15 聞いていい話ですか1
結局、王都に入った日の夏祭りで第二王子を見たことを打ち明けると、リッカードは感心してまたエメリエラを見た。
「ピオニア嬢の記憶力は大したものだね。その場の状況を見極める判断力も。……サリムが水の泡にしてしまったけど」
先ほどのサリムとピオニアのやり取りを思い出したらしく、言いながらまた吹き出す。
エメリエラが肩をすくめ、困ったように微笑んだ。
「リーカったらすぐ表情に出てしまうのよ。王子様がこれでいいのかしら」
「私は次男だし兄上は滅多なことでは死にそうにないし、義姉上も子供達も健やかだし。大丈夫なんじゃない?」
一緒に笑って良いところなのかピオニアは大いに戸惑った。
第二王子をもう偽名ですらなく、何気に愛称で呼んでいる部分も含めて戸惑っていた。
いち男爵家の子が聞いていて構わない状況なのだろうか。
その困惑が丸ごと表情に出ている様子をサリムが横で楽しそうに見ている。
ところで私は何をしにここに来たんだっけ?
謎の状況の中で何とか冷静になろうとしたとき、そんなピオニアの心境を察したかの如くエメリエラがまた口を開く。
「さて。まず話を進めましょう。皆でダンスの練習をするのが一番の目的だけど、他にお話もしたいの。……と言ったからには、そのお話を後回しにすると練習に身が入らないかもしれないから、お話から先にいたしませんか。特に王家の第二王子と私が愛称呼びしていることだとかね」
ピオニアは何度も頷いた。
エメリエラの言う通り、そこを聞かないと練習中もそのことばかりを考えてしまいそうだ。
愛称呼びし合っているということは、つまり『そういうこと』なのだろうとぼんやり理解はしたが、ぼんやりすぎる。
ボールホールの端に用意されたテーブル席に促され、エメリエラとリッカード、その向いにピオニアとサリムという形で座る。
面談のようだとピオニアが何となく思っていると、エメリエラは顔から微笑みを消して、切り出した。
「ピオニアさん。まずは、私の暫定婚約者のことであなたに大変なご迷惑をかけたことを謝罪いたします。それと、謝罪が今日まで伸びたことも。その頬の痣も責任を持ってうちの主治医に治させます」
目の前で公爵令嬢に頭を上げられ、ピオニアは驚き慌てて首を振った。
「エメリエラ様!どうか、頭をお上げください。エメリエラ様には何ひとつ非がございません!それどころか、私がモイゼス様達に捕まっている時にエメリエラ様は助けに入ってくださいました、あの時のエメリエラ様が本当に凛々しくて、憧がれて、私……」
一息にそこまで言ったところで、エメリエラの謝罪の中にあった言葉が気になって、途中で思わず問うた。
「――暫定とおっしゃいましたか?」
「ええ。暫定よ」
頷くエメリエラに変わって、リッカードが話を継いだ。
「色々とややこしくてね。元々は私とミリーが婚約者同士だったのだけど、他国との繋がりを作るために私が十、ミリーが八つの時に突然よその国の姫君と婚約を結び直すことになったんだ。それで最初の婚約は解消され、ミリーも父上が大きな信頼を置く侯爵家の子息と婚約し直した。それが宰相ジャナルス・モンタンドの三男、モイゼス・モンタンド。略してモイモンだ」
どデカい情報に目をひん剥いていた所へ突然の略呼びで、脳の情報処理作業が全停止する。
「モイ………?」
危うく笑いそうになったピオニアを見てリッカードは「堪えたか」とニヤァと笑った。
悪い男である。
「モンタンド家は侯爵様も上のお兄様も皆様とても優秀で、また真面目でいらっしゃるのだけど、その中において身の丈以上にプライドだけが伸びやかなのがあのモイモンなの」
頬の力を緩めたとたんエメリエラが真顔の不意打ちをしたため、ピオニアは両手で顔を覆った。
「ピオニア平気?」
おそらく気遣っていると思われるサリムの淡々とした声で、もうダメだった。




