17 聞いていい話ですか3
二人の会話にエメリエラはそっと口元を押さえた。
目ざとく気づいたリッカードが、ニヤリと笑って向かいの二人に聞こえないように言う。
「嬉しい顔が隠しきれていないよ」
「だってやっぱり二人して可愛いのだもの。それは最初は彼女を助ける目的で暇してるサリムを呼んだけれど。モイモンから逃がすため二人を初めて会わせたあの時、すぐ『この子たちは合う』って。そう直感したのよ。あの時のわたくし表情が緩んだりしないよう必死だったんてすから」
「ミリーはゆくゆくは腕利きの仲人婦人になるんだろうな。まあ、人見知りのサリムがこんなに喋ってこんなに懐いているんだから、ピオニア嬢は中々だ」
一方ピオニアはようやく『自分は隣国の王子と隣り合って座り雑談をしている』というところまで頭が追いついてきた。
筋肉がどうのと言っている場合ではなかった。
「実家の、自警団員で、その、良い体格の人たちを見慣れて…て……ええと………」
ピオニアの表情がこわばり、言葉が徐々に歯切れ悪くなってゆくことに気がついたサリムは、全く分かりやすく困惑した声を出した。
「今更よそよそしくしないでほしい。悲しい。イヤだ」
サリムの懇願するようなその口調と、顔を赤らめてヒエエァ……と謎の声を出すピオニアに、エメリエラはとうとう堪えきれず「やだもうかわいい!」と呻きながらリッカードの肩を一発ひっ叩いた。
そこからまた話を聞くと、リッカードの方でもいろいろあったという。
エメリエラと引き離され、ほぼ隣国に住むような状態で婚約となった他国の姫君だが、彼女にも想い人がいたらしい。
事件が起こったのは去年の暮れのことで、姫君の誕生日を祝うパーティーで盛大に駆け落ちされたという。
パーティーが始まっても一向に部屋から出て来ず、使用人が呼びにゆくと
『愛する人と生きたい』
『彼との子どもができた』
『リッカードに罪はないが愛する人以外に体を触れてほしくない』
等のことが記された手紙を残して姿を消していた。
「彼女の相手は、私との話がまとまる前に婚約していた公爵の子息らしいね。同じタイミングで王国から姿を消したから。私と婚約してからも彼女はずっと素っ気なかったから、前の婚約者のことが忘れられないのだと気づいてはいたんだ。私は当事者だけど、あれは傍観者だったら相当な娯楽だったなあ。それにしてもちょっとした騒ぎがあったとはいえ警備が手薄になったことには驚きだよ」
あはは、と笑いながら手をヒラヒラ振るリッカードに、エメリエラがため息をつく。
「その手薄だった警備、あなたが手をまわしたのではなくて?」
「まさかそんな。まるで私が二人の仲を知っていてあえて静観し、気持ちに歯止めが利かなくなるほど逢引きのチャンスを整え、パーティー当日の駆落ち計画と逃走経路を先読みして会場周辺でボヤを起こした挙句、持ち主不明の馬車(早馬)まで周辺に放置したような言い方だな」
上記の理由により、義理の家族になる予定だった近隣国の王家から深い謝罪と莫大な慰謝料と弱みを手に入れて戻ってきた王子は、思い切り愛嬌のある悪い笑顔でエメリエラにウィンクした。
戻る前から、リッカードはエメリエラの婚約者の噂を聞いていた。
聞いていたというより兄や兄嫁に頼んで定期的に手紙で知らせてもらっていた。
二人とも義理の妹になる予定であったエメリエラを今でも大層可愛がっており、またモンタンド卿のことは信頼しているが、末の息子に対しては馬車に潰されて路面にこびり付いているカメムシを見るような目を向けている。
当時の婚約者とその恋人が美しき真実の愛に踊るのを眺めながら、彼はもし国に戻った場合エメリエラを取り戻すためにするべき事を考えていた。
そしてめでたく戻ってきた数カ月前から、兄夫婦が行ってくれていたモイゼスを抹消するための証拠集めを引き継いだ。
ところがそれからまもなくカメムシはピオニアへ目を付け、今回の事件に至ってしまった。
浮気の噂の時もカメムシは架空の人物を使っていたので、現実の人間を巻き込むまで暴走するとはリッカードもエメリエラも思っていなかったのだ。
「一時停止となっていた私とミリーの関係は近々、正しく元通りに復活する予定だ。しかしそれはヤツとその手下達が君にしでかした罰を受けてから」
再び悪い笑顔になるリッカードを見て、この人に目を付けられなくてよかったとピオニアはつくづく思った。




