息を吐く。
扉を開き、廊下に出ると男たちが声を出し、ノアへ向かって走ってくる。
「こっちにいるぞ!」
「えっ?撃たないの?」
楽しそうにニヤリと口端を上げると、非常ボタンを拳で強く叩きつけた。
大音量のサイレン。
廊下に並んだ扉が、自動で一斉に開く。
どこかで呻き声が聞こえた。
「何人か潰れた?」
ノアは開いた扉の後ろに飛び移る。
扉を覗き込む男を正面から殴り、顎を蹴り気絶させた。
扉の反対側に隠れた男。
ノアは思い切り扉を何度も蹴り、潰す。
「戦闘員の再教育が必要だな」
そう呟くと足元に寝転ぶ男のポケットを漁り、タバコを拝借した。
「一本、もらうね」
口に咥え、火をつけた。
「うま……」
ノアは扉に背をつけ座り込んだ。
ゆっくりと煙を吐く。
目を細めて味わっていた。
「煙が上がってるぞ!あそこだ!」
男たちが声を上げる。
ノアは渋々、火を消し扉の後ろに身を隠しながら移動していった。
人質のいる部屋まで、あと少し。
その頃──
当人であるニコは、気持ちよさそうに涎を垂らして眠っていた。




