13 小芝居
時間は昼休みに戻る。
指導部に呼ばれたモイゼスは、係の大人にいくつか質問を受けた。
「ひとまず調査なので今から失礼なことも聞くかもしれませんがご容赦ください。昨日ピオニア・バンガッセという女子生徒が校内で暴行を受けた件についてですが………」
部屋に案内されて席についたモイゼスに軽い挨拶をしてからそう切り出した担当者は、穏やかそうな顔立ちの若い男性で、常に愛想笑いを浮かべていた。
「――では、昨日はエイマル・ロブコンスとジョヒム・ボッソ厶には会っていないのですね」
「ええ。いつもは見るのですが。昨日は一度も顔を合わさなかったので、気にしてはいたのです」
形だけの聞き取り調査と見て、モイゼスは内心ほくそ笑んだ。
学園だって、たかが男爵家の娘一人で大ごとにはしたくないだろうし、モンタンド家から睨まれたくもないだろう。
「あなたやあなたの友人達がピオニア嬢に……そうですねえ、入学当初から積極的に話しかけていたという話も聞きましたが、その通りですか?」
「まあ時々そんなことはありましたよ。といっても、私は周りの知り合い達が彼女に話しかけているのを付き合いで聞いているだけでしたね。ピオニア嬢はあの見た目でしょう。私はよくわかりませんが、ほら、流行りの小説ですか?その影響もあって男子達の目を集めやすかったのかもしれませんね。本人が意図して気を引いていたのかはわかりませんが……」
市井に出回る小説などあまり興味がない風を装う。
あくまで取り巻きたちが騒いでいたということにする。
モイゼスはそもそも『小説の通りのピンク髪女だ』と騒いだことはない。嘘ではない。
続けて彼は少し表情を曇らせ、口にしにくい事があるように、
「ええと……いや、これは関係ないことかな」
と言い淀んでみせた。
「いえ、参考になるかもしれません。よろしければお聞かせください」
担当者が首を振り新たにメモを取る用意をする。
「ただ、本当に気のせいかもしれませんが。ピオニア嬢は、私へ……何と言いますか……私が困惑する類の視線を送ってくることが、よく、あった気がします。彼女も私に婚約者がいるのは知っているはずなのですがね。それがあまりにしつこかったから、もしかしたら私の周りにいた彼らが、牽制でピオニア嬢へ少し度が過ぎた言葉をかけたのかもしれませんね」
担当者は何度も頷いた。
「なるほど。あなたに好意を寄せているように感じた、と。それで見かねたご友人達が忠告を。……ということは、日頃のピオニア・バンガッセへの声かけはあなたの指示ではなく周りが自主的な動いていたと、そういうことなのですね」
「勿論ですとも。下級生の一過性の恋慕など相手にいたしません。まあそれでもピオニア嬢の意識過剰な面には多少手を焼きましたけどね。居合わせたときは私自ら彼女を諌めることもありました。無論知り合いたちの度が過ぎている時はそちらも注意もいたします。……今回のピオニア嬢の件については……エイマルとジョヒムが疑われているのですよね?悪い言い方にはなりますが、彼らは下位貴族ですから確かに下品で……特に女性に対する考え方や扱い方について未熟な所はありました。……けれどさすがに無理矢理乱暴したというのは………とても信じられないな。何かの間違いでは?」
モイセスは少し身を乗り出し、心底友を案じる目で担当者に尋ねた。
担当者も少々深刻な表情になり、首を振る。
「それはもう少し聞き込みをしてみないことには。犯人が誰であれ、とにかく学園内でそのような事件が起こったのは事実ですしね。ピオニア・バンガッセも二人の名前をあげた時は相当ショックを受けて取り乱していたそうです。怖かったろうに」
担当の言葉にモイゼスは危うく笑みかけた。
どんなにつついても生意気に口答えしてきたピオニアが取り乱していたという。
一目見てやりたかったと思いながら、目を伏せてため息をつく。
「――ええ。同意か不同意かはともかく。……そんな体になっては、この先よい嫁ぎ先など。差し出がましいとは思いますが、私の知り合いが起こしたことです。力になれることなら何でもしたいと思っています。私の友人にも、たとえ体が汚れていても心が清ければ構わないという者は沢山いますから」
そして、唇の前で両手の指先を合わせ、また少し思い悩んでみせたあと、モイゼスはハッとして目を泳がせた。「いや……まさか………」と声に出さず唇だけを繰り返し小さく動かす。
「どうしました?ご気分が優れませんか?」
担当者がモイゼスの様子を見て気遣うと、彼は両手で顔を覆って俯き、動揺に掠れた声で呻いた。
「――もしかしたら……ああ……エメリエラ………!」




