これから死ぬので自由にします
赤い絨毯が敷かれた廊下を進む。
彫刻が施された扉の前で足音は止まった。
「ニコは倉庫にでも入れておけ」
「……ノア君!」
「ニコ、大丈夫だよ」
ノアはヒラヒラと手を振り見送った。
扉がゆっくりと開かれる。
中には赤と黒を基調とした装飾品が並ぶ。
「おい、ここ僕の書斎……」
不満げに部屋を見渡す。
「勝手に使うなよ」
そう言いつつ真っ直ぐ本棚に向かう。
一冊を手に取り、ソファに横になる。
「お前!なに勝手に寛ごうとしてんだよ」
「これ、まだ読んでなかった」
ページを捲る。
ザビィが慌てるように声を荒げる。
「待て!まずは持ってる武器を置け!」
ノアはめんどくさそうにテーブルの上に予備の弾やナイフをポケットから取り出していく。
「まだそっちのポケットに入ってるだろ」
ノアはポケットからチラリとタバコの箱を見せる。
「あと一本しかないから」
「出せ!」
「やだ」
「出せ!!」
ステラがノアのポケットからタバコを取り上げる。
箱のまわりや中身を確認していく。
「普通のタバコ」
ぽいっとノアに投げて渡す。
ノアは上着の胸ポケットに大事そうにタバコをしまった。
「おい!」
「別にこれくらいならいいじゃん!」
「は?」
「これから死ぬんだし!」
ザビィは腕を組み、ノアの前に立つ。
「こいつを椅子に縛り上げろ!」
「別にいいけど、これ読んでからね」
ノアは顔も上げずにページを捲る。
ザビィのこめかみに青筋が浮いた。
「あいつらを呼べ!」
「うるさ」
ノアは眉を寄せながら読書を続けた。
部屋にぞろぞろと人が並ぶ。
エクリプスの幹部。
ノアはチラリと本から目線を上げる。
「みんな、久しぶり」
並ぶのは非戦闘員の三人。
そして、イヴ。
「ノア!アタシ……」
「勝手に喋んな!」
ビクッと肩を震わせるイヴ。
「ご、ごめんなさい……」
怯えるイヴの顔を見て、ザビィは溜飲を下げる。
「ザビィ、そんなんじゃ尽くしてもらえないぞ」
ノアは、本に目を落とし、静かにページを捲る。
非戦闘員の一人が声をあげる。
「……ザビィ、勘違いすんなよ」
「俺らはエクリプスに付くだけだ。お前じゃない」
「は?」
ザビィが背を向け、男の胸ぐらを掴みかかる。
男は表情を変えずにザビィを睨みつける。
「……やめて!アタシ達に選択肢なんてない!」
「マキシムも……お願い!」
イヴの泣き出しそうな声に、マキシムは視線を落としザビィの腕を払った。
最悪の空気の中、ノアはパタンと本を閉じた。
立ち上がり本棚に移動する。
「おい!勝手に歩くな」
「確かもう一冊あったはず……」
指を顎に当て、並ぶ本を物色する。
「別に本ぐらい良いだろ?」
「もうすぐ死ぬんだから」
全く変わらない表情にザビィの口元は引き攣る。
ノアは、本を手に取るとソファに戻った。
ギシッ。
革張りのソファが軋む音。
「それで……僕の命と引き換えにお前は何くれるの?」
「……何言って」
「交渉だろ」
戸惑うザビィをノアは煽るようにニヤリと口端を上げた。
「お前これから死ぬんだぞ!」
「そうみたいだね」
さも当然のように首を傾げる。
「僕が知りたいのは、お前の後ろ」
「誰に唆された?」
革張りのソファに深く座り、脚を組む。
「俺は……自分で……」
ノアはくすりと笑う。
「お前にそんな知恵もルートもない」
はっきりと言うノアにザビィの青筋はさらに増えていく。
「言わないなら命はやれない」
ノアはそう言うと本を開く。
その目は静かに字を追っていた。




