処刑まであと十時間もあります
静まり返る部屋。
ザビィが思い出したように声をあげる。
「こいつを拘束しろ」
「ああ」
レオンが立ち上がる。
「もう眠いからソファにしてよ」
「だめだ」
ノアは渋々椅子に座り、自分から手を後ろにまわす。
レオンは手際よくロープを絡めていく。
ザビィが訝しむように眉を顰めた。
「なんで急に……」
廊下から無数の足音が響く。
扉が開くと中に何人もの男たちが雪崩れ込んできた。
カチャカチャと金属の音がなる。
一人の男がザビィの肩に手を置く。
「無事に拘束出来たんだな」
「え?あ、はい」
歯切れの悪い返事。
視線を落としながらザビィは答えた。
「ねえ」
「それで、僕はいつ殺されるの?」
椅子に括られたノアは退屈そうに男たちを見回した。
「あと十時間後」
短い返事。
「お前の処刑は中枢幹部達に生配信されるからな」
「同接数とれるかな」
ノアはニヤニヤと煽るように笑う。
「待て!トップから降ろせばいいんだろ!」
レオンが男に掴みかかる。
一斉に男たちから銃が向けられる。
「離せ。……妹がどうなってもいいのか?」
ハッと何かに気付き手を引く。
「……騙したのか」
「お前が勝手に勘違いしたんだろう」
男は、さも楽しそうに笑い声をあげる。
つられるように周りの男たちも声を出す。
レオンは拳を強く握りしめた。
「バカだなあ」
ノアは天井を見上げて呟く。
「レオンも、イヴも……」
イヴは肩を揺らし、ぺたんと座り込んだ。
顔を覆った指はカタカタと震える。
男は見張りをつけ、部屋を出て行った。
「あと十時間あるなら寝ていい?ザビィ起こして」
「は?」
「風呂入りたいから九時間後あたりで」
部屋の空気をぶっ壊すノアに戸惑うザビィ。
「お前、何か話とか……」
「さっき済んだろ」
ノアの瞼がゆっくりと閉じていく。
ザビィは、なぜかイヴとレオンに気を遣っていた。
「と、とりあえず各々部屋に戻れ」
ゾロゾロと部屋を出て行く幹部たち。
「ノア、私との決闘も配信されるらしいよ」
ステラがノアの耳元で楽しそうに囁く。
「……あれ?もう寝てるし!」
つまらなそうに眉を寄せるとステラは部屋を出て行った。
ザビィは書斎の席に座った。
目の前には拘束されながら寝息を立てるノア。
カチ。カチ。
時計の針の音がやけに響く。
ザビィは居心地が悪くなり、照明を消した後、そっと部屋を出た。
黒いカーテンの隙間から朝日が差し込む。
ノアはゆっくりと目を開け、胸ポケットを覗いた。
小さく息を吐く。
「……まだある」
大切なものを失う夢を見ていた。
ノアは横目に監視の男を確認する。
部屋の中の監視はたったの二人だけ。
「ねえ」
「トイレ行きたいんだけど」
「我慢しろ」
「生理現象って知ってる?」
「うるせえな……おい、傀儡が起きたって連絡を──」
男はめんどくさそうに目を逸らしスマホに手をかけた。
ノアは椅子に脚を乗せ、勢いよく後ろに飛び上がった。
そのまま、椅子を両手で掴み上げる。
ノアの口元がニヤリと上がった。
「この部屋、防音だから」
「いっぱい叫んでいいよ」
男の悲鳴が部屋に響き渡った。
スマホはバキバキに叩き割られた。
「いたた……」
ノアの手首はロープに食い込み、赤く血が滲む。
「キツく縛り過ぎだろ。殺す気か」
壊れた椅子から繋がれたロープを解き、動かなくなった男の服を漁る。
「おっ、持ってんじゃん」
タバコを見つけて、すぐに火をつける。
煙がふわりと上がる。
「軽っ……」
無いよりはマシなただの煙だった。
そのまま本棚へ向かう。
足元の分厚い本を開くとタブレット型端末がはめ込まれていた。
宛先── Alvart。
『荷物だけ受け取ってもらえますか?』
ピコン。
軽い電子音。
『配信楽しみにしているよ』
ノアはクスッと笑うとパタンと本を閉じた。
立ち上がり別の本棚から銃を取り出す。
「とりあえず、風呂だな」
扉の閉まる音が響いた。




